あの人のことば
2018年10月05日 15時01分 JST | 更新 2018年10月05日 15時01分 JST

ことでんとコラボも! 縫うだけで2か月半、約6mのスズメバルーンを扱う会社って

インパクトある見た目だけじゃない! 実はまじめな会社!?

  【スズメ社鳥の仕事場はこちら】鳥に囲まれた"アとりエ"

デジタルの進化が進み、世の中がどんどん便利になっている昨今。めんどうなことはすべてロボットが私たちの代わりにやってくれるという時代もくるのでしょうか。もちろん、歓迎すべき未来ではありますが、一度、足を止めて考えたいこともあります。

この時代にあって"てまひま"かけて毎日を過ごしている人がいます。便利の波に乗らない彼らの価値観のなかには、私たちが忘れがちなこと、見落としがちなことが少なくありません。そんな"我が道を貫く"専門家の元を訪れ、生きるためのヒントを得る企画。今回は、『株式会社 鳥』のスズメ社"鳥"です。

インパクトある見た目だけじゃない! 実はまじめな会社!?

その名も、『株式会社 鳥』。鳥の保護団体? 鳥専門のペットショップ? 一体何の会社で、どんなことをしているのか、ちょっと不思議なネーミング。加えて、ちょっと不気味な表情のスズメの被り物をし、巨大なスズメと並ぶ姿は、なかなかのインパクト。そんな謎多き会社の代表"鳥"締役・社"鳥"(しゃちょう)を務めているのが、杉浦裕志さんこと、スズメ社鳥です。

  「『株式会社 鳥』の企業理念は、野鳥の魅力を伝えること。野鳥に興味を持ってもらえるように、巨大なスズメバルーンを膨らませたり、ワークショップを開催したり。最近はグッズをデザインして販売し、売り上げの一部を自然保護団体に寄付しています」

会社の設立は、スズメ社鳥が大学院生だった8年前。きっかけは、大学院の修了制作でした。

香川県高松市にある『仏生山温泉』で行ったワークショップでの一コマ。あふれんばかりの"メガチュン"がなんともシュール

もともと、幼少の頃から鳥の生態そのものが好きだったというスズメ社鳥。自由に飛ぶことのかっこよさ、自然の中で生きる野生動物としての魅力を感じていたといいます。その後、絵を描くことが好きだったスズメ社鳥は、美術系の高等学校へ進学。大学ではデザインを専攻し、"人が使うものを作る"ことにシフトしていきます。

「おじいちゃんが布団を作る職人だったので、生業はモノを作ったり、手を動かしたりすることだなっていう意識が小さい頃からありました」

そして、大学4年生の時、"スズメ社鳥の誕生"につながる、ある転機が訪れます。

「大学で教わっていた先生が、絵を描くとか最終的なアウトプットにこだわらずに、コンセプトに合わせて媒体をなんでも使っていいよという、おもしろい方針で。そもそも"何を伝えるか"が一番大切だ、と。それで何をやろうかと考えたときに、鳥を身近に感じてもらえるものを作ろうと思い立ち、いろいろ作り始めました。そして卒業制作では、巨大な鳥の遊具、子どもたちと遊べるバルーンを作ることにしたんです。スズメをモチーフに選んだのは、一番身近だけれど、模様などは意外に知られてない。まずはここから存在感を大きくできたらと」

全国各地のイベントに"出鳥"しているスズメバルーン。左が高さ2mの"ビッグチュン"、右が6mの"メガチュン"

さまざまな企業から展示のオファーが舞い込んだ

卒業制作で作った2mの大きさのスズメバルーンこと"ビッグチュン"と、6mの巨大な"メガチュン"。

しかし、バルーンを作ろうと思い立ったところで、「作り方が分からなかった」というスズメ社鳥。そこで、インターネットでバルーンを作っている会社を探し、滋賀県にあるバルーン専門会社にたどりつきます。

「当時は20歳そこそこだったので、勢い任せで『作り方を教えてもらえませんか?』って菓子折り片手に訪問しました。そこの方がとてもいい人で、『ええで、ええで~!』って言ってこと細かに教えてくれたんです」

そこでノウハウを教えてもらい、バルーンに使用するパラシュートの生地を自ら調達。同居していた祖父のミシンを使い、また、祖父にも手伝ってもらいながらていねいに縫製し、2つのスズメバルーンを完成させます。ちなみに、メガチュンに関しては縫うだけで2か月半かかったという渾身(こんしん)の作。

昨年9月、香川県高松市の雑貨屋『TOYTOYTOY』と、"ことでん"こと『高松琴平電気鉄道』とコラボしたイベントにて

そして、そのスズメバルーンが卒業制作の作品として展示されている時、2度目の転機がやってきます。

インパクトのある巨大なスズメバルーンを目にした企業や行政が「うちのイベントでスズメバルーンを膨らませてくれないか」と、出展をオファー。「ひょっとしたらこの活動で食べていけるんじゃないか」と思ったスズメ社鳥は、「これで食べていこう!」と決意するのです。

「もちろん、依頼が来る前はスズメバルーンで食べていけるイメージがなかったので、就職しなきゃだめだろうと思っていました。動物カメラマンに憧れていたこともあり、NHKの映像を撮っている会社や、図鑑を出している出版社も受けました。ちょこちょこ就職活動はしていましたが、当時祖父母が体調を崩して入院したことから東京での就職に抵抗があり、もう少し鳥に対するコンセプトを煮詰めたいという思いもあって、最終的には大学院へ進むことに決めました」

なんと、内定をもらっていた会社も辞退し、その後の大学院の修了制作で、現在に続く『株式会社 鳥』を設立。2010年に法人化しましたが、すぐに厳しい現実に直面してしまいます。

会社が軌道に乗らず、就職&転職の道へ。しかし......

