持続可能な社会をつくるため、高校生が課題解決を話し合った

「人口を一極集中させる」「海水を真水に変えて子供の貧困をなくす」自由な発想で議論されたこと

世の中にあふれるさまざまな課題を、ユニークで柔軟な発想を使って解決していく――。

8月25日に都内で開催されたシンポジウム「朝日やさしい科学の教室」では、高校生たち23人がワークショップで現代社会が抱える問題を話し合い、最先端のテクノロジーを使って解決する方法を話し合った。

ワークショップに先立ち、杉浦環境プロジェクト株式会社代表の杉浦正吾さんと、早稲田大学理工学術院准教授で、VR(ヴァーチャル・リアリティ/仮想現実)の研究をしている玉城絵美さんがパネリストとして参加し、課題解決のヒントを高校生に伝授した。

杉浦正吾さん「これからの時代は、アイデアが社会を変えていく」

環境学の専門家である杉浦正吾さんは、世界規模で解決しなければいけない環境の課題と、解決の実例について語った。

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国連は、国際的に協力して2030年までに解決すべき17の目標を立てました。これをSDGs(持続可能な開発目標)といいます。経済、社会、環境に関する国際的な課題解決を目指したものです。

まず挙げられる課題は、貧困。世界銀行という組織が定めた、世界共通で貧困と判断される「国際貧困ライン」という基準があって、その場合、世界中で1日あたり1.9ドル(約210円)未満で暮らす人たちを、「極度の貧困」状態と定めています。

「極度の貧困」状態にある人がどれくらいるかというと、2017年の調査によると2013年の段階で10.7%、およそ7億6700万人います。

次に、教育問題。非識字率と言って、世界で読み書きができない15歳以上の成人はどれだけいるか。ユネスコによると、約7億8100万人(2015年現在)いますが、そのうち3分の2が女性で占められています。世界的に見て男女平等に教育が受けられているわけではないんですね。

環境に目を向けてみると、世界で約21億人、つまり10人に3人は安全な飲み水を手に入れられない。 そして、世界の5人に1人にあたる13億人が、近代的な電力を利用できていません。

■ 課題解決しないと、社会は悪化する一方

このように、世界をぐるっと見渡してみると、多くの課題を抱えています。こうした課題を解決しないと、社会は悪化していく一方です。

SDGSのSはサスティナブル。これは価値感や生活環境が違う人たちが合意形成し未来につながる行動をするという意味。持続可能性といってもよくわからないでしょ。SDGsの17の目標は、地球の明るい未来のために世界規模で意見を取りまとめたものなのです。つまり、国際社会で合意形成した目標がSDGsなのです

SDGsに取り組んでいるのは、国連のような国際機関だけではなく、さまざまな団体、企業が取り組んでいます。

ユニークな取り組みを紹介しましょう。アメリカの「ジップライン」という会社は、貧困国でドローンを使って医療品や輸血用の血液を配送する、というアイデアで、世界中からお金を集めました。

エチオピアでは、イタリアの建築デザイナーが、その国に自生する木を使って大気中の水を集める給水塔のユニットを作りました。科学的なテクノロジーは一つも使っていないのに、1日100リットルの水を集められるのです。

これからの時代は、アイデアが社会を変えていきます。「過去と未来を見る力」「もののつながりを考える力」「作り出す力」「巻き込む力」など、さまざまな力を駆使して、社会課題の解決ができることを、皆さんに知っていただきたいと思います。

玉城絵美さん「想像力を膨らませて課題解決に臨んでほしい」

大学でコンピューターを使って人間の身体の動きを外部と共有するテクノロジーを研究している玉城絵美さんは、身体感覚を共有するシステムを開発するベンチャー企業「H2L」の創業者でもある。玉城さんは、自身の研究を通じて課題解決の道を探る方法について話をした。

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私からは、テクノロジーを使って「他者と身体を共有する未来」についてお話したいと思います。

VRのキャラクターと身体を共有するテクノロジーは少しづつ出てきたのですが、私は人間とコンピューターの相互作用を促進する「HCI」(human computer interaction)という分野で、他人の身体を動かして共有する「ボディシェアリング」の研究をしています。

私がこの研究をするようになったきっかけは、高校生の時に長期入院したことでした。治療は大変だったのですが、入院生活自体は、お医者さんや看護師のみなさんがが全て管理してくれたおかげで、ものすごく快適でした。引きこもるには最高の環境で、絶対に出たくないと思ったくらいでした。

しかし、引きこもろうとすると、だんだん飽きてくるんですね。それは、外部と全く交流できず、刺激がなかったからなんです。だから、「完璧に引きこもって、外部とも交流したい」という課題を解決しようと思って、この研究を始めたのです。

最初はロボットを使って外部と接触しようとしたのですが、ロボットはそれほど普及していませんでした。それなら、友達を使おうと。私の代わりに友達に外に行ってもらって、面白いことをやってもらおうと思いました。

コンピューターやスマホを使って、友達に買い物してきてもらったり、面白いところに言ってもらったりしようとしたんです。

ある時、家族が海外旅行に行ったので、海外から写真を送ってもらったのですが、私にとっては羨ましくなるだけで、全く面白くない。自分が身体を動かして見たり聞いたり触ったりする感触、つまりインタラクションがなかったからなんです。

