「生産性は本当に『人』の価値ですか?」義足の女優の思い 障害者、LGBT、相模原事件

生きていること自体が一つの価値であると私は思っています。

「あぁ、またか」と彼女は思った。「また生産性の有無で支援を語る議論がでてくるのか」と。7月26日、相模原事件から2年を前に自民党の国会議員が「LGBTは生産性が無い」と寄稿したことが問題になった。彼女、義足の女優として活躍する森田かずよさん(40歳)は言う。

「生産性は人の価値ではなく、生きていることそのものに人の価値がある」

森田さん(本人提供)

「生きることだけでも価値がある」

森田さんは憤りと困惑が入り混じったような声で取材に応じた。大阪市在住。義足のダンサー、女優として身体表現のあり方を模索して注目されており、香取慎吾さんも取材にやってきた。右手の指は4本で、そのうちの3本はまっすぐに伸びず、右の肋骨は3本ない。

森田さんは自民党議員の論考を読み、こんなツイートをした。

《「生産性がない」って本当にパワーワードですね...。私は身体に障害があって未婚で子供も生んでない、となるとよりこの言葉が重いです。 ただ、「子供が産める」や「○○が出来る」ことが人間の価値決めるものではありません。生きることに価値があるのだと、私は思っています。》

このツイートにどんな思いを込めたのかと聞いた。彼女は7月26日で入所者19人が殺害された相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件と重ねながら答える。

誰にとっての生産性ですか?

《19人も亡くなったんですよ。19人も亡くなった相模原の事件から2年でまたかと。生産性が無いから支援はいらない。コミュニケーションが取れないから、生産性が無いから生きている価値はない。障害者はずっと言われ続けてきました。

私が問いたいのは、そこで言う生産性って誰にとっての生産性で、誰が決めるのか?ということです。バリアフリーが必要だと言えば、必ず「障害者年金がもらえるくせに、さらに特権が必要なのか」と反論がきます。

その背景にあるのは「生産性が無いのに......」というものと同じものです。》

「障害者だって生産性がある」と反論してはいけない

こうした主張に対して、必ずこんな反論が出てくる。「LGBTだって生産性がある人がいる」「障害者だって働ける人がいる」「障害者だってアートを生み出す人がいる」......。

《「生産性の有無」という議論の土俵に乗ってはいけないと思っています。何かができるということは素晴らしいことです。しかし、それが支援を決める指標になってはいけないのです。

何かができることと、生きていることは別です。なぜ支援が必要なのか。人間の価値ってどこにあるのか?が問われるべきことです。

障害者は生産性があるかないかじゃなくて、生きていること自体が一つの価値であると私は思っています。

その先に社会の中でどう生きていくか、周囲との関係、尊厳がある生き方ができるかどうかという問題がある。人の価値を生産性で語るのは偏狭な価値観だと思うのです。》

コミュニケーションとはなにか?

事件で逮捕起訴された元職員・植松聖被告は「意思疎通が取れない人間を安楽死させるべきだ」といった主張しているという

つまりコミュニケーションを取れない人は生きている価値がないという主張だ。しかし、ここでいうコミュニケーションも「私たち」の社会が規定した言語によるコミュニケーションが前提になっている。

《私は、知的障害者の施設で月に1回、フラダンスとストレッチを教えているんです。そこではずっと寝続けている人もいれば、ずっと飛び跳ねている人もいます。

彼らには彼らの独自の流れる時間があります。ですから、体調や機嫌が良いときも悪いときもある。身体のひとつひとつの動きが、意思表示になっていることもあるんです。つまり、コミュニケーションって言語だけではないんです。

教える立場にまわれば、効率性にとらわれている私がいます。教えているのだから素直に反応してほしいと最初は思いました。

でも、それは違うんですよね。彼らが決めたペースで1人、1人が好きなように動いてくれたらいい。効率性やこちらの考えを押し付けないようにしています。》

「生産性」ばかりが繰り返される社会に...

「障害者」は常に一括りにされてきた。しかし、「障害者」という名前の障害者はおらず、個々に違う。コミュニケーションの取り方も、生き方も、個性もまったく違う。

相模原事件は忘却の対象となり、「生産性」をめぐる議論は繰り返される。必要なのは、この先の社会像を巡る議論だ。

《私は相模原の事件が怖かった。生活の大部分を介護の方に委ねている人は、私以上に言いようのない恐怖を感じたと思います。

障害という事実を持って生まれても、尊厳が奪われることのない社会でありたい。きれいごとと思われるかもしれないけれど、そこを目指していきたいと私は思っています。》

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