「収益は全然だめでした。1年頑張ってみて20万円くらいしか利益が出なくて。自分はお金を稼ぐの下手だなって痛感して、やっぱり就職して社会にもまれなきゃだめだって思いました」

そこで、『株式会社 鳥』を存続させながら働ける会社を探し、愛知県の商品企画を手がけている会社に無事就職。4年間がむしゃらに働き、それが功を奏してグッドデザイン賞を受賞したこともあったといいます。

しかし、多忙さから本来やりたかったはずの活動は全くと言っていいほど手つかずで、転職をして上京することに。ただ、転職したからといって簡単に軌道には乗りません。スズメ社鳥にまたしても試練が襲いかかります。

「転職先がなかなかのブラック企業で、2か月半で体調を壊してしまいました。それを機に、どっちみち苦労するんだったら、好きなことをして生きていきたいと本格的に思うようになりました。病気で気分が沈んでいるときも、道端でチュンチュンしているスズメを見ていると気持ちをニュートラルにもっていけるというか。鳥でもう一回頑張ろう。そう思っていた矢先、たまたまご縁があって『日本野鳥の会』に就職できることになりました」

お花畑にたたずむ"メガチュン"。そこにあるだけでいやされます

ひょんなことから、再就職が決まったスズメ社鳥。これまで携わってきた商品企画の仕事ではなく、今度は公園で鳥の生態について説明するレンジャーに。そして、その仕事と並行して『株式会社 鳥』の活動も行うことができるようになっていったといいます。

「レンジャーとしての仕事が好転のきっかけになった気がします。これまでオフィスにこもって仕事していたのが、野外に出て働けるようになって、おのずと気分も明るくなって」

その後、本業の仕事が徐々に増えはじめ、今年3月をもって2年半ほど勤めた『(公財)日本野鳥の会』を退職。酉年だった2017年は、"肩チュンbird"なる、肩にスズメを乗せるフィギュアを作るワークショップの開催が20件以上になり、まさに"飛翔の年"になったそう。

今年はさらに羽ばたくため、これまで以上に精力的に活動していきたいというスズメ社鳥。最後に、今後の展望をお聞きしました。

異業種とのコラボレーションに注力。すべては、"野鳥観察"のきっかけ作り

スズメ型ヘルメット「スズメット」はダンボール彫刻家、本濃源太氏に制作を依頼したもの

「絶滅危惧種をはじめとした野鳥の保護につながる活動にも力を注ぎたい。その第一弾として、今、香川県の老舗おせんべい屋さんとのコラボレーションが始動しています」。

日本の近海にはカンムリウミスズメという絶滅危惧種の鳥が生息していますが、そのイラストを『株式会社 鳥』がデザインし、おせんべいに焼き印をして販売予定とのこと。

さらに、「売上の一部は保護活動に寄付し、少しでも協力できたらと思っています。それに、みなさんにも鳥のことを楽しく知ってもらえたら嬉しいので」と、スズメ社鳥は目を輝かせます。

今でこそ、自分のやりたい活動と世の中のニーズが合い、明るい未来が見えはじめていますが、それもこれまでの挫折と諦めない心があったからこそ。

コラボ商品の企画と並行して、「これからもワークショップは続けていきます」とスズメ社鳥。

日々ワークショップで使うスズメのフィギュアは、1チュン1チュン、地道に手作りしているもので、作った数はのべ3000チュン以上。ひたすら同じ作業を続けるのは大変なことですが、これもひとえに「野鳥観察のきっかけを作りたい」という、ぶれない想いがあるからです。

ようやく実を結びはじめた、スズメ社鳥の挑戦。在学時に学んだデザインと、社会経験で培った商品開発力を生かし、これからもスズメ社鳥の"鳥"組みは、飛ぶ"鳥を落とす"勢いで躍進していくことでしょう。

いずれあなたの街にも"出鳥"する日も近いかも? しれませんよ。

  

(文・山畑理絵/写真・岩崎薫、上沼祐樹)

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【ワークショップ】

7/7(土):東京都品川区/(公財)日本野鳥の会バードショップ内

7/14(土):東京都中央区/STAND GINZA / 80

7/15・16(日・月):栃木県足利市/mother tool

7/21・22(土・日):長野県大町市/木崎湖キャンプ場「ALPS BOOK CAMP」

7/28・29(土・日):東京都練馬区/石神井サマーフィスティバル

8/5(日):東京都練馬区/ちゃが馬七夕

8/14・15(火・水):長野県諏訪市/ReBuilding Center JAPAN

8/18(土):東京都江東区/リトルトーキョー

8/26(日):東京都杉並区/もりのこと

■INFO / 取材協力:株式会社 鳥

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