こだわりなく自由に音楽を楽しめるようになったいまも、レコードへの尽きない愛を語ってみる

手触り、ワクワク感、ざらっとした音質、所有する楽しさ――レコードは他のフォーマットにない魅力を沢山持っている。

「ヴィニール・リヴァイバル」の中で

ここ数年、空前のレコードブームが起きている。

アメリカでは「ヴィニール・リヴァイバル」と銘打って、インディーだけでなく、グラミーアーティスト、エド・シーランなどメジャーのアーティストも、軒並み最新作をレコードでリリースしている。

レコード・ストア・デイの限定版レコード
レコード・ストア・デイの限定版レコード
NurPhoto via Getty Images

ブームになるきっかけの一つが、『レコード・ストア・デイ』だ。メリーランド州ボルチモアのレコードショップで働いていたクリス・ブラウンを中心に、レコードショップを経営する仲間たちが2007年、「ローカルなレコードショップを盛り上げよう」と動いたことが始まりだ。以来、毎年4月の第3土曜日に開かれるようになった。

レコード・ストア・デイの当日、店のレコードを試聴する客たちで賑わう=2018年4月21日、イギリス・ロンドン
レコード・ストア・デイの当日、店のレコードを試聴する客たちで賑わう=2018年4月21日、イギリス・ロンドン
Henry Nicholls / Reuters

この動きは世界に波及し、2011年には日本のレコードショップも正式に『レコード・ストア・デイ』に参加、アイドルからベテランミュージシャンまで様々なアーティストが『レコード・ストア・デイ』限定のレコードをリリースしている。実際、限定レコードを手に入れようと、店の前に行列ができ、盛り上がりを見せている。

ブームの高まりとともにレコードショップに行き、インスタ映えを意識して、レコードと自分の写真を撮影し投稿する「#レコード女子」も出現し、SNSでも賛否の声が上がり、話題となった。

高校時代からレコード屋でバイトをしていた私にとって、レコードはとても身近な存在である。2016年からより多くの女性に音楽を楽しんでもらうのを目的に、diskunionが始めたプロジェクト「girlside」にも参加し、販売するレコードのセレクトや音楽をより楽しむためのグッズ制作に関わっている。

池袋のdiskunionには「girlside」のコーナーが常設されている。より多くの女性客に足を運んで欲しいと思ってはいるものの、現実はやはり厳しいものがある。店舗に訪れる男女比は5:1くらいだろうか。「レコードは男性が収集するもの」のイメージは拭えず、まだまだ課題は山積みである。

兆しもある。ニック・ホーンビーの小説をもとに映画化され、いまやレコード愛好者たちのマスターピースとなった『ハイ・フィディリティ』が、今度は女子を主役にディズニーチャンネルでドラマ化されるという。そのニュースを聞いて、心が躍らずにはいられなかった。

■毎日レコードを聴くのってちょっと面倒かも

かつては寝ても覚めてもレコードのことを考えていた時期もあったが、今では趣味のひとつ(としても、趣味としてはお金も時間も相当費やしているかもしれない)となった。ただ実際、毎日レコードで音楽を聴くか?と聞かれたら答えは「ノー」だ。

月に2~3回あるDJの機会に何をかけようか選曲する時は改めてレコードの良さを認識するが、4000枚のレコード・コレクションが狭い賃貸の部屋を圧迫しているのを見て見ぬふりをする日々が続いているのは恥ずかしい現状である。

その昔、音楽を愛する人々は、ジャズ喫茶やロック喫茶を日々訪れた。ジャズ奏者たちは、1枚のレコードを擦り切れるまで聴かせてもらい、家に帰るまで忘れないように、電車の中でも脳内でリピートして、楽器の練習に励んだ。それほどに音楽に貪欲だった時代がとても羨ましく思う時もある。

横浜市の老舗「ジャズ喫茶ちぐさ」。2007年に閉店する間近の店内の様子。その後、2012年に復活した
横浜市の老舗「ジャズ喫茶ちぐさ」。2007年に閉店する間近の店内の様子。その後、2012年に復活した
Yuriko Nakao / Reuters

■こだわりなく楽しめる自由さ

とはいうものの、自分の人生の中に音楽が占めるウエイトが、決して軽くなった訳ではない。むしろ、こだわりがなくなった今こそ、自由に音楽を楽しめるようになった気がする。

Apple Music、Google Play、spotifyなど、近年普及した音楽ストリーミング配信サービスも使っている。初めはどこか抵抗があったが、いざ始めてみるとPCに音楽を取り込むのが面倒な自分にとって、これほど便利なものがあったなんて!と目から鱗が落ちた。

よく使っているのが、spotifyだ。使えば使うほど、自分の趣味にあった曲をオススメしてくれる「My Discovery Weekly」というプレイリストがあり、そこで初めて出会った曲をスクリーンショットでためるのが日課となっている。自宅で夫と会話しているようなとき、その曲を今すぐ聴きたいというリクエストにも瞬時に応えてくれるのがとても便利である。

通勤中はspotifyを聴きながら、メールやLINEをチェックする。自分の知らない曲で、すごい好みのものがかかった時や、知っているけれど何年も聴いていなかった曲たちに再会する瞬間が、日々の活力を与えてくれている。

SUMIRE TAYA

それでもレコードへの愛は尽きない

音楽配信サービスの便利さを享受する一方、休日に時間に余裕がある時、もしくは新しいレコードを買った時は、レコードに針を落とす。こだわりがある人は真空管アンプなどを用いて最高の環境で聴くかもしれないが、自宅で使用しているのはBOSEのPCスピーカーシステム。省スペースでもそれなりの音を楽しめる優れものだ。

手触り、針を落とす時のワクワク感、ざらっとした音質、所有する楽しさ――。レコードは他のフォーマットにない魅力を沢山持っている。きっとこれからもレコードへの愛は尽きないことだろう。TPOに合わせて音楽の楽しみ方を選びながら、今一度音楽に夢中になる時間を大切にしていきたい。

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