ここはどこのオフィス?おしゃれな職場でみえた、フィンランドの「変革」への向き合い方

「フィンランド人は、変化が好きなんです」

こちらの写真を見てください。

「幸せ」1位のフィンランドに「#幸せの国のそのさき」を探しに来た旅の1日目の8月6日。

わたしは、フィンランド・ヘルシンキのあるオフィスを訪問した。

さて、問題です。

ここは、どういう組織のオフィスでしょうか。

スタートアップ企業? ネットメディア? IT企業?

想像してみてください。

いきなり変なオブジェが出現。これは、トランプ大統領がフィンランドを訪問した2018年7月16日、プレスセンターに記者への案内用に置いたものだそうだ。これを見ても、働く気力が湧いてきません...。

むき出しの古いタイルと木の柱、そしてモダンな家具たち...。「北欧」っぽさがにじみ出ています。

ヒントを出しましょう。

新聞紙がたくさん置いてあるデスクがありました。

正解は...

フィンランド外務省の広報部でした!!!

担当者(上の写真奥)が誇らしげに案内してくれた。

建物は1820年代のもので、建てられた当時は、フルーツの貯蔵庫として使われていたという。その後、外務省の広報部のオフィスとして使われている。

さらに3年前、この建物の内装工事をして、いまのようなオフィスに生まれ変わった。官公庁の空間とは思えないくらい、カラフルで開放的だ。

まるで、今をときめくスタートアップ企業のオフィスのようだった。働いている人々の顔もどことなく、イキイキしてみえる。

担当者によると、内装工事で変えた点は、主に次の3つだという。

①フリーアドレス

以前は、職員ごとに机と席が用意されていた。しかし、円滑なコミュニケーションを図るために、フリーアドレスにして、部屋に置いてある机や席には、誰が座ってもいいことにした。下の写真の奥にある、白いテーブルも仕事に使われている。

ARISA IDO

②空間の分離

部署ごとに席を分けるのではなく、個人のその時の働き方に合わせて空間を分離した。会議や打ち合わせなどで使われるコミュニケーションのスペースでは、空間を広くとり、議論がしやすいようにした。集中スペースでは、原則静かに過ごさなくてはいけない。個人は自分のニーズに合わせて部屋を移動できる。

③立ちデスク

人々が移動しやすいように、立ったまま仕事ができるデスクを用意している。もちろん、座って仕事もできるが、移動が多いので、立ったままで仕事をしている人が目立つ。コーヒーを取りやすくするためではないかと考えてしまった。(フィンランド人の1人当たりのコーヒー消費量は世界一)。

おしゃれな空間、でも本当にそれでいいの?

こんな素敵なオフィスが官公庁で実現できるなんて、さすがデザインの国だ、と感動した。

ハフポスト日本版に勤める前は、不動産会社で、オフィスビルの建築などにも関わっていた。その関係で内装も見る機会が多く、オフィスの環境については、どういう環境なら仕事を効率化できるのか、いつも関心を持ってきた。

おしゃれで、人に自慢できるようなオフィスは誰もが憧れる。それだけではなく、この開放的な空間は、コミュニケーションを重視するために徹底的に仕切りをなくしている。情報のスピードが重視されている職場だから、こうした方が、よりスムーズに仕事が進むのだろう、と思った。

広報部の副部長、ヨハンナ・コトゥカヤルヴィさんに、官公庁のオフィスを、なぜこんな最先端のものに生まれ変わったのか、理由を聞くと「フィンランド人は変化が好きなんです」という。

最初に挨拶をするコッカジャーヴィさん
最初に挨拶をするコッカジャーヴィさん
ARISA IDO

「人口約550万人の小さい国だから、変化がないと生き残れないとも思っています。上の世代も変革が必要だと考えていて若い世代に斬新なアイディアを出すよういつも求め、若い世代も、それに応える責任を問われます。このオフィスも、その『変化』の一つです。最先端のトレンドを取り入れたオフィス空間に変えて、業務がどれだけ効率化できるかを実験しました。まずは、外務省の広報部からです」

上の世代が、変革を若い世代に求めるーー。世代間の関係性がこういう形で成り立っていることが、新鮮だった。日本では、上の世代が、どちらかというと変化を好まず、若い世代も上の世代に気遣い、考えを持っていてもなかなか言えないという構図ができているように思う。

将来は、外務省全体、そして他の省庁の内装工事や配置換えにも着手できれば、と話すコトゥカヤルヴィさん。

「しかし、言うほど簡単な話ではないんです」とコトゥカヤルヴィさん。実際、外務次官は、こうした「変化」には懐疑的だという。

「外務省は特に機密事項が多い省庁です。いくらおしゃれで開放的な空間を作り上げても、機密文書が漏れることは当然、絶対にあってはなりません。本当にこの『変化』が必要なのかどうかについては、まだ議論されている最中なんです」

本業のリスクをとってまで変化を求める必要があるのかは、確かに議論の余地がある。

フィンランドは、どんな分野でも、どの国よりも最先端のところにいる。

その変革のスピードは、むしろ「前のめり」になっているような印象すらあった。議論よりも変化することを優先する、といったような。だけど、それは考えすぎのようだ。

「変化」を実行しようとする際、フィンランドでも議論して、「変化」が必要ないと判断されれば、実現されることはない。

フィンランドと日本は、「変化」をする国、しない国の違いがあると思っていたが、実際はフィンランドでも「変化」が実現されなかった例も多々あるようだ。

2カ国の大きな違いは、一度決めた「変化」への判断に対しどれだけスピード感を持って、取り組めるかの違いなのかもしれない。

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2018年8月、フィンランド外務省が主催する「若手ジャーナリストプログラム」に選ばれ、16カ国から集まった若い記者たちと約3週間、この国を知るプログラムに参加します。

2018年、世界一「幸せ」な国として選ばれたこの場所で、人々はどんな景色を見ているのか。出会った人々、思わず驚いてしまった習慣、ふっと笑えるようなエピソードなどをブログや記事で、紹介します。

#幸せの国のそのさき で皆様からの質問や意見も募ります。

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