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2018年06月01日 11時43分 JST | 更新 2018年06月01日 11時53分 JST

「スマホのGPSで山の事故は減らせる」五頭連山の遭難を受けてアプリ開発者が訴える

「命の危険がある場所に足を踏み入れるのだと自覚して」

松本さんが作った登山用アプリ「ジオグラフィカ」
松本圭司さん提供
松本さんが作った登山用アプリ「ジオグラフィカ」

5月上旬から新潟・五頭連山で親子が遭難していた事件で、5月31日、山で見つかった2人の遺体がその親子であると確認された

登山用アプリ「ジオグラフィカ」開発者の松本圭司さんは、登山する際のGPSの大切さをTwitter上で喚起した。遭難事件を受け、ツイートが一気に広がった。

痛ましい山岳事故はどうすれば防げるのか。松本さんに取材した。

年間に3000人近くが遭難する

山での遭難事故は、意外と多い。

警察庁によると、2016年に1年間で山岳遭難したのは2929人。うち、死者・行方不明者は319人だった。

記録の残る1961年以来、遭難は増加の一途をたどる。アウトドアブームの一方で、2013年以降の発生件数は年間2000件以上で推移している。

Getty Images
hiking couple with map in mountain.

そのうち、遭難した人が使っていた通信手段は、76.4%が携帯電話。2007年の47.7%に比べて3割も増えている。

登山をする人の中には、紙の地図を持って山に入る人も多いが、近年では手持ちのスマートフォンに現在位置を表示し、歩いた軌跡や山の情報が見られる機能を持った登山用のアプリを入れていく登山者もいる。

松本圭司さん提供
モンブランの山頂でモンブランを持つ松本圭司さん。様々な山に登り、アプリにフィードバックする。

道に迷うとパニックになる。まずは冷静さを取り戻す

ーーもし山で迷ってしまったら、何をすればいいでしょう。

道迷いに気づくと多くの人はパニック状態になります。

パニックになった人はそれを自覚できません。気づかないうちに間違った選択をしがちです。

まずは落ち着くのが大事です。お茶を飲んだり、甘いものも食べたりすることが、冷静さを取り戻すために大切になってきます。

次に、GPSで現在地を確認しましょう。現在地が分かれば気持ちが落ち着きます。

可能なら来た道を分かる場所まで戻ってください。

GPSを持つと、強気になって最短距離で無理やり進路を修正し、道のないところを進もうとする方がいます。しかし、道迷いの対処として基本は「来た道を戻る」です。

来た道を戻るのが無理そうなら、登ってください。尾根( 山地の一番高い部分の連なったところ )やピークに登ることができれば、電波が通じやすいです。

谷や沢を下ってはいけない

ーーやってはいけないことはありますか?

最もやってはいけないのは「谷や沢を下る」ことです。

必ず滝が出てきて降りられなくなります。最初は降りられても、徐々に大きな滝になり、その時には戻ることも出来なくなります。沢を下ってはいけません。

最後に、行動不能になる前に通報してください。もう自分の力ではどうにもならないと思ったら通報して指示に従いましょう。

ーー山に入ると電波が通じないこともあります。スマホの活用法は?

登山は装備を追加すると重さが増しますが、アプリを入れても重さは変わらない。スマホをお持ちであれば、山にも持っていくでしょう。

スマホのGPSは圏外でも機内モードでも使うことができるので、電波が悪くてもアプリがあれば位置を確認することができる。地図は事前に見ておけばキャッシュされ、山奥でも見られます。

山岳地帯は電波が弱く、スマホのバッテリーを消費しがちです。山に入ったら機内モードにしてバッテリーを温存しつつGPSを活用してください。

そもそも緊急通報をすれば経緯度が警察や消防に伝わる。伝わってなかったらGPSアプリで経緯度を調べて口頭で伝えてください。

ジオグラフィカの場合は、現在地の座標をメールやSNSで送ることができる。山頂などで機内モードを解除し、現在地を家族に送っておけば遭難時の大きな手がかりとなります。

