「これは現代の奴隷契約だ」と弁護士 「パワハラで自殺」女性の遺族らが社長ら提訴

「守秘義務違反」と数千万円を要求され…
記者会見した大下周平さんと代理人の深井剛志弁護士
記者会見した大下周平さんと代理人の深井剛志弁護士
Kazuki Watanabe / HuffPost

アニメ・ゲーム・マンガ業界の求人サイトなどを運営する「ビ・ハイア」の元従業員女性Aさんが自殺した。この女性の遺族と元従業員2人が10月17日、「社長から凄惨なパワハラを受けた」として、社長と会社を相手取って慰謝料など約9000万円を求める裁判を東京地裁に起こした。厚労省の記者クラブで元従業員らが記者会見した。

原告側代理人の深井剛志弁護士は、数千万円もの不当な借金を背負わされ、カメラやGPSで監視されながら働かされていたという3人の置かれた状況は「現代の奴隷契約」だったと指摘。「現代におけるブラック企業の問題点がすべて含まれている事案」だとして、パワハラ防止の法制化を訴えた。

訴状によると、自殺したAさんは、大学生だった2008年にインターンとして「ビ・ハイア」で働き始め、その後就職した。しかし、社長から数千万円もの「損害賠償」を請求され、その返済を執拗に迫られ、ペットボトルの水をかけられたり、人格否定の暴言を繰り返し受けたりした後、2018年2月25日に自死した。

記者会見した元従業員・大下周平さんも、同様に社長から数千万円を請求され、その返済のため「寝ないで徹夜で仕事しろ」と命じられ、夜通し5分ごとに「起きてます」とLINEメッセージを送らされるなどのパワハラを受けたと主張している。

訴状や記者会見での説明によると、原告側が主張しているのは、次のような内容だ。

大下さんとAさんの2人が社長から巨額の借金を背負わされたのは、2016年2月ごろだった。社長は大下さんとAさんの仕事ぶりを批判し、「やるやる詐欺で無駄に時間とお金を使った」と告げた。そして「会社を潰そうと考えている」と脅しをかけた。

職にあぶれては困ると考えた大下さんとAさんは、努力するので、会社を潰さないでほしいと訴えた。

すると社長は、これまで数年間に会社が支払ってきた従業員たちでの食事会の費用や、従業員へのプレゼント代金などについて「2人で返済しろ」と要求。結局、2人は約2000万円を返済する契約を結ばされることになった。

2人は巨額の借金を背負わされ、報酬と相殺だとして収入が絶たれることになった。それでも長期的に返済していこうと考えていた2人だが、さらに追い打ちがあった。2016年4月ごろ、大下さんは交際していた女性に「賃金が支払われた」と伝えたことを咎められ、「守秘義務違反」として損害賠償4000万円を請求された。Aさんも同じく、交際相手に仕事の状況を話したとして、守秘義務違反で2000万円の損害賠償請求を受けた。

2人は2016年6月ごろ、社長が実質的に支配している別会社と、「報酬月額100万円」とする業務委託契約を結び直した。しかし、これは"借金"の返済に自動的に充てられ、その後は1円も受け取っていないという。

「借金返済」で相殺されて収入がなくなり、生活ができなくなった2人に対し、社長は「事務所に住みながら、家賃を節約して借金を返せ」と命令。大下さんとAさんは2016年5月ごろから都内の事務所内で寝泊まりするようになった。私物の持ち込みはキャリーバッグ1つのみ、フローリングの床にタオルケットや毛布で、もうひとりの従業員と3人で雑魚寝という環境だった。3人は事務所に住んだ「家賃」や、社員旅行費などとして、1000万円ずつ請求された。

事務所内はwebカメラで監視され、社長がスマホでいつでも映像が見られる状況だった。また、会社支給の携帯電話のGPSで居場所を常に把握され、「なんでそこにいるんだ」「コンビニに入ってるんじゃない」などと叱責された。また、食事代など、プライベートで使ったお金についても社長に報告させられるようになったという。

Aさんは2017年春ごろ、財布や免許証、キャッシュカードなどを入った財布をまるごと没収された。2017年8月ごろからは、3人は私用でお金を使うことを「禁止」され、飲み物すら買えなくなったという。

自由に食事もできなくなった従業員3人に与えられたのが、「乾燥大豆」だった。2017年12月からは乾燥大豆を1日1食(200グラム)という生活を強いられ、当初はレトルトのカレーをかけていたが、2018年2月中旬からは大豆だけになった。

