子育てや家事の分担を、夫婦で話し合おうとすると、ケンカになってしまう——。それが嫌だからと、自分ひとりで「抱え込んでしまう」女性は少なくないだろう。
『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)の著者であるマンガ家の水谷さるころさんも、1度めの結婚は家事や負担をすべて自分で抱えて限界を超えた。2度めの結婚(事実婚)を経て男児を出産。現在は「夫婦ツーオペ体制」で日々の家事と育児を乗り切っている。
「同じ過ちはしたくない」からこそ編み出された夫婦間のコミュニケーションの基本とは? 子育てのコツや、夫婦ゲンカの必要性について聞いた。
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子育てを楽しいと思えるのは、苦しみが少ないから
——息子さんはもうすぐ4歳だそうですが、日々の子育てはどうですか。
子育て、面白いですよ。こっちの予想通りにならないことも多いけど、ちょっと工夫すると思った通りのことをやるときもあったりして。
うちの子はものすごく食に興味がないタイプなので、家ではふりかけご飯と野菜はハムのトマト巻きとか限定されたものしか食べてくれない。料理担当の野田さん(事実婚のパートナー)はがんばりが報われなくてつらそうですけど、保育園ではちゃんと食べてるのでまあいいかって。
うちは基本、ゆるいんですよ。テレビもたくさん見せるし、電車で移動するときは家族全員スマホ見てるし。何でもどんどん許しちゃってます。理想とか正しい子育てにとらわれると、つらくなるだけだから。
でもそれ以上に「楽しい」と思えるのは、苦しさが少ないからでしょうね。苦しいと、楽しさになかなかスポットが当てられなくなるから。
——本によると野田さんが炊事全般担当、その他の家事は水谷さん。息子さんとお風呂に一緒に入るのは水谷さんで、野田さんは体を拭いて着替え担当といった具合に、いい具合にバランスが取れていますね。
ツーオペ育児のいいところは、自分の他にもうひとりの大人が家にいてくれること。「寝かしつけがうまくいかない」とか、そういうちょっとしたことでもつらさを共有できる。それだけで気持ちがもう全然違うんですよ。
夫の協力という土台あっての「楽しい」なんだろうな、ということは自覚しています。
不満は借金と同じ。感情の清算はこまめに
——前編では、夫婦で協力してツーオペ育児している様子をお聞きしましたが、お互いフリーランスで長い時間ひとつ屋根の下で暮らしていると、ぶつかる部分も必ず出てきますよね。夫婦間の衝突はどうやって解消していますか。
「これはやめて」「直してほしい」ということがあれば、細かいことでもその都度、すぐに言うようにしています。
不満は借金と同じで、ためるほどに返すのが大変になる。感情のやり取りってお金のやり取りに近いものがありますよね。だから「清算はこまめに」というのがうちのモットーです。
ただ、そのときの言い方として「ダメ出し」はしないように気をつけています。
ダメ出しって自分だってされたくないじゃないですか。ダメ出しや命令じゃなくて、やってほしいことをお互いが「お願いできるかな」という形のほうがスムーズにいいサイクルが回るんじゃないかなって思いますね。
本では、フェアな子育てのための我が家なりの20のルールを紹介していますが、あくまでもお互いの間でのマイナスな感情、つまり「借金」を増やさないためのルールなんですね。
一方で、夫婦間の「財産」を増やしていくためには、ポジティブな声掛けも絶対必要。
「野田さんがいてくれてやっぱり助かる」「一緒に色々できて楽しいね」とか、そういうポジティブな声掛けもかなり意識してまめにしています。
夫婦のケンカは場数をこなそう
——お子さんの前で夫婦でケンカすることもありますか。
もちろんあります。ツーオペ育児を目指す上では、ケンカはやらざるを得ない。そのかわり、お互い話し合って納得して、仲直りするところまでちゃんと持っていく。子どもはそれを見て「ケンカしても仲直りできるんだな」って学んでくれると思うので。
ケンカって、場数なんですよ。
「ケンカになるのが嫌だから」ってネガティブに捉えて避けていくと、どんどんケンカが下手くそになる。ケンカだって、練習しないとうまくできないんですよ。
昔の私がそうだったんですが、「自分はこれが嫌だ」とか、最初からはなかなかズバッとは言えませんよね。
でも何度もケンカを繰り返していくと、だんだんうまく伝えられるようになっていくし、そうすると仲直りまでの時間も短くなる。日常の不満を伝え合うような、ちっちゃいケンカのほうが仲直りもしやすいので、子どもの前でやっても平気かな、って。
——3歳の息子さんは夫婦ゲンカにどんな反応を?
最近は私たちがケンカすると「お父さん、お母さん、落ち着いて!」って言ってきます(笑)。「落ち着いているから大丈夫。今、お父さんとお母さんはケンカじゃなくて、お話し合いをしているだけだから」と伝えて、収まるところまでを全部見せる。
ただ、子育てって新しいフェーズになると新しい課題がどんどん出てくるじゃないですか? だから、夫婦ゲンカがまったくなくなることはそうそうないのかな、って思います。
水谷さるころ(みずたに・さるころ)
1976年、千葉県生まれ。イラストレーター、マンガ家、グラフィックデザイナー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演。のちにその道中の顛末が『30日間世界一周!!』(全3巻・イーストプレス)としてマンガ化。16年に自身の結婚、離婚、事実婚で再婚したアラサーの10年間を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。趣味は空手。
新著『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』は新潮社から発売中。
(取材・文:阿部花恵 編集:笹川かおり)