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2018年04月25日 07時49分 JST | 更新 2018年05月10日 20時24分 JST

はしかが沖縄で流行中、専門医が「旅行キャンセルより予防接種を」と呼びかけるわけ

「1回も接種したことがない方は、沖縄に来る前に1回接種しておけば、今回の流行の間は感染から守られるでしょう」

jarun011 via Getty Images
Blood sample positive with Measles virus

沖縄県を中心に、はしか(麻疹)の感染者が急増している。台湾からの旅行者が感染源となり、同県内で旅行者と接触した人に感染が広がった。同県によると、4月23日までの患者数は計71人に上る。国立感染症研究所は、ゴールデンウィークにはしか患者が報告されている国や地域に旅行する予定がある人に、ワクチンを打ったかどうかを確認するよう呼びかけている。

時折、日本で流行するはしか。どんな病気で、どんな対策が必要なのか。沖縄県立中部病院の感染症内科医、高山義浩医師に解説してもらった。

高山義浩さん


■はしかの感染力は「最強」クラス

はしかの原因となる麻疹ウイルスの感染力は、「最強」と言われていて、ウイルスが空気中をふわふわ漂って人から人へと感染します。たとえば、同じ室内にいるだけで感染するのです。インフルエンザが感染するのは、咳やくしゃみの飛沫がとどく「2メートル以内」ですが、はしかは同じ電車に乗っていても感染します。インフルエンザに比べると、その感染力は10倍と言われます。

はしかに感染すると、最初は、のどの痛み、結膜炎、鼻水やくしゃみといった風邪と似た症状が出てきます。この頃は、発熱があっても38度台です。その段階で「はしか」と診断するのは、通常の診療では難しいと思います。それで風邪薬を処方されて、後で「はしか」だと分かることはよくあります。

風邪のような症状が2~4日出た後、赤いぶつぶつ、発疹が出現します。最初は首のあたりに出て、それが全身に広がります。発疹が出てくる頃から、39度の高熱が出始めます。のどの痛みも強くなり、息苦しくなったり、結膜炎がひどくなったりと、かなり苦しい状態になります。3~4日、そうした症状が続いた後はゆっくりと回復し、発疹も消えます。はしかの特効薬はないので、解熱鎮痛薬などを使いながら体の回復を待つことになります。

ただし、この経過中にさまざまな合併症がみられます。とくに、約6%が肺炎を合併するとされ、乳児の主な死因となります。また、頻度は低いものの脳炎を合併することがあり、思春期以降の主な死因となります。また、妊婦は重症化しやすく、流産の原因になるとの報告もあります。

■治って数年後に難病になることも

はしかが怖い理由の一つに「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という病気があります。感染後に脳にウイルスが持続感染して、発症から4~8年後に発症します。知能障害や運動障害が出て、ゆっくりと亡くなってしまいます。数万人に1人と稀ではありますが、幼児期に感染したことが原因で、小学生で亡くなってしまうという痛ましい病気です。

■家族が発症したら

確実な予防方法はワクチンを接種することだけです。はしかのワクチンを2回接種すれば一生ものにできます。同居している皆さんが2回のワクチンを済ませていれば、特段の感染対策は不要です。

しかし、1回だけだと数年を経て免疫が失われてしまいます。2回目のワクチンを接種できていない家族がいるときは、すぐにワクチンを接種することで予防できる可能性があります。はしかの患者と接触して72時間以内なら、一定の発症予防効果があるとされています。

ワクチンを接種してほしい、と言いましたが、接種できない人もいます。たとえば、抗がん剤の使用などにより免疫機能が低下している人、そして妊婦さんたちです。もし、はしかになった人の同居家族にこういった方がいたら、実家に帰るなど避難することも考えてください。

■ワクチンを打った方がいい人は

かつて、はしかは日本社会に定着していました。たびたび流行が起きて、すべての日本人が大人になるまでに感染していたのです。よって、ほとんどの中高年は、すでに感染しているものと考えられます。このため、おおむね50歳以上の方は、はしかに感染する心配はないと考えられます。

