アート&カルチャー
2018年10月14日 15時35分 JST | 更新 2018年10月14日 21時30分 JST

優しい人ほど「損」をする。「獣になれない私たち」が描く、生きることのしんどさ

この社会で、いったいどれだけの人がこんな毎日を送っているのだろう。

「獣になれない私たち」1話より
(C)日本テレビ
「獣になれない私たち」1話より

新垣結衣さん×脚本家・野木亜紀子さんの「逃げるは恥だが役に立つ」コンビの再現で、注目を集めるドラマ「獣になれない私たち」(日本テレビ系)。第1話が10月10日に放送され、視聴率11.5%の好発進を切った。

第1話では、新垣さん演じる深海晶が、職場で降りかかる「理不尽さ」によって徹底的に追い詰められる様子が描かれた。ショックなシーンもあり、Twitterでは「見るのがつらい」という声もあったほどだ。

確かにつらく、「しんどい」ドラマだった。それでも、今後の展開に期待せざるを得ないほど、心に突き刺さるような内容だった。1話の展開を振り返る。

(以下、ネタバレを含む表現があるため、ご注意ください)

(C)日本テレビ
「獣になれない私たち」1話

仕事ができる、気遣いもできる。なぜかその方が「損」をする

晶(新垣結衣)は、ECサイトの制作会社で営業アシスタントとして働いている。しかし、気が利いて優秀なあまり、「アシスタント」のレベルを超えた仕事量を抱えてしまっている。

威圧的でパワハラ気質な社長は、これでもかというほど晶に無茶振りをする。晶は「担当は◯◯さん(同僚の名前)です」と何度も伝えるが、社長は聞く耳を持たない。肝心の営業担当の同僚たちはやる気もなく、責任感も持たず、晶に仕事を押し付けていることに罪悪感すら持たない。

こうした状況で、晶はどんどん身も心もすり減らしていく。

晶は誰よりも真面目に、用意周到に準備し、一生懸命に仕事をしているだけだ。だからこそ、結果も出している。

徹夜する仕事仲間を気遣い、自腹でおにぎりも差し入れる。これは優しさ以外の何物でもないだろう。

それなのに、なぜか晶の方が「損」をする。仕事量やプレッシャーだけが積み重なっていく。そして、そのことに誰も疑問を持たない。

晶のまわりにいる人は、むしろ「仕事を断らない方が悪い」とか、「優しすぎるのがよくない」という言葉を口にしそうだ。そうした鈍感さ、無神経さは、ますます晶の心を蝕んでいくだけだ。

Twitterに「見ていて苦しい」という感想が相次いだのは、そうした理不尽な出来事に直面するしんどさを、多くの人が共有できるからだろう。この社会で、いったいどれだけの人がこんな毎日を送っているのだろうと思うと、胸が詰まってしかたがない。

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「獣になれない私たち」1話より

「新しい服と靴」が、"とりあえず"晶を救った

1話の終盤では、激務の連続で疲れ切った晶に追い討ちをかけるように、また「理不尽さ」が降りかかる。

ミスした同僚の代わりに取引先に謝罪しに行った晶は、担当者の男性から土下座を要求され、髪を撫でられる。ミスを挽回するため深夜まで緊急対応するが、報告した時は電話越しで「晶ちゃん」と呼ばれ、お礼にご馳走するからと"接待"を要求されたのだ。

これが「決め手」となり、晶は絶望感に苛まれる。

駅のホームから線路に向かって足を進めて、一瞬だけ、飛び込もうとしてしまう。

ここまで追い詰められる様子を描く。脚本・野木亜紀子さんの、ある種の「容赦なさ」に頭が下がると同時に、苦しさもひとしおだった。

しかし現実では、実際にこうしたことが起きている。日本は主要7カ国(G7)の中で唯一、15〜34歳の若年層の死因の1位が「自殺」だ。(2018年版の「自殺対策白書」調査より)

そして、何よりも大事なことが、野木さんは絶望の中にある一筋の光をしっかりと描いてくれる脚本家である、ということだ。

前作『アンナチュラル』(TBS系)放送時の本人の言葉を借りれば、「クソだらけの現実をどう生きるのか」。このクソみたいな世の中で、一筋の希望を手繰り寄せながら生きる人間のたくましさを、取りこぼさずに描いてくれる。だから野木作品は、多くの人の心を打つ。

今回、行き詰まった晶がとった行動は、「新しい服とブーツを買うこと」だった。

ラストシーンで晶はオフィスカジュアル風の服装をガラッと変えて、サングラスをかけて出社した。

「獣になれない私たち」1話のラストで、晶は服装をがらっと変えた。

"とりあえず"の救いとして、ファッションに頼るところがリアルだ。

4年間付き合っている彼氏の京也(田中圭)の元に行くのでもなく、新しく出会った恒星(松田龍平)と行きずりの恋に走るのでもなく、ただ素敵な服と靴を買うだけ。

新しい服を着て会社に行く。それで少しだけ気持ちを鼓舞するのだ。

「ヒーローが助けてくれる」というお決まりのパターンはもう通用しないし、とことんリアルな絶望を描くなら、そこから這い上がる姿もリアルであってほしい。現実は、ありがちな恋愛ドラマみたいにうまくはいかないものだ。

だから、「ラブ"かもしれない"ストーリー」という野木さんの言葉も、ぐっと信頼度が増す。

このハードな現実の中に、どうやって晶は希望を見つけていくのか? 2話以降の展開に期待したい。

 ◇

「獣になれない私たち」2話より

「獣になれない私たち」 第2話は、10月17日(水)夜10時から日本テレビ系で放送予定。第1話は、民放公式テレビポータル「TVer」で、17日まで配信中。

▼第2話のあらすじ

すべての仕事を一人でこなしていることに業を煮やした晶(新垣結衣)は、社長の九十九(山内圭哉)に業務分担の改善要求書を突き付ける。周囲が恐怖におののく中、九十九とやりあった結果、出張明けに返答するとの約束を取り付ける。

一方、恒星は初対面の会社社長・勝俣(八嶋智人)から、粉飾した税務申告書類に担当税理士として判を押してくれと頼まれる。恒星は不正には手を貸さないと拒否、勝俣を事務所から追い出す。

その晩、5tapで出くわした晶と恒星。呉羽(菊地凛子)の話題になり、「呉羽は恋に落ちた瞬間、鐘の音が聴こえるらしい」と話す恒星。一目惚れをしたことがない晶は、どんな音かと首をかしげる。わからないのは恒星も同じだった。

翌朝、有給休暇中の晶は松任谷(伊藤沙莉)の電話で起こされる。上野(犬飼貴丈)が大事な契約書を持ったまま会社を無断欠勤しているというのだ。晶は急遽、上野のアパートを訪ねることに。そこで晶は上野から、思わぬ話を持ちかけられ...。