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2018年10月14日 17時57分 JST | 更新 2018年10月16日 12時15分 JST

フェンシング太田雄貴氏は、スポーツ界の「ファーストペンギン」を目指す。新種目の鍵は「YouTube」

協会の会長として描くフェンシング界の未来像は?

Rio Hamada / Huffpost Japan
太田雄貴会長

北京五輪銀メダリストの太田雄貴氏は、2017年8月の日本フェンシング協会会長への就任をきっかけに、これまでのフェンシング界を変えようとしている。

剣の軌道をテクノロジー・映像で可視化する「フェンシング・ビジュアライズド」に携わった経験を生かし、勝敗が分かりづらかった試合をテクノロジーの力で見やすくするなどの試みを進めると、全日本選手権の観客が倍増し、チケットが即完売するほど人気となった。

さらなるチャレンジに向け、人材の公募にも乗り出している。

新設を考えている4種目目は「ルール説明やコーチ役は、YouTubeにしてもらう」と語る太田会長は、フェンシングの未来をどう描いているのだろうか。

Rio Hamada / Huffpost Japan
太田雄貴会長

これまでは「分からない人は来なくていい」だった

これまでは大会の設計ひとつとっても、経験者向けにしか作っていませんでした。初めて観にきた人たちは、いま何が起こっているのか、ガッツポーズを見るまでどちらが勝ったかも分からない。

「分からない人は来なくていい」という考え方でした。たった2年前まで、協賛金もほとんど集まらず、日本選手権ですら100万円集まったらいいねというレベルでした。

日本オリンピック委員会(JOC)からの補助金が数百万円程度で、海外遠征に定数を派遣できない、コーチを雇うお金もないという時代もありました。(遠征先の)ヨーロッパ在住の日本人が「試合に出たい」と協会に電話して、「日本代表」としてプレイするということが、昔は許されていました。

今では「登録者数5万人」を目指すと宣言していますが、登録者数だけでそのスポーツを測るのも見直さないといけません。例えばフィギュアスケートは、登録者数は2000人に満たないですが、人気のスポーツとして成功しています。フェンシングが目指すべき最適なサイズを見定めて、ゴールを目指したいです。

スポーツ界の「ファーストペンギン」目指す

目標達成に必要なスポーツの枠を超えた人材を求めて、フェンシング協会は、転職サイト「ビズリーチ」で、戦略プロデューサー4職種を副業・兼業限定で公募している。

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私は会長に就任して「収益事業を増やす」と宣言しましたが、この一年、明らかな人手・マンパワー不足や資金的な問題に直面しました。いい人材にリーチできないので、友達の友達から引っ張ってくる。多くの競技団体が抱える課題です。

フルタイムの雇用は金額がかさむ上、ひとつの専門性でしかとれず、会社をやめるハードルも高い。兼業なら、普段の仕事をしながら、空き時間や一日だけ働いてもらうこともできるので、双方にとって非常によいでしょう。

(求める人材は)スポーツが好きであって欲しいですが、必ずしも知識や経験は問いません。中でも「強化本部ストラテジスト」は、(競技の)強化に関わるので、普通は絶対公募しないポジションです。今までは、スポーツという限られた中で過ごしてきた人が協会運営をしてきましたが、競技に関わるコーチなどはともかく、マネジメントやマーケティングはフェンシングの知識がなくてもできます。

僕たちフェンシングは、これから変わっていきます。さらにスポーツ界全体に波及させる最初の「ファーストペンギン」を目指しているので、覚悟を持って一緒に挑んでくれる人を求めています。スポーツ界が副業・兼業で課題解決ができたら、他のNPOやNGOにも横展開できる。最初にやればインパクトも残せます。