一方、1977年生まれ以降、はしかのワクチンが定期接種となります。これにより、はしかが日本社会から排除されはじめます。ワクチンを接種している人が多数いることで、接種していない人でも感染せずにすむようになりました。さらに、1977年から1990年生まれまでの定期接種は1回のみだったので、この世代の、はしかの免疫は次第に落ちていきました。

こうして、はしかに感染したこともなく、免疫も十分にないという世代が日本に生じてしまったのですね。これが、しばしば発生しているはしか流行の原因です。幸い、1990年生まれ以降は2回接種が定着していますから、1977年から1990年生まれ世代がワクチンを打てば、日本社会は本当の意味で、はしかを排除することになるのでしょう

いまの子どもたちが定期接種をしっかり受けることはもちろんですが、はしかに感染したことがなく、ワクチンを2回接種できていない人は、どうか完了させていただければと思います。

■沖縄で流行、でも旅行の自粛は「過剰」

いま、沖縄で流行していることから、最近は旅行をキャンセルする動きも出ているようです。ただ、そうした動きは、やや過剰反応だなと私は感じています。

なぜなら、ワクチン接種を2回終えているのであれば、何ら怖れる必要はありません。もし、不足しているようであれば、これを機会に完了させていただけばいいのです。キャンセルするよりはいいのではないでしょうか? なお、これまで1回も接種したことがない方についても、沖縄に来られる前に1回接種しておけば、今回の流行の間は、感染から守られるでしょう。時間を空けて、2回目を終わらせてください。

いま、沖縄では約70人の感染者が確認されています。一方、WHOの報告によると、2017年のタイやマレーシアでは2千人前後、中国5千人、インドに至っては5万人以上のはしか患者が発生しています。

もし、沖縄への渡航を自粛するなら、これらの国々には行けなくなってしまいますね。はしかは世界で流行している感染症です。東京オリンピックをはじめ世界との交流は密になっていく以上、どうぞ避けるよりは、ワクチン接種を優先していただければと思います。

【追記】(4月25日14時) ワクチンを接種した後でも、十分に免疫がつかない人が数%の割合でいます。このような人が麻疹ウイルスに感染した場合、「修飾麻疹」といって典型的なはしかとは異なる経過をとります。潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、発疹が手足だけで全身には出ないなどの特徴があります。また、周囲への感染力は弱いと考えられています。

■今後の見通しは

誰もそれは分かりません。ただ、最近の日本国内における、はしかの流行をみると、いずれも数十人規模の流行で収まっています。

今回、沖縄県民は一丸となって、はしかの流行を抑え込もうと努力しています。症状のある人は早めに受診するようにして、診断された人は外出自粛を守ってくださっています。沖縄ならではの支え合い"ゆいまーる"も機能しているようです。ワクチンが不足している人への接種も進められていて、なかには企業単位でのワクチン接種が行われていると聞いています。

こうした取り組みによって、そろそろ落ち着いてくれればと期待しているところです。ただ、最初の感染者である台湾からの観光客が、実は、発症しながらも県内をアグレッシブに旅行されてしまったことが、これまでの国内のアウトブレイクと異なる様相ではあります。

つまり、那覇の国際通りやショッピングモールなど、県内を動かれたことで、かなり広い地域ではしかの感染者を広める結果となってしまいました。もしかしたら、数百人にまで増加する可能性もあります。いま、大切な時期だと声をかけあっています。

私たちのチームが、この台湾人男性のはしかの診断をしたのですが、来院されたのは全身に発疹が出てからでした。冒頭でお話ししたように、最初の数日は風邪症状と変わりません。本人も「ただの風邪」と思っていたようで、この男性を責めることはできないと思います。むしろ、多くの外国人旅行者を受け入れるようになった私たち社会が、こうした事態を想定して個々に守っていく必要性を痛感しています。


国立感染症研究所は、自身のワクチン接種歴を確認するとともに、2回の接種歴がない人や、はしかの罹患歴がない人にワクチン接種を検討するよう呼びかけている

また、沖縄県のはしか発生状況について、こちらのページで情報提供をしている。沖縄へ旅行する人向けのQ&Aも掲載し、相談は沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課(電話番号:098-866-2764)に問い合わせるよう呼びかけている。