アート&カルチャー
2018年06月02日 11時37分 JST | 更新 2018年06月09日 02時13分 JST

パンプスのサイズは27cmまで。お客さんのジェンダーもセクシュアリティも問わない、マルイの気持ち

違う人間だから、100%理解し合うことは難しい。大事なのは「否定をしない」こと。

丸井グループ

パンプスは19.5〜27cm、ビジネスシューズは22.5〜30cmまで。丸井グループのオリジナルシューズブランドは、心の性や足の大きさに関わらず誰でも履けるよう、幅広いサイズを展開している。

多様性が重視されるようになり、「LGBTフレンドリー」な企業は増えた。2016年から「東京レインボープライド」に参加する丸井グループは、その筆頭にいる企業だ。

でも、「LGBT向けのマーケティングやサービスを始めた、とはあまり言いたくない」。同社のサステナビリティ部課長、井上道博(いのうえ みちひろ)さんはこう話す。ビジネスの世界では「レインボー消費」などの言葉も広く使われるようになったが、「LGBT市場とは偶像的なもの」だという。

丸井は、どんな思いで多様性を受け入れ、推進する取り組みを行なっているか?聞きに行くと、そこには真摯に、真面目に取り組む姿があった。

Aya Ikuta / HuffPost Japan
丸井グループの井上道博さん

「すべてのお客さま」と言っておきながら、狭い範囲で見ていた

――丸井では、トランスジェンダーを含めた性的マイノリティーの方に配慮した商品展開や取り組みを積極的に行っています。この取り組みはいつごろから始めたのでしょうか。

丸井グループでは、10年ほど前から年齢や性別、身体的特徴など関係なく「すべてのお客さま」にサービスや商品を届けていくことを大事にしてきました。

たとえば、オリジナルのパンプス「ラクチンきれいシューズ」は、はじめは7サイズ展開だったものを、今は19.5〜27cmまで16サイズ展開しています。メンズ物のビジネスシューズは22.5〜30cmまでカバーしています。

ただ、もともとは、LGBTの人向けにサイズ展開を幅広くしたわけではないんです。とにかく、「すべての人に丸井の靴を履いてもらいたい」という思いで行ったことでした。

――LGBTの人を「ターゲット」としたわけではない?

パンプスに関しては、19.5〜27cmのサイズを用意すれば、「ほぼすべての日本人の成人女性をカバーできるだろう」という発想でした。「トランスジェンダーの方のため」と謳うような特有の目的があったわけではありません。

それが、サイズ展開を増やしてから、TwitterなどのSNSでトランスジェンダーの方々が「丸井は私たちの味方」と発言してくれるようになって。MtF(男性として生まれて性自認は女性)やFtM(女性として生まれて性自認は男性)の方々から支持をいただいていることを実感しました。

私たち自身、10年前から「すべてのお客さま」と言っておきながら、単純に年代の幅を広げることに集中していたり、今まで丸井を使ってくれたことがある人の声を聞いているだけだったり、実はすごく狭い範囲で見ていたという反省もありました。

障がいのある方やLGBTの方々に、我々は果たしてちゃんとおもてなしできているのか、応えることができているのか。2年ほど前から「すべてのお客さま」という概念をもっと広く深く考えるようになり、加速度的に新しい取り組みを始めました。

――たくさんの人に応えられる商品を作った結果、性的マイノリティーの人に支持されるようになった。

そうですね。だから、「LGBT向けのマーケティングやサービスを始めた」とはあまり言いたくありません。

こうやってメディアに話をすると、どうしても「丸井がLGBT向けの取り組みをやっている」みたいな表現になってしまうんですが、そうではなくて。丸井の商品やサービスをより多くの方に選んでもらうためにはどうしたらいいか、というアプローチから始まっているので、ここはしっかり伝えたいと思います。

丸井グループ
丸井グループが展開するプライベートブランド「ラクチンきれいシューズ」

多くの人に選んでもらうために何をすべきか。「LGBTとその他のお客さま」ではない

――最近は「LGBT市場」「レインボー消費」という言葉もよく使われます。ただ、「LGBTフレンドリーな取り組みをすればビジネスチャンスがある」と捉えられているにも感じられ、個人的には違和感を持っているのですが...。

そうですよね。「LGBT市場」というのは偶像的なものなので、あたかも新たなマーケットができたかのように追いかけるだけでは、最終的にはうまくいかないと思っています。

ただ、やっぱり企業である限り、ビジネスとして成り立たせなくてはいけない。「LGBTマーケットは約6兆円あります」みたいな話をしないと、なかなか経営判断が出ないという現実はあるんですよね。LGBTへの認知や理解を広めるために、今はあえて「LGBT」の言葉を使わなきゃいけない時期でもあると思います。

「LGBTを商売に利用しよう」という気持ちはなくても、企業を大きく動かすために、「LGBT」というキーワードを使わざるをえない。そこはある意味ではしょうがない、とも思います。

大事なのは、とにかく一人ひとり生き方や考え方が違うことを理解して、こちら側からお客さまを区別するのではなくて、なるべく多くのお客さまに選んでもらうために、何をするべきか考えていくことですよね。「すべてのお客さま」の一部がLGBTの人たちであって、「LGBTとその他のお客さま」というわけではないので。

Barcroft Media via Getty Images
丸井グループは、2016年から「東京レインボープライド」にも参加している。写真は「レインボーウィーク2017」開催中の渋谷モディ。

――販売員の社内研修なども力を入れていると聞きました。

研修でも、接客マニュアルとかノウハウを伝えるのではなくて、その人たちがどんなことを考えているかとか、過去にどんなおもてなしをしたら喜んでくれたとか、事例を共有することを大事にしています。「こういう接客が正解です」というのはないので...。

