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2018年07月18日 14時25分 JST | 更新 2018年07月18日 17時21分 JST

教室のエアコンの有無が、子どもの将来の年収にも影響する?アメリカの研究機関が調査

「室温が0.6℃上がると年間学習量が1%減る」という結果も

画像は学校のイメージ写真です
DONGSEON_KIM via Getty Images
画像は学校のイメージ写真です

愛知県豊田市の市立梅坪小学校で7月17日、校外学習に出ていた1年生の男児が熱中症とみられる症状で亡くなった

朝日新聞デジタルによると、男児を含む1年生が「校外学習」で約1キロ離れた公園まで歩き、1時間半ほど虫捕りや遊具を使った遊びをした後、11時半ごろに学校へ戻った。

教室に戻ってまもなく、意識を失った。この日の午前11時ごろの豊田市の気温は、気象庁のホームページによると33.4度、日中最高気温は37.3度。熱中症に対する注意を呼び掛ける高温注意情報も発表されていた。学校の教室にはエアコンはなく、扇風機が設置されていたという。

全国の小中学校では6割がエアコンなし

この猛暑のなかでは、外で歩くだけで体力が消費され、室内でもエアコンを付けずに過ごすことは無理に等しい。

熱中症と疑われる症状が出た場合は、エアコンをつけた室温の低い部屋で、脇や足の付け根などに氷や水を当てて冷やすなどの対策が必要になる。

そんな環境で、毎年児童や生徒の熱中症についてのニュースが流れるたびに「学校にエアコンを設置するか否か」が議論されている。「昔はエアコンがなくても大丈夫だった」「贅沢だ」と反対する意見もあるが、本当に真夏の教室でエアコンも無く勉強したり運動したりすることは「我慢すべきこと」なのか。

文科省によると、2017年4月1日現在、全国の公立小中学の教室で、冷房設備を設置している教室は41.7%。3年前の前回調査に比べて11.8ポイント増えたものの、6割の教室で冷房設備が付いていない。また、体育館、武道場では、冷房設備の設置率は1.2%だった。

文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査」より
公立小中学校における冷房設備の設置率の推移

学校にエアコンは贅沢?それとも必需品?

空調で気温を調整することで、学習の効率化も変わってくる。気温と学習効率の関係について、全米経済研究所(NBER)や文部科学省の調査結果をまとめた。

文部科学省の資料によると、2009年度に中学校14校でエアコン設置した大阪府茨木市では、2016年度までの間で、全国学力・学習状況調査の結果を全国の結果と比べている。エアコン導入と合わせ、夏休みも一週間短縮した。

全国の正答率を1.0とすると、導入した2009年度は正答率が0.996だったが、その後徐々に上がっていき、2016年度では1.068になった。

平成 30 年文部科学省調査「施設整備による教育環境向上の効果について」より
大阪府茨木市の中学校の成績を全国と比べたもの。成績は徐々に上がってきている

一方、小学校でも32校でエアコンを導入し、夏休みを短縮。導入翌年の2013、14年は上昇し、その後は下がってきていたが、エアコン導入前よりは落ちていない。

平成30年文部科学省調査「施設整備による教育環境向上の効果について」より
大阪府茨木市の小学校の成績を全国と比べたもの。導入後2年間は成績が上がっているが、その後は下がってきている

茨木市は検証で、エアコン導入など学習環境の整備を進めたことが「小中学校ともに学力の向上がみられている」と結論付けていた。

また、岐阜県池田町では、2016年9月に町内の小学校1校でエアコンを導入したところ、前年同期に比べて病気で保健室に行く児童が68人から21人と、7割減った。町内の平均最高気温は、2015年9月は27.3度、16年9月は28.9度だった。

気象庁の記録によると、年によって上下はあるものの、年間の最高気温は上昇傾向だ。

気象庁ホームページより
年ごとの最高気温の推移(東京)

文科省施設助成課の担当者は「地域によっても必要な場所とそうでない場所があるが、温暖化などの影響もあり、快適な学習環境を整えるうえで空調設備の設置は重要になってきている」と話す。

平均気温が0.6℃上がると生涯年収はいくら変わる?

アメリカでは、 全米経済研究所(NBER)が2018年5月暑さが子どもの学習成果に与える影響を分析した研究をワーキングペーパーとして公表している。

このペーパーでは、アメリカ国内の2001~2014年の高校生が大学入試前に受けた模擬試験(PSAT)の1000万人分の結果をもとに、学習成果と室温の関係について分析した。

調査では、教室にエアコンがない場合、年間の平均気温が1°F(華氏=約0.6℃)上がると、学習の効率が下がる分、年間の学習量の1%が失われ、このテストの偏差値が0.032下がった。ただ、エアコンがあれば、下がるはずだった偏差値のうち0.025が埋め合わされると推計している。

また、このペーパーで紹介された別の論文では、偏差値の上下は生涯年収にも影響しており、12歳の時点で、偏差値が1.0高ければ、現在の換算で生涯年収にして7000ドル(約79万円)分の価値があるとしている。これを16歳に換算すると8500ドル(約95万円)になる推計していた。

つまり1人の生徒あたり、1°F室温が上がっても、教室にエアコンがあれば、212.5ドル(約2万4000円)を取り戻せる計算になる。

また、週末や夏休みの気温が高いかどうかは学習成果にほとんど影響を及ぼさず、授業がある登校日の気温の高さだけが、影響していたという。

所得の多寡などでさらに格差が生まれる

暑さの影響は不利な環境にある生徒がより受けている結果も出た。同じ気温でも、所得の下位20%の家庭の生徒では、上位20%の家庭の生徒より学力低下が著しく、3倍の影響を受けていた。

理由として、親が勉強を教える余裕がなかったり、お金をかけて補習を受ける機会がなかったり、学校や家にエアコンがないことなどが挙げられている。

調査では、エアコンがないと学習の効率が悪くなり、家庭の所得で格差が広がり、ひいては生涯年収にも影響すると結論付けている。

エアコンをつける予算は?

ただ、エアコンの設置には、多額の費用がかかり、市町村内で全ての公立校の教室に設置するとなると、数十億円が必要になることが予想される。

文科省施設助成課の担当者は「冷房設備は設置の際に国が3分の1の補助を出しているので、自治体の要望があれば支援ができるよう予算を確保するよう努めている」というが、補助金は設置する際の費用だけで、リースには適用されず、電気代などのランニングコストも地方自治体負担になる。

費用の点などがネックとなり、教室のエアコンの有無で自治体の間に格差が生まれている。東京都では小中学校の普通教室での空調設置率は99.9%。一方、奈良県では7.4%、愛媛県では5.9%など、自治体ごとに格差が出ている。