「どうして医者は冷たいの?」 患者と医者のより良い関係が作る未来とは

「どうして医者は冷たいの?」 患者と医者のより良い関係が作る未来とは
Yujiro Nakayama

「どうして医者は冷たいの?」

誰でも、一度は「冷たい」医師の態度にショックを受けた経験があるのではないだろうか。

しかし、外科医の中山祐次郎さんは、編集者から著書の内容として提案されたこのテーマに、ものすごく驚いたのだという。

「冷たくねーし!」

学生時代から誰よりも勉強してきた。医師になってからは長時間労働に徹夜勤務の当直。病気で苦しむ患者のため、どれほど我が身を捧げてきたのだろう。「冷たい」だなんて言われる筋合いは全く無い...。いや、あるかもしれない。

数日考えてみると「そういえば...」という気分になったのだという。

中山さんの胸には、過去に自分が患者と対峙した様々な場面が浮かんできた。

手術室に入る直前、別の患者から急を要さない質問を受けたような場合「看護師に相談して、後日アポを取って」などと説明することがある。遅刻して手術を遅らせるわけにはいかないからだ。

しかし、質問をした患者にはそれがどう映っていたのだろうか?

「冷たい」に代表されるような、医師と患者の間にある大きなギャップ。それを埋めようという壮大な取り組みを、中山さんは著作『医者の本音』(SB新書)で手がけている。

『ただ態度の悪いだけの医者は論外です。しかし、患者を傷つけたい医者なんて、ほとんどいない。では、どうして医者の態度は「冷たく」見えてしまうのか。

昔と比べて、頭ごなしに怒ったりする医者は減りました。けれど、一方的でパターン化した対応をしていることはある。

そういう状況で、患者は医者に聞きたいけれど聞けない質問が山程あるでしょう。関係改善のため、知らせなければいけない情報があると思いました』

中山祐次郎医師
中山祐次郎医師
Yuriko Izutani/HuffPost Japan

著作では、「冷たい」態度の背景として、医師の分刻みのスケジュールや、「風邪を治す薬」がないことなど、様々な理由が、データに実感を交えた「本音」で語られている。

さらに、ギャップを解消するために患者側がどのように準備をすればいいか、医師ができるインフォームドコンセントの改善策など、患者側・医師側双方ができることを具体的に提案している。

「どう生きるか」「命の値段」は誰が決めるのか

中山さんは、医師と患者のコミュニケーションは、患者が治療をどう選択し「どう生きるか」に関わる重要な問題だ、とも指摘する。そして、医者が考える「いのち」についての本音にも切り込んでいる。

本書で挙げられているのはこのような事例だ。

・90歳を超えた患者に大腸がんが見つかった。

・認知症やその他の病気も患っている。

・家族は、介護に十分な人手をかけられる状況ではない。

この患者は、命の危険を冒してもがんを切除する手術をすべきか、それとも、大腸がんはさわらずに、大腸の閉塞を防ぐ手術にするべきか。その場合、手術後に家族の介護がないと生活できない手術をするべきか。

「現場の医者が一人で頭を悩ませて『やろうかな、どうしようかな』と決めるようなことではないのは明らかです。しかし、現状はそれに近い状況なのです。もちろん、本人と家族に手術の必要性やリスクを説明しますし、意向を伺います。ですが、どちらにでも誘導できてしまう側面があることを指摘せねばなりません。(中略)あなたは、もし自分が80歳、90歳を超える歳でがんと診断されたら、手術を受けますか?あるいは、あなたの親が同じ状況だったらどうですか?正直なところ、私自身もまだ正解に行き着いていません(『医者の本音』(SB新書)より)」

この事例は、とある個人の患者に迫られた選択だ。しかし、個人が「どう生きるか」という考えの積み重ねが、限られた医療資源とそれを負担する社会や国家の姿を決める。

2016年度の日本の医療費(概算)は41.3兆円だった。前年度よりは若干減ったが、医療費はこの15年間で10兆円以上も増えている。

厚生労働省保険局

医療の高度化や、国民の高齢化によって増え続ける医療費を、社会の一員である我々はいつまで支払い続けられるのか。そして皆が受けられる医療制度を支え続けるために、我々はどんな生き方を選ぶべきなのだろうか。

それが、本の最後で提言される「延命を最優先させる医療の終わり」につながっている。

『医療の費用対効果を考え、「1年間を延命させる治療に対してかけられる医療費に上限を設ける」ことについて広く聞いてみよう、という検討は、既に厚生労働省で行われたことがあります。

杉田水脈議員の『生産性』は物議を醸しました。人の命が等しく尊いのは当たり前です。しかし、かけられる医療費が制限された状況では誰もが「最大多数の最大幸福」を得ることを考えなくてはならない。

医者と患者がもっと距離を縮めて、ひとりひとりの治療方針から、大きな制度までを考えていく必要がある。その時、今よりもさらに人間対人間としての関係が大事になって行くでしょう。情報を持っている側の医者がもっと発信すべきだと思います』

私たちはどう生き、どう死ぬのが幸せか。

毎日のように人の死に直面し続けている外科医の「本音」に、その答えのかけらが見つかるかもしれない。

中山祐次郎さんプロフィール

1980年生まれ。鹿児島大学医学部医学科を卒業。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、現在は郡山市の総合南東北病院で外科医長として勤務。資格は消化器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医、感染管理医師など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。Yahoo!ニュース個人連載では2015年12月、2016年8月に月間Most Valuable Article賞を受賞。著書に『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』 (幻冬舎)。

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