出光・昭和シェル統合、国内「2強」体制の意味

国内の装置産業に残された道はなかった

統合合意を正式発表した月岡隆・出光興産会長(右)と亀岡剛・昭和シェル石油社長(撮影:尾形文繁)

7月10日、石油元売り大手・出光興産の月岡隆会長と昭和シェル石油の亀岡剛社長が握手を交わした。2015年7月の協議開始から3年、ようやく両社の統合が実現する。

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昭シェル株を出光株に交換するスキームで、昭シェルは出光の完全子会社となる。10月に交換比率を決定、両社の臨時株主総会を経て、2019年4月に完全子会社化する予定だ。

外資撤退で業界再編が加速

「人間尊重という出光の理念を守れない」。統合には出光創業家が強硬に反対していた。その創業家と出光経営陣が歩み寄るきっかけを作ったのが、アクティビスト(物言う株主)として知られる村上世彰氏だった。

村上氏は、通商産業省(現・経済産業省)の課長補佐時代に2年強、石油行政にかかわったことがある。当時の元売りは十数社。過当競争で疲弊する業界体質の改善は長く課題とされてきた。「石油業界での過当競争をなくすのは、僕の悲願だった」(村上氏)。

実際に2000年代以降、石油業界では再編が進んだ。需要の頭打ちが鮮明になった日本市場に見切りをつけ、米エクソンモービルなどの外資が次々と撤退。2009年に成立した「エネルギー供給構造高度化法」を盾に、経産省が精製設備の効率化や廃止を促したことも再編を加速させた。

その結果の一つが、2017年4月のJXTGホールディングスの誕生だった。JXTGの国内シェアは約5割。石油は製品による差別化が難しく、大型設備が競争力を左右する装置産業。企業規模の大きいほうが有利だ。

そこにもう一極できれば、過当競争に歯止めがかかり、安定供給と適切な価格形成の両立が見込める。「将来の石油業界はJXTGと出光を中心とする二つのグループで構成されるべきです」。ある財界人の紹介を機に今年2月から仲介に入った村上氏は、出光の創業家をそう説得したという。

実は出光の経営陣は一時、株式公開買い付け(TOB)による合併の強行を検討していた。しかしTOBには5000億円を超す資金が必要で、出光の財務体質を悪化させる懸念がある。今回、出光はTOBを避け、財務余力を株主還元の拡大に向ける。「対等の統合」にこだわっていた昭シェルも子会社化を受け入れた。統合を承諾した創業家側と会社側、互いが妥協したうえでの合意だった。

物足りないシナジー

とはいえ、出光・昭シェルが万全というわけではない。

両社は統合実現を待たず、昨年5月から事業提携を先行させてきた。生産計画の一体化や石油製品の相互融通などを進め、5年で500億円分のシナジーを見込む。会見で月岡会長は「3年間の協議は決して無駄ではなかった」と繰り返した。

ただ、市場関係者からは「物足りない」という声が上がる。JXTGは企業規模が大きい分、シナジーを出しやすい側面があるとはいえ、その見込み額は3年で1830億円。出光・昭シェルのはるか先を行く。

JXTGの杉森務社長は「(出光と昭シェルが進めてきた)提携と統合では天と地の差がある。われわれは全製油所で約20のテーマを掲げてベストプラクティスを追求している。水平展開することで、ものすごい効果を生んでいる」と強調する。その結果、統合初年度の2017年度は、計画の2倍近い効果を上げた。

来春以降、出光の取締役会には出光と昭シェルからの3名、創業家が推薦する2名が入る予定。寄り合い所帯で、意思決定が遅くなるおそれもある。その間もJXTGは着々とシナジーを積み上げるはずだ。出光・昭シェルにとって"3年のブランク"が重くのしかかる可能性はある。

今後も需要縮小が止まるわけではない。経産省の試算によると国内ガソリン需要は、2022年度には2017年度比で1割減る見通し。その中で「次の精製能力削減にどう手を打つかがカギになる」(大和証券アナリスト・西川周作氏)。

現在は出光が三つ、昭シェルがグループで四つの製油所を持つ。昭シェルの亀岡社長は「製油所の競争力はアジアでもトップクラス」と統廃合は見込んでいないとする。ただ、ガソリンなど軽質油の生産比率を増やす設備が十分でない製油所を中心に、今後決断を迫られる場面は出てくるだろう。

コスモの動向が焦点

業界では「今回の出光・昭シェルで業界再編は当面打ち止め」と見る関係者が多い。その中で焦点となるのが、シェア14%を持つコスモエネルギーホールディングスの動向だ。

同社は2011年の東日本大震災で千葉製油所が被災した影響などで財務が傷んでいる。財務の健全性を示すDEレシオ(負債資本倍率)は、JXTG、出光・昭シェルが1倍以下なのに対し、コスモは2.3倍。財務体質強化を急ぐが、石油市況が悪化すれば、経営危機に直面するリスクがある。

風力発電など事業の多角化も図るが、それだけでは力不足だ。化学など他業界の企業との提携を模索する可能性もある。需要縮小の中、残された時間は多くはない。

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