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2018年06月05日 20時11分 JST | 更新 2018年06月06日 09時44分 JST

静かな「夜の美術館」で見つけた、ちょっと特別な時間

ちょっと早く仕事を切り上げて...

「ひとりの時間」を過ごしに来た女性
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「ひとりの時間」を過ごしに来た女性

きょうはちょっと早く仕事を切り上げて、職場を出ようと思った。

千葉県で働く20代の女性は、オフィスで「早く帰る宣言」をして、午後5時には職場を出た。

家までは、電車で一駅。でもこの日は、1時間くらい電車に揺られて、六本木についた。

Facebookで知ったイベントに行くためだ。

こうしたひとりの時間が「自分の軸を持っておくために、とても大切な時間だ」と思っている。

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夜の美術館に約100人が集まった

夜の美術館で

5月24日、ハフポスト日本版とサントリー美術館は、イベント「夜の美術館であそぶ時間」を開催した。

閉館後の博物館で、剥製や模型が動き回り、冒険を繰り広げる映画「ナイト・ミュージアム」。

映画のような、ちょっとした非日常の空間を用意して、特別な時間を感じてもらいたいと企画した。

いつもは閉まっている場所を特別に訪れるのは、妙なときめきがある。

それは時間の使い方を考える、いいきっかけにもなるのではないか。

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白地二色被山水遊馬文蓋付壺 清時代・乾隆年間(1736-95年) 中国 サントリー美術館

先ほどの女性は、作品と1対1で顔を合わせ、ゆっくり味わえたことに顔をほころばせた。

家にいると、家事や家族のことが頭の中身を占めてしまう。

職場にいれば、仕事のことがよぎる。

どこかで一人でいることは、「ホッとする」感じがするのだそうだ。

気が付いたのは、最近、夫の調子が崩れた時だった。

心配したり、一緒に悩んだりして時間を使うことが多かったが、「(2人でくよくよしてしまう)この時間より、自分の軸を持っておくのが大切だ。私が私として、しっかりしていれば大丈夫だ」と思い立った。

それから、会社から家に帰るまでの短い1駅の間に、カフェに寄ってみたり、ジムに行ってみたりするようになった。

仕事帰りに、美術館へちょっぴり足を延ばしに来たのも、そんな「自分を保つ」ための役に立っている。

企画展を観る前、参加者たちに、ちょっとした会話をする時間が設けられた。

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集まった参加者たちが美術館に行くことについて話し合った

みんな美術館には、どのくらい行く?

「私はたまに」「あんまり行ったことがない」「2~3か月に1回、休みの日に行くことが多いかな」「私は一人で、彼女はお仲間と行くことが多いそうです」「仕事の時間を調整して、平日に行くこともある」

家族連れできた女性は「あなたが生まれる前は、よく行ってたんだよ」と娘に語り掛けていた。

美術館に行く、何気ない時間の使い方でも、背景はさまざま。美術品を見て、考えることもばらばらだ。

企画展の見どころを紹介してくれたサントリー美術館学芸副部長の土田ルリ子さんは「仕事場が美術館、展覧会の仕事をしているものですから、展覧会に行ってリラックスすることは難しいかも」と会場の笑いを誘った。でも美術品は好き。なので「小さいギャラリーで、その空間に身を任せるのが好き」という。

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解説をする土田ルリ子さん

実はあまり開催されてないガラス展

参加者がめぐったのは、開催中の企画展「ガレも愛したー清朝皇帝のガラス」展だ。

古代中国のガラスの起源から、ガラス工芸が飛躍的に発展した清王朝の時代の作品群を中心に展示。また、それらに魅せられたフランスの芸術家、エミール・ガレ(1846-1904)の作品を対比する形で紹介している。

どうしても気になってしまう「お値段」

作品の詳細や、展覧会設計の裏側などについて、学芸員さんに直接質問できる場とあって、参加者からさまざまな疑問が投げかけられた。

会場が笑いに包まれたのは、どうしても気になってしまう作品の価格に関する質問が飛んだ瞬間だ。

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質問に答える土田ルリ子さん

土田さんの答えは「一番高いのもガレ、その反対も、やっぱりガレ...だと思います。あとはご想像にお任せします」。

たしかに、展示室にならぶ小さくてかわいらしい鼻煙壺(嗅ぎ煙草入れ)の数々や、艶めくような色彩を放つ瓶を見ていると、価格も気になるし、欲しくもなってしまうかもしれない。

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「エピローグ:清朝ガラスの小宇宙」展示風景(すべて町田市立博物館蔵)

オークションの最高価格は...

あまりにも気になったので、世界最古のオークション会社である、サザビーズに問い合わせてみた。

同社の20世紀デザイン部門のディレクターで、インターナショナルスペシャリストエリー・マソーティス氏によると、1970年代から80年代にかけてのバブル需要期をのぞき、エミール・ガレのオークションでの最高価格は、2015年5月にパリで開催されたオークションで競り落とされた「アイリス文台付花瓶VASE SUR SOCLE GRAND IRIS)」だったという。

価格は43万5ユーロ(当時の為替で約5900万円)。

驚きのお値段ではあるが、「マルケットリー(象嵌技法)をはじめ、ガレが見出した新しく独創的な装飾法が織り込まれ、ガレにとって最も重要なパトロンの一人であった一族が当時からそのまま所有していたことが、多くの関心を集めた」といい「オルセー美術館やナンシー美術館所蔵の作品に勝るとも劣らない最高傑作の一つ」だったようだ。

食事に行くのとは違う、家族の時間を

都内に住む40代のワーキングマザーは、10歳の娘と、夫とともに参加した。

いつもより早く会社を出ると、職場から自宅の最寄り駅まで娘を迎えに行き、午後7時前くらいに、サントリー美術館に駆けつけた。夫が少し遅れて到着した。

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家族3人で参加した

もともと美術館巡りが大好きだったというが、「子どもが生まれてからはなかなか忙しくて機会がなかった」。

独身の頃は、海外の美術館に行くほどで、建築好きの夫とも色々なアートを観にいったという。

この日は、記事を見て「ピンときた」ので、夫と娘を誘って、家族の時間を過ごしに来た。

食事に出たり、家で過ごしたり、家族で一緒の時間を過ごすことはあるが、「平日にここまで来るのは、あまりないかな」。そう言って娘の顔をのぞきこむと、ちょっと照れた表情を見せた。

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夜の美術館は人が少なかったのでゆっくり作品と向き合えた

多くの人の、ちょっとした「非日常」が交差した夜の美術館。そこにアタラシイ時間は流れていただろうか。

ガレも愛したー清朝皇帝のガラス展

・場所:サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)

・開催期間:開催中〜7月1日まで(火曜休館)

・開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※入場は30分前まで

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