販売員の一人の経験談ですが、トランスジェンダーの方に就活用のスーツを提供して、「今までコンサルティングを受けながら買える売り場はなかった。サイズが合わないけど、通販で買って我慢して着ていた。だから本当にありがとう」と言ってもらえて、「今まで販売員をやっていた中で一番嬉しかった」と言っていました。

そういう経験をすることで、自分たちでどんどん考えていくんですよね。そのうちに、あえて会話に触れるとか意識をするのではなくて、普通に採寸をして接客すればいいとだんだんわかってくるんです。そうすると、またお客さんが来てくれる。そのお客さんの声が販売員から本社に共有されて、商品に変更が加えられるという、すごくいいスパイラルが回っています。今のところはすごく順調ですけれど、これからが本番だと思いますね。

――すごく真摯に取り組まれているのが伝わってきます。

真摯にというか...今はそうしないとお客さまに選んでもらえないですし、小売業の商売は成り立たない時代だと思っています。

「丸井はLGBTの方を支援してますね」とか言われるんですが、逆に丸井が支援していただく、うちを選んでもらうことに喜びを感じる、という考え方の方が強いですね。

Getty Images/iStockphoto
イメージ写真

大事なのは「理解をする」ことではなくて、「否定をしない」こと

丸井グループは、6月3日に東京大学の安田講堂で開催される「男女の垣根を越えたファッションポジウム」に参加する。

イベントの発起人となったのは、女性装の東大教授として有名な安冨歩さんと、メンズサイズのかわいい洋服を提供するファッションブランド「blurorange(ブローレンヂ)」のデザイナー・松村智世さんだ。当日は、誰でも参加できるファッションショーも開催される。

丸井は、ファッションショーで使用するパンプスやビジネスシューズ、FtMの人に向けた衣装を提供し、代表取締役社長の青井浩氏もトークセッションに登壇する。シューズの体験コーナーも設ける予定だ。

――東京大学の「男女の垣根を越えたファッションポジウム」では、運営協力という形で参加されます。参加に至ったきっかけは?

去年の年末に松村さんから「何か一緒にできませんか」と声をかけていただいて、安冨さんも交えて3人で熱く話をして、すぐにイベントを一緒にやることが決まりました。

ただ、大変ですよ。(笑)お互い譲らないところもあって、たくさん言い合っています。(笑)

――そうなんですか。(笑)どんなところで話し合いが?

突き詰めると、松村さんが主導するblurorange(ブローレンヂ)と丸井では、アプローチの仕方が少し違うのだと思います。

――アプローチの仕方とは?

松村さんのblurorange(ブローレンヂ)は、スタート地点としては、まず体格のいい男性でも違和感なく着られるかわいい服を作る、というアプローチですよね。それはすごく素晴らしくて、必要とされていることだと思います。

一方で丸井の場合は、できるだけ多くの人に合わせて商品展開をしていく考え方で、マスに向けていかに少しずつカスタマイズしていけるか、という手法をとっている。ある意味では、100人中100人全員に満足してもらうことは無理だと思っていても、できる限りそれを広げていこう、という考え方なんですよね。

――たしかに、丸井の場合は、まず「サイズの選択肢」を広げるというやり方ですよね。

サイズで組み合わせの自由を提供して、「男物」「女物」という選択ではなくて、自由にファッションを楽しんでほしいと思います。性別問わずに誰でも入りやすい、ジェンダーフリーなアパレルの売り場、コスメ売り場も作れたらすごくいいですよね。

企業としてのスタンスやアプローチの仕方は違うけれど、最終的に理想とするかたちは一緒なんです。だからこそおもしろいとも思います。

――そうですよね。松村さんも理想とするのは「誰がどんな服を着てもいい世界」と言っていて、目指しているものは同じだと思います。

先日、安冨さんと2時間半ほどランチを兼ねて事前打ち合わせをしたんですが、やっぱり根本的なアプローチの仕方は少し違うね、と話をしたんです。

ただ、「それはそれでいいよね」と。みんなが同じ考えに合わせる必要はない。新しい未来に向けて考えるために、それぞれが自分の考えをステージの上でしっかり言いましょう、となりました。だから、きっとおもしろいことが起きると思います

――それこそ、本当の意味での多様性だと思います。

やっぱり、みんな「他人」で違う人間ですから、100%理解し合うことは難しいですよね。大事なのは「理解をする」ことではなくて、「否定をしない」こと、「共鳴する、共振する」ことだと思います。

100人いたら100通りの生き方や考え方があって、それを前提にどう商売をするか。アパレルはどう変わるべきか。未来を考えたいという気持ちを共有していて、同じビジョンを持っています。

多様な価値観や考え方を持った人間が集まり、どう融合していくかということですよね。イノベーションはそういうところから起きるんだろう、と思っています。成果はすぐには見えないかもしれませんが、出演する人間にとっても、見に来てくれる方にとっても、新しい気付きがあるようなイベントにしたいと思っています。

シンポジウム概要

「ファッションポジウム―男女の垣根を越えたファッションの未来を考えるシンポジウム―」

開催日 :2018年6月3日(日) 14:00~17:00(予定)
開催地 :東京大学 大講堂(安田講堂)
入場料 :無料 入退場自由
参加対象:誰でも自由に入場可

総合司会:木内みどり(女優)
司会:安冨歩(東京大学 東洋文化研究所教授)

主な登壇者:青井 浩(株式会社丸井グループ 代表取締役社長)、陵本 望援(株式会社Ones holding company 代表取締役)、片岡 祐介(打楽器奏者、即興音楽家、作曲家)、清水 有高(一月万冊代表)、西原 さつき(乙女塾代表、モデル、女優)、松村 智世(ブローレンヂ代表)、吉原 シュート&諭吉(元シークレットガイズ、俳優・タレント)