常用するかは別としてアプリを入れておいても損はありません。登山をするのであればインストールしない理由はありません。

GPSが役に立つ

ーーなぜ、このようなアプリを作ろうと思ったのですか。

登山を始めてから13年ほどが経ちます。クライミングや雪山もたしなみます。

以前、iPhone3GSを買って山に持っていき、ふと思い立って地図アプリを起動したら、地図が出ないけど現在地は出ました。

自分で登山用の地図を入れられるアプリを作れば山でも使えると気づき、2010年に「DIY GPS」というアプリを作りました。

その後、山岳遭難が増えていること、特に道迷い遭難が多いことを知り、道迷い遭難を減らすための機能をアプリに追加していきました。

2014年に新しくジオグラフィカを作り、以降は開発と普及、登山者への啓蒙活動を行っています。

ジオグラフィカは年間を通して、岩場や雪山でもテストしています。

低山でも、命の危険があることを意識して

レジャー白書によると、年間の国内登山者は約650万人(2016年)。

松本さんによると、スマホを持っている登山者は約350万人という。だが、スマホを山岳遭難を防ぐ手立てとして活用している人は、まだまだ少ないのが現状だ。

松本さんに、さらに注意点を聞いた。

ーーアウトドアブームなどで、初心者でも登山をしやすくなりました。気を付けることは。

山は日常空間と違い自分の身は自分で守らなければいけない非日常空間です。

命の危険がある場所に足を踏み入れるのだと自覚してほしいと思います。命がけであることを忘れないでほしいと思います。

多くの人が勘違いしていますが、有名な高山よりも近所の低山の方が道迷いしやすいのです。

高山は別の危険もありますが、森林限界を越えれば見通しがよく道や道標も整備されています。低山は木や藪で見通しが悪く、道が荒れていたり道標が少なかったりします。

だがGPSだけでは限界がある

ーーGPSを信じて登山すれば事故は防げるんでしょうか。

GPSがあるからと言って紙の地図やコンパス、地図を読む技術が不要になるわけではありません。

道に貼られたテープをアテにして歩く方もいますが、絶対に正しいわけではありません。

地図(紙でもGPSでも)にも間違いがあります。地図でもGPSでも過信せず、情報を総合的に判断して行動してください。

注意点をまとめると...

ーースマホを山で使うときに気を付けるべきことは。

歩きスマホは危険です。けがをするリスクが高まります。

安全な場所で立ち止まって使ってください。

バッテリーも無駄に使わないようにしましょう。機内モードにすることで節約できます。

注意点としては、

・かならずモバイルバッテリーを持つ。充電忘れ、ケーブル忘れ、ケーブルの断線に注意し、必ずチェックしてから山に入ること。

・ストラップ、カバー、画面に貼るガラスフィルムなどで保護。防水でない機種の場合は水濡れにも注意する。

・冬山で使うときはポケット入れて体温で保温する。冷えるとバッテリー残量が一時的に減ってしまいますが、加温でもとに戻ることもある。

・スマホケースにマグネットが付いていると、スマホの電子コンパスが狂う。山に入るときには、別のケースを使う。

・紙の地図とコンパスも持ち歩く。

ーー今回のような悲しい事故が、毎年起きています。開発者として思うことは。

一人でも多くの人に「登山にスマホのGPSが役に立つ」と知ってもらえれば幸いです。

現在は測位衛星が100機も空を飛んでいる時代。スマホのGPSでも、正確に現在地を知ることができます。

登山用のアプリでなくて、Googleマップや標準のコンパスアプリでも経緯度を知ることは出来ます。

経緯度が分かれば、紙の地図と組み合わせて現在地を知ることは可能です。現在地が分かれば道迷いからの脱出は容易になります。

スマホを持っているのであればなおさら、ちょっとしたことを知っていたか知らなかったかで結果は大きく変わります。

GPSを正しく使えていたら、多くの遭難事故でも結果は違ったのかもしれません。

登山にGPSを使うのが当たり前になれば、多くの道迷い遭難を防げると思っています。

今後も普及活動と啓蒙活動を続け、道迷い遭難を無くしたいと考えています。