これからの経済
2018年09月01日 07時41分 JST | 更新 2018年09月29日 07時48分 JST

手触りが紙そっくりの電子漫画本、ハンパない画質へのこだわり

発売早々で販売目標値を2倍に上方修正

紙の本ソックリの手触りだけど、電子書籍――。そんな画期的な商品が人気を呼んでいる。電子書籍にありがちな線のにじみをなくすなど、徹底的に画質にもこだわっている。

手触りは紙そのもの!驚きの電子漫画本が発売

見開きで漫画を表示する、今までにない斬新な電子本。画質は鮮明で、紙の本と同様に、線画のにじみがない。見開きで読むことで、昔のように漫画の世界に没入できる ©北条司 / NSP 1985, 版権許諾証 AG-708

 外装も手触りも、紙の漫画本そのもの。しかし、本を開くと自動的に画面のスイッチが入り、片面ずつ両側に配置された7.8インチの2枚の電子ペーパーに、漫画が見開き状態で表示される。本体左下にあるボタンを押すと、次の見開きに切り替わり、まるで紙をめくるように読み進めることができる。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 これこそまさに、ひと昔前に思い描いた未来の漫画本の姿ではないか――。ユーザーからそんな声も聞こえてきそうだ。この従来の紙の本とデジタルの技術を融合させたハイブリッドな電子本が、技術ベンチャーのプログレス・テクノロジーズ(東京都江東区)が開発し、7月14日から蔦屋書店で予約販売を開始した「全巻一冊」シリーズだ(本体の価格は3万5000円、以下すべて価格は税別)。

「全巻一冊」の名の通り、往年の名作の全巻がコンテンツカセット(SDカード)1枚に収録され、電子本の本体内部のカードスロットに挿入して読むことができる。発売当初のタイトルは、「北斗の拳」(1万5300円)、「沈黙の艦隊 / ジパング」(3万7500円)、「シティーハンター」(1万9700円)、「ミナミの帝王」(1万円)の4作品で、8月には新たに「NARUTO-ナルト-」(2万7390円)と「銀牙伝説WEED ウィード&オリオン」(1万円)も加えられた。今後も毎月1作品程度が追加されていく予定だ。

本体内上部に設けられたカードスロットに、全巻が収録されたSDカードを挿入する方式。バッテリーは単4乾電池4本だ

 そもそも、この奇想天外な電子本の開発を思い立ったのは、現行の電子書籍端末やスマートフォンを使って、「1つの画面」で漫画を読むスタイルへの疑問からだった。

「電子書籍端末や普段使いのスマホに、いつ、どこにいてもダウンロードして楽しめるため、入手性や効率性は格段に高まった。しかし、便利さを追求しすぎたばかりに、昔の紙の本が持っていた良質な読書体験が損なわれ、それに拒否反応を起こしているユーザーも多いはず」と、プログレス・テクノロジーズの開発責任者である小西享氏は考えた。

従来の電子本にない画質の良さにもこだわった

 そこで着想したのが、行き過ぎた電子化を紙の漫画本に"引き戻す"ことだ。全巻一冊シリーズの本体には各作品のカバーをかけることができ、厚みや重さも漫画本と同程度にした。さらには疑似的にページの束を入れて本の体裁を再現するなど、紙の本の質感に徹底的にこだわった。紙の本と同じく見開きで読めることで、作品にどっぷりと浸る没入感も味わえる。ネットからのダウンロード方式ではなく、コンテンツカセットを採用したのも、できる限り余計な機能をそぎ落とし、使用感を紙の本に近くするためだ。

紙の本と同様の読書体験が可能。コンテンツカセットごとに用意された作品のカバーをかけられたり、疑似的にページの束を再現するなど、紙の本の使用感を実現することにこだわった

 画質へのこだわりも半端ではない。従来の電子本では、圧縮された画像データを受信して表示するため、どうしても線画のにじみが出たり、暗めの画質になったりしがちだった。だが、「全巻一冊」では圧縮していない生データを採用し、さらに、紙の作品を忠実に再現するための補正を1ページずつ丹念に施した。

 非圧縮の大容量データをそのまま使えるのは、コンテンツカセット方式ならではのメリットだ。実際に全巻一冊の画質を従来の電子本と比べると、線画のにじみがなく、鮮明であることを実感できた。

 一方、デジタルであるがゆえの利点は、ボタンを押すだけでサクサクと読み進められ、次話と前話、あるいは次巻と前巻にボタン1つで移動できることだ。

 また、北斗の拳の場合、英語表記にも対応しており、ボタンを押すだけで日本語と英語の言語切り替えが可能だ。コンテンツカセットを入れ替えるだけで、多くの作品の全巻を読めるため、本棚にすっきり収まる省スペースも魅力。こうして、紙の本と電子本の"いいとこ取り"の読書体験ができることが、全巻一冊シリーズの斬新でユニークな利点だ。

発売早々で販売目標値を2倍に上方修正

 発売に先駆け、2017年秋にクラウドファンディングのKickstarterで実施した支援プロジェクトでは、「北斗の拳」を予め収録した全巻一冊を提供。820人の支援者から約2300万円の資金調達に成功し、需要の高さをうかがわせた。

 そして今回、蔦屋書店では東京の渋谷や銀座、大阪の梅田など5店舗で、本体を各店200台ずつ合計1000台の限定予約販売でスタートしたが、売れ行きが好調なことから、数量を各店400台、合計2000台に上方修正した。なお、各タイトルは1000セットずつ、合計5000セットの限定販売を予定。8月17日現在、従来の冊数に換算して約1万冊を販売する成果を叩き出している。

手前中央が本体。黒いカバーを外し、各タイトルのカバーを代わりにかけ、紙の単行本感覚で楽しめる。価格は本体が税別3万5000円、各タイトルは「シティーハンター」(全32巻+読み切り2話)が税別1万9700円、「ミナミの帝王」(100巻+ヤング編 利権空港3巻)が税別1万円など

 電子本の新たな形を提示した全巻一冊シリーズ。まずは、紙の漫画本の読書体験を持つ40~50代の男性をターゲットとするが、従来の電子書籍端末やスマホで漫画を読みなれた若い世代にも、本来あるべき読書体験として、浸透を狙う。

「ただ、我々は1つの方向性を示しただけ。今後、他社から全く異なる形の電子本が登場することも期待したい。そうやって、互いに切磋琢磨して、電子本の正しい進化の道を探っていければと思う」と、小西氏は話す。

 出版科学研究所によると、2017年は電子化された漫画の単行本の売り上げが1711億円になり、初めて紙の漫画単行本(1666億円)を上回った。待ったなしで進む漫画の電子化の中で、電子書籍デバイスの新たな覇権争いが巻き起こるのか、今後の動向を見守りたい。

(大来 俊/5時から作家塾(R))

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