WORLD
2018年09月19日 17時04分 JST | 更新 2018年09月19日 17時04分 JST

先住民はテロリストの烙印を押された。「先祖代々の土地」めぐり、各国で政府との対立が激化

「各国政府や企業が先住民に戦争を仕掛けている」

LUNAE PARRACHO / REUTERS
ブラジルのマトグロッソ・ド・スル州に暮らす先住民グラアニ=カイオワ族の少女サンドリーリーさんが、正体不明の放火犯によって全焼した小屋の前に立つ。グラアニ=カイオワ族は、先祖から伝わる土地の所有権をめぐって流血する衝突に巻き込まれている

フィリピン北部の先住民ビクトリア・タウリ=コープス氏は、テロリストだ。――フィリピン政府は、そういうレッテルを貼る。しかし、カエナカイ族出身のコープス氏は、国連人権理事会の特別報告者でもある。先住民の権利が守られているかを調査し報告する役割を担っている。

コープス氏の報告書は、先住民の権利を主張する活動家の声を代弁している。しかし、何百人といる先住民活動家は、今や犯罪者扱いだ。

報告書でコープス氏は、企業や政府が先住民に対してネガティブキャンペーン、法規制、そして肉体的暴力で圧力をかけている現状を伝えている。先住民の活動家たちが、自分たちの土地や生活様式を守ろうとするのを弾圧するためだ。

「世界の至るところで、多くの先住民が犯罪者扱いされていることがわかりました」と、コープス氏は語った。「先住民が暮らす土地で、住民の同意を得ない開発プロジェクトが急拡大しているため、危機的な地球環境の破壊が加速しているのです」

ORLANDO ESTRADA VIA GETTY IMAGES
先住民の権利に関する国連の特別報告者を務めるビクトリア・タウリ=コープス氏。2018年5月10日、グアテマラシティで開催された記者会見の場で。彼女は母国のフィリピン政府からテロリスト認定を受けていた。

コープス氏が母国フィリピンで先住民の権利を取り戻す戦いを始めてから40年以上が経つ。しかし2016年、ダバオ市長だったロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に就任すると、コープス氏を含むおよそ600人の市民活動家が起訴され、「テロリスト」のらく印を押された。フィリピン南部ミンダナオ島の石炭採掘に先住民たちが抗議したことへの報復措置に違いないと、彼女は考えている。

「私たちは超法規的に殺人が行われている国にいます。法の支配などありません」と、コープス氏は語った。政府が発表したテロリストの一覧に自分の名前を目にしたとき、戦慄を覚えたという。彼女は、しばらくフィリピンから離れるしかないと感じた。「このような経験があったから、今回の報告書作成の作業はより意味のあるものとなりました」と、コープス氏は言う。「犯罪者のらく印を押された人たちが感じる恐怖を、身をもって経験したのです」

国連への報告書を発表する数週間前に、コープス氏の名前はテロリストの一覧から除外された。しかし、まだ多くの人がテロリスト扱いされている。

「先祖代々の土地」をめぐる対立が激化

22ページからなる報告書を見ると、政府や企業が、先住民の活動家を犯罪者扱いしているのが顕著だ。ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの発展途上国で特に弾圧が広がっているという。

「活動家への弾圧が激化している理由として、先住民の土地の共同所有権を尊重せず、先住民コミュニティの権利が保証されていないからだ」と、報告書には書かれている。

先住民たちは何世紀にもわたり、先祖代々の土地が自分たちのものであることを政府に認めさせようと取り組んでいる。そしてこの数年間で、対立はさらに激化している。世界的に農産品や鉱物の需要が急増しているからだ。

農業、鉱山業、化石燃料、森林伐採といった資源開発産業に資金が投入されている。投資家たちは新たな投資先の開拓に余念がない。パプアニューギニアの熱帯林だろうが、ブラジルの河川だろうがお構いなしだ。数千年単位までいかなくとも、少なくとも何百年もの間、先住民が暮らしてきた土地が開発されている。