映画を見ているのと一緒なんですね。だから、自分が作用して世界と関わっていきたいと考えるようになりました。

■1人の身体を2人以上の複数人数で共有することを研究課題に

でも、身体の視覚、聴覚、触覚のを伝える装置がなかったから、自分でつくろうと思って、今こうして研究をしています。

例えば、私は今大学で、バーチャルキャラクターと身体を共有して講義をしたりしています。私ではなくて、おばあちゃんが講義するのです。

これを遠隔教育に利用して、生徒がバーチャルキャラクターを使った家庭教師を読んだりして、バーチャルでの身体と、実世界での身体を両方操作するシステムを開発しました。

また、医療やリハビリテーションなどで、人とバーチャルキャラクターが経験共有できるように、遠隔で作業できるシステムの開発に取り組んでいます。

これからは、1人の身体を2人以上の複数人数で共有することを研究課題にしています。私の身体も皆さんが使っていいですし、みなさんの身体もたまに貸してくださいという状態ですね。とくに、身体の表面上ではなく、筋肉や腱、関節などから伝わる「深部感覚」を共有しようとしています。

深部感覚を共有すると、ロボットで授業したりだとか、友達の身体を借りてビーチに遊びに行ったときに、1人で行くのではなくて2〜30人くらい身体の中にいる状態で遊ぶといったことができるようになります。

課題解決の方法を編み出したらどういうルールが必要になるのかとか、課題解決によってどのように社会が変化していくのか、あるいは一つの課題を解決することによって生まれる新たな課題にどう取り組むのか......というように、一人ひとりが想像力を膨らませて課題解決に臨んでいけば、社会はより良くなるのではないかと思います。

課題解決を探って生み出された、高校生たちの柔らかな発想

杉浦さん、玉城さんの講演のあと、参加者の高校生たちはグループに分かれて、17あるSDGsの目標の中から「課題」を選び、その解決策を話し合った。具体的なアイデアは次の通り。

1.

課題:世界全体の1人あたりの食料の廃棄を半減させ、食品ロスを減らす

高校生の解決策:食品の廃棄率を下げるために、食品を購入したときのレシートに消費期限などのデータを読み取れるコードを入れる

レシートにアプリで読み取れるコードを付け、自分が買った分の食品の消費期限や消費量、パッケージの廃棄率などがわかるデータが読み取れるようにする。そのデータをデータベースに纏め、産地にフィードバックし、消費量の分布を把握したり、出荷方法の改善につなげ、食品の廃棄量を削減させる。

2.

課題:すべての人が安全で安価な飲料水を得られるようにする

高校生の解決策:海水を真水に変える技術を発展途上国に提供し、生活水準を上げる

子どもたちが教育を受けられない理由は、農作業などの労働に駆り出されて学校に行く時間がないから。子どもたちが農作業せざるを得ないのは、働いた分だけの生産高が取れないから。すると根本的に帰着するのは「水」になる。きれいな水は、農業に影響を与えるから、その結果、農業従事者の経済環境や子供の教育といった問題を作っている根幹の原因ではないか。

具体的には、先進国が海水を真水に変える技術を発展途上国に提供し、途上国の生活水準を先進国のレベルまで引き上げる。人間は同じポジションに立たないと共感、共有して一つの目標に向かっていけないので、海水を真水に変えることが、シンプルだけど一番大切ではないかと思った。

3.

課題:VRによって可能になること

高校生の解決策:VRを使って、手術、建築、料理などの技術を教える

遠く離れた違う国の人でも、VRを使って感覚的に近くにいるような形で技術を教え、押しあられることができる。教えるというよりも、技術そのものを商品にして世界に売る。技術取得にVRを使えば、例えば男性が女性に教える時、身体に触れないと教えられないような技術も、VRでは簡単にできる。そうすれば、技術の共有化が進み、課題解決が促進されるのではないか。

4.

課題:国の政策や計画に気候変動対策を盛り込む

高校生の解決策:人口を一カ所に集めて、他の場所は森林を増やす。

人口を東京のような場所に集中させ、他は緑を増やして地球温暖化を解決させる。また、交通や電力などを集中させて削減されるエネルギーを発展途上国に回すこともできるのではないか。

5.

課題:VRやAI(人工知能)を使って、 SDGs以外の問題も解決する

高校生の解決策:VRを使った疑似体験で、防災や地球温暖化への意識を高める。

VRを使って火災や転落、猛暑や地震といった災害を疑似体験し、避難経路の確認といった防災に役立てる。

あるいは、AI(人工知能)を使って未来の気候などを予測し、意識を改善させる。

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高校生たちによるこうした課題解決のアイデアに対し、杉浦さんは「具現化するために必要なこと、どんな人を巻き込めばいいのかを次に考えて、是非実現させてほしい」、玉城さんは「SDGsやVRといった概念を、自分たちの身近な問題に落とし込んでいるのが素晴らしい。概念と身近な話が交互に行き来するロジカルシンキングがとてもうまい」と評した。

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