スモークハラスメント対策を求めた女性の解雇撤回。日本青年会議所が解決金440万円【UPDATE】

労働審判で和解。「分煙とすら呼べない」審判委から批判の声が出ていました。
写真はイメージです
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vchal via Getty Images

職場のタバコの煙で喘息になったとして、分煙対策をもとめた30代の女性が解雇され、勤め先の公益社団法人・日本青年会議所を相手に、解雇無効などを求める労働審判を東京地裁に申し立てた事件で、「解雇は無効」として和解が成立した。6月29日付。

7月2日、女性と代理人弁護士が会見を開き、詳細を語った。

弁護士によると、労働審判委員会が日本青年会議所の女性への対応について「主治医から環境が整わないと復職ができないという診断書が出ているにもかかわらず、出勤命令を出して働くことを強要。それに応じなければ即解雇という、拙速で法的に問題がある対応をした」と指摘。

解雇する理由にはあたらないとして、双方の合意を促した。

このため、日本青年会議所は解雇を撤回し、支払われていなかった給与分などとして女性に解決金440万円を支払うことで和解が成立。女性の代理人弁護士は「要求が全面的に認められた」と述べた。

2010年から受動喫煙防止対策を求めるも改善せず

この女性は、2008年に正職員として日本青年会議所の事務局に入局。受動喫煙で体調を崩すなどの理由から、事務局が入る青年会議所会館(東京都千代田区)の分煙が不十分であると、2010年ごろから繰り返し受動喫煙対策を求めた。

しかし、日本青年会議所が有効な対策を講じることはなく、2016年9月から体調不良で休職し、2017年4月に解雇された。

女性はこのような受動喫煙状況に置かれたことで、幼少時に治っていた喘息が、20数年ぶりに再発。現在も、風邪などの呼吸器疾患にかかるたびに、喘息の症状が出て悪化するなど、以前とは体質が変化してしまったという。

日本青年会議所の「分煙」とは

日本青年会議所の「分煙」は、単についたてを立てて隔て、上は開いているという対策だった。また、廊下には堂々と灰皿が置いてある状況。労働審判が行われた2018年6月29日の段階で、環境は変わっておらず、女性は職場に戻ろうにも戻れない状態だ。

日本青年会議所は解雇を取り下げるが、女性が事務局へ戻れる環境が整っていないことなどから、合意退職という形になった。

審判委はこの分煙対策について「現在の、一般的な喫煙室の体をなしていない。分煙とすら呼べない、程遠い状況のものである」と問題視。

職場で、喫煙を強要したり、受動喫煙を職場で余儀なくされる行為は「スモークハラスメント」と呼ばれている。

日本青年会議所のスモークハラスメントに関して 「健康増進法や労働安全衛生法で、労働者の保護を図らないといけないのに、役員がタバコを吸うからという理由で、それをしないのは一般の企業等ではありえない」という趣旨の非常に厳しい指摘がなされた。

「お互いに失うものが出た」

事務局がある青年会議所会館は自社ビルであり、過去には、全館で禁煙をする流れがあったと、労働審判の場で話が出たものの、当時「関係者の反発があってとん挫した」という。

女性は「やろうと思えば受動喫煙対策を取れた。だが、決裁者が適切な判断ができなかったということが残念。また、今もその状況が続いているという事態についても、残念に思う」と話した。

今回の和解について「お互いに失うものが出た今回の結論は、決して本意ではありませんでした」というが長い間の交渉に結論が出たことで「安堵の気持ちを覚えます」と述べた。

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喫煙者の理事や上司に受動喫煙で体調が悪くなるため、状況の改善を訴えるのは「順調だった人間関係になにか作用することがないか、毎回毎回不安で勇気がいることだった」と声を震わせた。

「受動喫煙がない環境にしてほしいと願い出るのが、もしかしたら自分のわがままなのかなと迷うこともあった。同じ受動喫煙でも、すべての人に同じ体調不良が出るわけではなく、理解をしてもらうのがどれだけ難しいのかもこの訴訟の過程でよく分かりました」と振り返った。

そのうえで「私が経験した苦難が、同じような苦しみを味わっている人にとって、なにか一つでもプラスのものを生むことがあれば報われる思い。労働者を雇用する事業主にとって、職場の受動喫煙問題を考えてもらうきっかけになればうれしい」と話した。

受動喫煙をめぐり法律が転換期を迎えている

2003年に施行された健康増進法では、事務所などの「多数の者が利用する施設」について、管理者が利用者の受動喫煙を防止するために「必要な措置を講ずるように努めなければならない」とある。罰則ではないが、義務として定められている

受動喫煙をめぐっては、6月27日に可決成立された東京都受動喫煙防止条例でも、現在参議院で審議中の健康増進法改正案でも、事務所は原則屋内禁煙となる。タバコを吸う場所については、煙の流出を防止する技術的基準に適合した喫煙室の設置をする必要があるとされている。

新しい条例と健康増進法改正案では、義務ではなく罰則を設けている。守られなかった場合、都条例では違反者に対して5万円以下の、健康増進法改正案では施設管理者に対して50万円以下の過料が科されることになる。

「再起を応援します」

日本青年会議所は、ハフポストの取材に対し「受動喫煙対策については、状況を変えることを前提として検討を進めている」とし、元職員の女性については「再起を応援します」と話した。

そのうえで、労働審判の結論については「元職員に対する、パワーハラスメントやそれによるPTSDについては、審判では認められなかった。だが、解雇は拙速であったとの指摘と、和解事項については、粛々と受けとめて履行していきます」と述べた。

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