飲食店で会議をする際に、参加者で食事をすることもあったが、その費用は「借金」として計上されていたという。

訴状によると、こうした状況で、社長のパワハラは続いていた。

3人は「童貞野郎」「最低の人間」「ゴミ」「クソ」「じじいばばあ」「アホ」「頭おかしい」などと罵られた。

自殺したAさんは、社長から繰り返し「生きる価値がない」「生きていても迷惑、借金残して死んでも迷惑、つまり生きていても死んでも迷惑です」などと頻繁に告げられていた。社長は2018年1月、「殺したいぐらいムカついているが、殺すのもなんなので、交通事故にあって死んでほしい」「迷惑をかけることしかできない人間だ」などと言い放ったという。

パワハラは暴言だけではなかった。社長は大下さんやAさんに、ペットボトルの水を合計5回以上かけた。また、2人が罵倒に反応すると、激昂しコップや葉巻置き、ペットボトルなどを頻繁に投げつけたという。

大下さんは2018年1月、風邪で体調を崩すと事務所から追い出された。救急搬送されて肺炎で5日間入院することになったが、社長からは「いつ退院するんだ。入院すること自体が甘え」と言われたという。

3人に対し社長は2017年7月末ごろから2〜4週間、寝ないで働くように命令。5分おきに「起きています」とLINEしろと命じられ、睡眠時間は1日あたり2〜4時間になってしまった。事務所の状況はカメラで監視されていて、寝ていると電話で注意されたという。

原告提供資料
原告提供資料
Kazuki Watanabe / HuffPost

巨額の借金で縛られ、居住場所や行動を管理・監視され、昼夜を問わず呼び出され、暴言・暴力を浴びせられる。「金を払え」「考え方と態度を変えろ」......。LINEやフェイスブックのチャットで毎日のように責められる。そんな毎日が続いた中、2018年2月24日の深夜、Aさんは「私は死んだほうがましですか?」という趣旨のメッセージを送った。

これに社長が激昂した。2月25日午前1時ごろ、従業員が寝泊まりしていた事務所にやってきて、Aさんが使っていたPCモニターや事務所の扉などを殴ったり蹴ったりして破壊した。

大下さんら2人を横目に、社長はAさんに対して2時間ほど激怒しつづけた。

「死んだほうがましという発言で(自分は)傷ついた」

「どうやって責任を取るんだ」

「ここから飛び降りるのか」

そう社長が迫ると、Aさんは覚悟を決めた様子で「はい」と答えたという。

大下さんら2人は「死んではダメだ」と止めたが、社長は「(死んだら)ゴミが増えるだけだ」「借金を全部返してからやれ」などと突き放す暴言を繰り返した。

社長が出ていったのは午前3時ごろで、その後、3人は命じられた事務所の片付けをした。就寝したのは、翌朝になってからだった。

Aさんが亡くなったのはこの日だった。午後3時半ごろ、両親にメールで遺書を送ったあと、自死した。

原告側は「パワハラと自死の関係は明らかだ」と主張している。

今回の裁判で、原告側が要求しているのは、こうしたパワハラへの損害賠償だ。さらに原告側は「未払い賃金」の支払いも要求している。3人が結んでいたのは書類上「業務委託契約」だったが、働き方の実態を考慮すれば、実際には「ビ・ハイア」との雇用契約が結ばれていたと評価すべきだ、という考えからだ。原告側は社長が「守秘義務違反による損害賠償請求」などとして数千万円を要求していたことについて、根拠がなく不当なもので、それ自体がパワハラだと訴えている。

Aさんの父は記者会見で、代理人を通じてコメントを発表した。

父親は、娘がネット上で両親への批判を繰り広げていても、それは「全くもって事実無根の事柄であり、閲覧者を増やすために社長から意図的に表現させられたものだと気付き始めていた」と綴る。そして、「いつかは気付いて元の優しい娘になって、必ず戻ってきてくれるに違いないと信じ続けた」という。

しかし、その結末は、両親にとって最悪のものになってしまった。父は文章をこう締めくくっている。

「娘の死後半年以上が経過いたしましたが、社長からの謝罪の言葉も娘の私物の返還もないことによって、娘はきっと現世で彷徨っていると思われ残念でなりません」

「苦労を共にしてこられた同僚の方の記者会見にあたり、書面で失礼いたしますが自死した娘の両親の気持ちをしたためさせていただきました」

ビ・ハイアは10月18日、「弊社に関する提訴およびその報道について」として、公式サイトでコメントを発表した。

社長は「残念ながら、弊社にはまだ訴状が送達されておらず、ネット報道の範囲でしか事実を把握しておりません」としつつも、Aさんの自死の責任が会社側にあるという原告側の訴えについて、「こうした主張や記述は、事実とはまったくかけ離れた虚偽であることを強く申し上げたいと思います」と反論した。

そして、「訴状を仔細に検討したうえ、法廷内外で、事実に基づき、事実無根の主張や記述に反論してまいります。そして真実を明らかにしたいと考えています」と綴った。

ハフポスト日本版の取材に対し、ビ・ハイアは「担当者が不在で返答できない」と回答している。

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