現代音楽で駅からホームレスを追い出す計画、演奏家たちはコンサートで対抗した

「芸術は武器などではない。放っておけないと思ったんです」
駅前でコンサートを開く音楽家たち。帰宅途中の人たちが足を止めて聴き入った=ベルリン
駅前でコンサートを開く音楽家たち。帰宅途中の人たちが足を止めて聴き入った=ベルリン
Initiative Neue MusikのFacebookから

ドイツ・ベルリンの駅構内にいるホームレスや薬物依存症の人たちを退去させるために、「無調音楽」を構内に流そうという計画を、鉄道会社が8月下旬に公表した。

弱者への「攻撃」の道具に音楽が使われることへの違和感を表明するために、音楽家たちは実に音楽家らしい、ユーモアあふれた方法を使った。駅近隣で自ら無調音楽のコンサートを開いたのだ。

結局、鉄道会社は当初の計画を撤回したという。コンサート企画者の寄稿を、イギリスのガーディアンが掲載した。

ニューヨークタイムズによると、計画が浮上したのは、ドイツ鉄道が運営する都市高速鉄道網(Sバーン)の駅。

無調音楽は、メロディーやハーモニーなど、聞き慣れた展開をしない音楽。20世紀以降、本格的に展開されてきた現代音楽のジャンルだが、いわゆる「不協和音」など、難解で耳障りな音と感じる人も少なくない。

鉄道会社の目的は、こうした音楽を流すことで、耳障りに感じたホームレスたちが駅から出て行くことだったとされる。

ニューヨークタイムズによると、ドイツ鉄道の広報は「乗客に迷惑をかけないようプラットフォームでは流さない」などと説明した。

この計画を知った、ベルリンの現代音楽支援団体「イニシアチブ・ノイエ・ムジク」で働くリサ・ベンジェスさんは「こんなこと、放っておいてはいけない。社会的な弱者に、無調音楽が使われる事態に対抗しなければと思ったんです」と、ガーディアンへの寄稿で振り返る。

「(駅構内で無調音楽を流してホームレスらを追い出す行為が)明らかに非人間的であるのと同様、Sバーンでの計画は、無調音楽について誤った情報を伝えています」

そもそも無調音楽は、それまで調和の世界だった「音階」から、音を解放するものだった、とリサさん。

「芸術を、人々への武器にしてはいけない」

「ユーモラスなやりかたで抵抗したかった。だから、私たちは無調音楽のコンサートを開くことにしたんです」

2日間で、ベルリンの現代音楽家たちを集め、8月24日夜、ドイツ鉄道がこの計画を試行しようとしていた駅周辺で無調音楽のコンサートを催した。チェロやシンセサイザーなどの演奏に人々の輪が出来た。「駅構内やプラットフォームでやるつもりはありませんでした。友好的に『抵抗』したかったのです。7時から始めたので、仕事帰りの人たちなど300人ほどが来てくれました」

Sバーンのマネージャーも現れた。マネージャーは演奏家たちが奏でる無調音楽を聞いて、無調音楽とはなにかを知り、当初の計画を打ち切ることにしたという。

それだけでなく、今回の「抵抗」で、ベルリンの豊かな現代音楽シーンを浮き彫りにすることができた、とリサさん。「だから私たちはSバーンに本当に感謝しているのです」

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