AUSCAPE/UIG VIA GETTY IMAGES
パプアニューギニアの銅と金を産出するオク・テディ鉱山で進む森林破壊の様子。

「先住民が大規模な開発プロジェクトに抗議すると、彼らはいつも強制退去の危機にさらされる」と、オーストラリアにあるジェームス・クック大学の環境学者ウィリアム・ローレンス氏は指摘する。彼はインフラ開発が環境に与える影響を研究している。ローレンス氏によると、外国政府や多国籍企業が地元の政治家に賄賂を渡し、大規模計画のスピード承認を得るという。地元住民や環境に対する影響など気にもかけない。

「抗議する側の方が、犯罪者や外国のスパイ扱いされる。何とも皮肉な話だ」と、ローレンス氏は語った。

報告書によると、各国政府はさまざまな法規制で先住民活動家を犯罪者に仕立て上げているという。新たな国家安全保障法やテロ対策法を施行し、抗議の声を挙げる先住民を政府が容易に拘束できるようにする。「抗議活動の勢いを弱めるためには、冤罪をでっちあげることが一番簡単なのです。抗議活動に参加する活動家やリーダーに対し不法侵入、殺人、誘拐の罪を着せるのです。最悪の場合、裁判にもかけられずに殺害されてしまう」と、コープス氏は批判する。

冤罪で投獄される先住民たち

アフリカ西部リベリアの環境保護団体「グリーン・アドボケイツ・インターナショナル」の創設者アルフレッド・ブロウネル弁護士は、ハフポストUS版の取材にこう語った。

「各国政府や企業が先住民に戦争を仕掛けている。 正当な抗議活動を非合法化し、それでも抵抗する先住民を脅迫して逮捕し、刑務所に入れる手法だ」

先住民の権利を訴えて活動する人々が、証拠なしに逮捕され、裁判なしで数カ月、場合によっては数年間も拘留されることはよくある。

「弁護士にとっては悪夢だ。依頼人の無罪を証明しようにも、こうした悪循環にはまると何もできない。司法の場で依頼人の訴えを弁護する時間はほとんど与えられない」と、ブロウネル氏は語った。彼は母国リベリアで、パーム油の原料となるアブラヤシ農園(プランテーション)の大規模開発に反対する先住民コミュニティを長年支援していた。

MARCO LONGARI VIA GETTY IMAGES
リベリア北部、ロファ郡のアブラヤシ農園で進む森林破壊。ロファ郡は世界でも有数の生物多様性に富んだ地域だ。

「リベリア政府と、ビジネスパートナーの企業は、先住民を翻弄しようとしているのです」と、ブロウネル氏は言う。先住民コミュニティの意志をくじくための意図的な戦略だと指摘する。

冤罪をでっち上げられて追い込まれるのは先住民だけではない。彼らを支援する人々にまで及んでいる。NGO職員、ジャーナリスト、ブロウネル氏のような弁護士もそうだ。ブロウネル氏は電話で数え切れないほどの逮捕予告や殺害の脅迫を受け、2016年に家族と一緒にリベリアを出国した。現在はボストンに住み、ノースイースタン大学で客員研究員を務めている。

政府や多国籍企業はネガティブキャンペーンを駆使し、先住民の活動家は暴力的なゲリラだという印象操作をする。コープス氏の場合、企業がメディア、SNS、ビラを使って先住民を中傷し、先住民の活動家はテロリストだとレッテルを貼る。そして、犯罪をねつ造して告訴する。「企業が鉱物資源、石油、木材などの資源を得る目的で、先住民の居留地域を奪おうとする場合に使う常套手段なのです」と、コープス氏はいう。

「ネガティブキャンペーンを考え出すのは、政府の取引先である企業です。政府の財務担当者が公然と、そして水面下で資金援助しているのです」と、コープス氏が提出した報告書に書かれている。

手段を選ばず先住民の抗議の声を弾圧する国もある。グアテマラでは2017年夏、1カ月の間に先住民の活動家7人が素性不明の武装グループに殺害された。7月には、先住民族マヤ系イシル族の人権を守るために活動していた、25歳の看護師ファナ・レイモンドさんが拷問を受けた末に殺害された。この事件では1人も逮捕されていない。

「先住民に暴力を振るっても、罪に問われない傾向が広くみられる」と、アメリカのNGO「ライツ・アンド・リソース・イニシアティブ」(RRI)のアン=ソフィー・ギンドロズ氏は指摘する。

