盗用疑惑の芥川賞候補作、講談社が全文公開へ 「盗用や剽窃にあたらない」と反論

「問題を含んだ上でも、本作の志向する文学の核心と、作品の価値が損なわれることはない」

講談社は7月3日、ノンフィクション作品や東日本大震災の被災者の手記からの盗用疑惑が指摘されている小説「美しい顔」の全文無料公開をすると発表した。講談社は作品に著作権法上の盗用や剽窃には一切当たらず、「参考文献未表示の過失についてお詫び」するとしている。

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「美しい顔」は東日本大震災で母親を亡くした女子高生を主人公に、彼女の目線を通して一人称で綴る小説。北条氏は「被災地にいったことは一度もありません」と公表していた。

遺体安置所の描写などが石井光太さんのノンフィクション作品『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)や、金菱清編『3.11 慟哭の記録 71人が体感した大津波・原発・巨大地震』(新曜社)などの表現に酷似している部分があると指摘されていた。

『遺体』については、遺体安置所などの描写で類似点が指摘され、新曜社も10数箇所にわたる「類似部分」があったとしている。

講談社は今週発売の群像8月号でお詫びを掲載するとしていたが、3日、公式ホームページでお詫びを先行して発表した。お詫びだけではなく、編集部の見解も発表された。

講談社、お詫びも「疑惑」に大反論

講談社はまず一連の疑惑に関する報道を機に、誤った認識が広がっているとし「本作と著者およびそのご家族、新人文学賞選考にあたった多くの関係者の名誉が著しく傷つけられたことに対し、強い憤りを持つとともに、厳重に抗議」した。

その上で、一連の疑惑について「今回の問題は参考文献の未表示、および本作中の被災地の描写における一部の記述の類似に限定されると考えております。その類似は作品の根幹にかかわるものではなく、著作権法にかかわる盗用や剽窃などには一切あたりません」と主張している。

つまり、著作権法上の問題ではなく「参考文献をつけなかった過失」という姿勢だ。

石井氏の作品との表現の類似点については講談社の調査でわかったとし、石井氏、版元の新潮社と協議を続けたという。事実、掲載予定のお詫びにはこうある。

震災直後の被災地の様子は、石井光太著『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)に大きな示唆を受けたものです。主要参考文献として 掲載号に明記すべきところ、編集部の過失により未表記でした。 文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまったことを、石井氏及び関係 各位にお詫び申し上げます。 また、東日本大震災の直後に釜石の遺体安置所で御尽力された方々に対する配慮が 足りず、結果としてご不快な思いをさせたことを重ねてお詫び申し上げます。

では、なぜ反論するのか。

新潮社声明に「強い憤り」

講談社は「6 月 29 日の新潮社声明において『単に参考文献として記載して解決する問題ではない』と、小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメントを併記して発表されたことに、著者北条氏は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱い」たことを理由にあげている。

講談社は「参考文献」をつければ済む話と主張しているのに対し、新潮社は「類似した箇所の修正」(朝日新聞)も含めた対応を求めている。

群像編集部として、「北条裕子氏の作家としての将来性とその小説作品『美しい顔』が持つ優れた文学性 は、新人文学賞選考において確たる信により見出されたものです。上記の問題を含んだ上でも、本作の志向する文学の核心と、作品の価値が損なわれることはありません」と判断。

「甚大なダメージを受けた著者の尊厳を守るため、また小説『美しい顔』の評価を広く読者と社会に問うため、近日中に本作を弊社ホームページ上で 全文無料公開いたします」と予告した。

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