Rio Hamada / Huffpost Japan
インタビューに答える太田雄貴会長

課題解決のための「大会のエンターテイメント化」

「登録者数5万人」「収益事業を増やす」。掲げた目標を達成するため、具体的にどんなことに取り組んでいるのか。

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非日常的な体験を提供して人をわくわく・ドキドキさせる、選手がよりかっこよく輝く場所をつくる、さらに今ある課題を解決する。その手段としての「大会のエンターテインメント化」を図っています。

今までは、(技が決まった時に)縦横10センチサイズの審判機が光るだけで、勝敗が一目で分かりずらかった。2017年の全日本選手権ではピスト(コート)の床下にLEDライトを敷き詰めて、ポイントを取ると点灯させました。今年はさらに、選手たちが試合をしている奥にLEDパネルを設置し、すぐリプレイで「ビジュアライズド」を出して、会場全体で光の演出をしたいと準備しています。

普段の大会はガラガラで、オリンピックでいきなり7、8000人の観客を前にしたら、緊張で普段通りプレイできません。会場を満員にして「日常的に緊張できる環境」で試合するのも、選手強化につながります。

フィギュア男子の宇野昌磨選手は、平昌オリンピックの演技後に「(全日本選手権)の方が緊張した」と答えていました。通常は考えられないですが、そのぐらいフィギュア全日本選手権は熱狂的なファンが埋め尽くします。選手のメンタルを強くして高みに連れて行ってくれるのがファンの存在です。

エンタメの勉強に、「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSWと略される、テクノロジーの祭典)や「ライゾマティクス」、「チームラボ」などを見て、フェンシングに使えそうな要素は取り入れるようにしています。

4種目目、ルール説明やコーチ役は「YouTube」

協会の登録者数を増やすには、オリンピックのピラミッドの中だけで試合をする競技スポーツから、50、60歳からでも始められる生涯スポーツに生まれ変わっていかないといけません。試合の勝ち負けとは別軸の楽しみ方をどう作っていくかがすごく重要です。

例えばボルダリングは、競技会に出る人はごく一部ですが、休日や会社帰りに簡単にできます。昨日できなかったルートが今日はできたという、自分の成長を感じられる楽しみ方を、フェンシングでどう設計するかがこれからの課題です。

フルーレ、エペ、サーブルの3種目だけで「登録者数5万人」の達成は難しそうなので、今4種目目をつくっています。

「複雑なルール」「顔が見えない」という今の課題に対して新しくゼロから作るので、何のルールにも縛られなくていい。剣をあまり痛くない材質にして、突いたら一発で分かるようスマホと連動させる。ピストも円形や四角にして、どこでもプレイできる、自由度にあふれたものにしたいです。

いずれは大会にして、最終的にオリンピックの新種目にする働きかけを引き続きやっていくと、もしかしてフェンシングを救う切り札になるのでは可能性を感じています。

フェンシングに触れ合うきっかけとして、(4種目目は)ルール説明やコーチ役をYouTube(に投稿された動画)にしてもらうみたいな状態をつくって、剣も簡単に購入できれば、もっと始めやすくなる。今の若い子の最初のメディアの接点はYouTubeだと思うので、どう戦略的に使っていくかは考えています。

「東京五輪でメダルを取れなくても、上手く回る協会づくりを」

東京五輪・パラリンピック後の2020年以降は、(スポーツ市場は)絶対シュリンクしていきます。

極端なイメージで言うと、東京オリンピックでメダルが取れなくて、補助金が半減されても、太田雄貴が会長じゃなくなっても上手く回る強い協会作りをこの3年以内に実現したいです。僕たちの戦い方を見つけないといけません。

理事や専務は無給で、思いやりとかやりがいだけでやってきたのは問題だと思います。執行部は本来、業務執行するため有給にしないと、今後だれも業務を引き継いでくれなくなってしまいます。

特定の人物がずっと同じポジションにいるのは、どうしても緊張感がなくなっていきます。次の世代の機会損失にもなるので、さまざまなポジションで人材の流動化をすることが、結果的に組織を強くするのではないかと思います。

日本フェンシング協会の太田雄貴会長