グアテマラだけではない。2017年に世界中で同様のケースが多く見られた。ロンドンとワシントンDCに拠点を置くNGO「グローバル・ウィットネス」によると、政府や企業が雇った犯罪組織や暗殺者たちの手により、土地の権利や環境保護を求める活動家207人が殺害されたという。犠牲者の4分の1は先住民だ。

2017年、殺害された先住民活動家の数が最も多かった国は、ブラジルだ。

「こうした戦いで、多くの指導者が殺害されました」と、ブラジルのマトグロッソ・ド・スル州に暮らす先住民グラアニ=カイオワ族の広報担当イナイ・ゴメス・ロペス氏は語る。

AFP VIA GETTY IMAGES
ブラジル、マトグロッソ州カンポ・ノーボ・ド・パレシスにある大豆農園。

グラアニ=カイオワ族は長年、牛の放牧場、大豆、サトウキビ農園(プランテーション)の所有者から自分たちの土地を取り戻そうと戦っている。

「女性や子供が被害に遭っています。子供たちは精神的な傷を負いながら育ち、暴力も受けています」と、ロペス氏は言う。「殺人犯が罰を受けることはありません」

ブラジルにいる他の先住民も、グラアニ=カイオワ族と同じような状況におかれている。先住民たちは、彼らの権利を奪う政策をとっているミシェル・テメル大統領政権と戦っている。

「ブラジル政府は経済発展のことしか頭になく、私たち先住民の持つ権利を尊重しない」と、ロペス氏は批判する。

REUTERS
2017年4月25日、ブラジルの首都ブラジリアで、ミシェル・テメル大統領に権利侵害を抗議するブラジルの先住民たち。

中国の「一帯一路」構想で、先住民たちはさらに追い込まれる

ローレンス氏は中国の「一帯一路構想」も、地球規模の環境危機を悪化させることにしかならないとみている。一帯一路とは、中国の世界的地位を高める目的で始まった、巨大な経済圏構想だ。習近平中国国家主席が2013年に提唱していて以来、65カ国でおよそ7000にのぼるインフラ整備や開発計画に対し、何十億ドル単位もの資金が投入される。中には、世界中の辺境地帯が開拓される計画もある。

「中国政府は上っ面なリップサービスはするが、先住民や環境といった問題は考慮していないようだ」と、ローレンス氏は言う。さらに中国には、アメリカの海外腐敗行為防止法(企業による海外の政府機関に対する贈賄を禁じる法律)のような、企業責任を問う法律がないことを指摘した。

「中国側から自主規制することは、ほとんどない」

BOBBY YIP / REUTERS
中国の巨大プロジェクト「一帯一路」を示す地図。2016年1月18日、中国の香港で開催されたアジア金融フォーラムにて。

コープス氏の報告書には、アメリカのような法規制が何としても必要だと記されている。各国政府や企業に対し、先住民が暮らす土地の開発を認可する前に、先住民への十分な説明と同意を得るよう強く求めている。

「先住民たちは開発そのものには反対していない。しかし、自分たちが参画することなく、一方的に押し付けられている"開発モデル"を拒絶している」と、報告書は指摘している。

コープス氏の報告書には、各国政府への勧告も記されている。先住民に対するネガティブキャンペーンを止め、先住民の活動家をたやすく犯罪者に仕立て上げる法律を改正し、先住民に対する暴力事件が起きたら徹底的に調査し訴追することを求めている。

最大の障壁は、土地所有権だ。「(テロリストなどという)捏造されたレッテル貼りが、先住民への襲撃や冤罪の原因となっている。先住民が集団で土地を所有する権利を認める必要がある」と、報告書は強く主張している。

現在、先住民やその他のコミュニティが共同生活している土地は、世界の土地面積の約50%を占める。しかし合法的に所有権が認められている土地面積は、およそ10%に過ぎない

先住民への土地所有権を認めると、保護されるのは先住民にとどまらない。最新の研究によると、先住民コミュニティに投資すれば、森林などの生態系が保護される効果があるという。さらに、年々悪化の一途をたどる気候変動や動植物の絶滅が抑制される効果もあるという。

「私はブラジル政府に我々先住民の権利を尊重し、グラアニ=カイオワ族を尊重し、我々の土地の境界線を画定してほしいのです」と、ロペス氏は訴える。「要求しているのは、我々に正当な所有権があるものだけなのです」

ハフポストUS版より翻訳、編集しました。