これからの経済
2018年10月25日 07時00分 JST | 更新 2018年10月26日 14時53分 JST

見たい情報だけ見たいじゃん。オタクの愛が生んだSNS乗りこなし術

「純度の高いタイムライン」を作り出す人々

博報堂
#みんなって誰だ

こんにちは、博報堂生活総合研究所で研究員をしている十河です。

私は小学生の時から同人誌を読み始め、今は自分が作る側になってしまった生粋のオタクです。なけなしの小遣いを漫画雑誌やグッズにつぎ込み、中学生になる頃には見よう見まねで、好きなマンガやアニメへの愛を叫ぶファンサイトを作っていました。あの頃はSNSがなかったので、掲示板などを通して同好の士を探し、愛を語り合える仲間を見つけられた時にはいたく感激したものです。

同じ趣味を持つ人たちと簡単に繋がることができるという意味で、SNSはオタクの交流に大きな革命をもたらしました。昔のように掲示板やファンサイトのリンク集を探し回らなくても、Twitterやpixivで検索するだけでファンが見つかるのですから。ただ一方で、この「つながりやすさ」は新たな問題をも引き起こしています。それは、絶対に見たくない情報とまでつながってしまうということ。

私の所属している生活総研では、「みんなって誰だ?」というテーマで、「個」の時代の先にある、新しい大衆像について研究し、その成果を紹介しています。

今回の記事では、SNS全盛時代を生きる私たちオタクが、こうした新たな問題にどう対処しているかについて取り上げます。いかにして不必要な情報を遮断し、自分の好みにフィットした愛すべきタイムラインを作り上げているのか。そこには、オタクが執念で作り上げた、新しい「みんな」の存在がありました。

若者が流行を判断する場所はTwitter

皆さんが最初にSNSを使い始めたのは、何歳の時だったでしょうか。私は19歳の時からTwitterを始め、28歳になった今もどっぷりその世界に漬かり続けています。リアルの友人との交流はもちろんですが、オタク仲間を見つけるのにもTwitterは非常に役立ちます。Twitterでできた趣味関連の友人も多く、今では日常生活に欠かせないツールとなっています。

実は、SNSで流行を察知しているのはオタクだけではありません。博報堂生活総研が2018年5月に20歳から69歳の男女1,500人を対象に行った調査によれば、20代前半の人たちはテレビやリアルの友人関係以上にSNS経由で流行を判断しているということが判明しています。

「普段、あなたは『これが流行ってるな、注目されてるな』ということを誰から、またはどこから判断することが多いですか」という質問への回答の上位5位をまとめた表がこちらです。

博報堂
流行を判断する指標(表)

(出典:博報堂生活総研)

結果をみると、20~30代前半ではSNSを挙げる声が上の年代に比べて多く、特に20~24歳の若年層では、他の年代で高い数値を示した「テレビ(48.8%)」「友達(40.5%)」を抑え、「Twitter(53.6%)」「Instagram(48.8%)」が上位2位を占めています。すなわち、20〜30代にとっての「みんなが言ってる」の「みんな」は、もはやSNS上の「みんな」になっているのです。確かに私自身のことを振り返ってみても、やはり今世の中で何が流行っているんだろうと思った時には、まずTwitterのトレンドやタイムラインをチェックします。

純度が高いタイムライン」をつくるオタク

いまや20代前半の半分以上が、流行の判断ツールとしているTwitter。この世代では、Twitterで複数のアカウントを使い分ける「垢(あか)分け」もよく行なわれています。

広く友人と交流するための「本垢」、本垢では言いづらい愚痴を言う「愚痴垢」、趣味関心が近い人と交流するための「趣味垢」、情報収集用で呟くことはしない「ROM垢」など、多い人では10近くのアカウントを運用していることもあるそうです。自分が見る情報の範囲と、自分の発信する情報を公開する範囲をしっかり把握し、自分自身でコントロールしているのです。

このような状況において、Twitterでは自分の見たくない情報をシャットダウンする動きが盛んになっています。特に、特定のアニメやマンガ好きの中でも、解釈の方向性で様々にグループが分かれるオタク界隈ではこうした傾向が顕著です。

あるアニメオタクの友人は、「最近、純度が高いタイムラインができてきて快適なんだよね」と言っていました。どうやら彼女は、見たくない投稿をする人を片っ端からブロックする(非表示設定にする)ことで、不純物=見たくない情報を排し、自分好みの「みんな(タイムライン)」を手に入れたようなのです。

また、少し前には、男性同士の恋愛を描いた作品についてツイートしているアカウントを数万レベルで手動ブロックした人がTwitterで話題になったこともあります。ここまでする人は少ないかもしれませんが、考えの合わない人や見たくない情報を発信する人をシャットダウンすることはかなり一般的になっています。

なぜオタクは「棲み分け」が大事なのか

オタクの世界では以前から「棲み分け」が大事にされてきました。棲み分けとは、作品やキャラクターに対する解釈、二次創作の嗜好性などが相いれない人同士が、互いの活動が目に入らないように配慮し合うことです。

オタクの中には、「BL/GL(男性同士・女性同士の恋愛を描いた作品)は苦手」「バッドエンドものは苦手」というように、生理的に苦手なシチュエーションや解釈などがある人も少なくありません。好きなものへの愛が深い分、「この作品・キャラにはこうあってほしい」という思い入れも強くなるからです。こうした苦手な表現は、思わぬところで登場しては心に大きなダメージを与えてくる性質から「地雷」と呼ばれています。

地雷は個人の好き嫌いの話であり、認識の違いを埋められるようなものではないので、オタク同士はこれまで、互いに誤って「踏んでしまう」ことのないよう配慮し合ってきました。

せっかく好きなものの情報を集めようとしているのに、地雷を踏んで嫌な気持ちになりたくない...。そんな心理から、見たくない投稿をするアカウントをひとつひとつブロックする以外にも、様々な機能を駆使したシャットダウンが行われているのです。

見たくないものを見ないために、あれこれ工夫するオタク

例えばTwitterでは、好ましくない投稿を検索結果から除外する「マイナス検索」や、特定のワードを含む投稿をタイムラインや通知から除外する「ワードミュート」などの機能が実装されています。また、好ましくない「みんな」からの接触を避けるべく、「○○は苦手です」とあらかじめ宣言している人もいます。

逆に、自分の投稿を好ましく思わないであろう「みんな」に、自分の投稿が見られないよう工夫する動きもあります。

たとえば、原作の名前やキャラクター名で検索しただけでは自分の二次創作物にたどり着かないようにする「検索避け」は、SNS以前のwebサイト時代から行なわれてきましたし、pixivではマイナス検索を前提に「#腐向け(腐女子向け、BL要素が含まれた作品であることを示す)」などといった「棲み分けタグ」をつけるケースも増えています。

また、内容によって公開アカウントと非公開アカウントを使い分けたり、ツイートにリンクを貼る形でワンクッションを入れることができる「ふせったー」というサービスを使うなど、投稿者側も様々な棲み分けの努力を行っているのです。

元ツイートのリンクを押すと「ふせったー」のページに飛び、伏せられている内容が確認できる。ネタバレ防止などでよく使われる。

SNSという広場に集まり始めたオタクの新たな苦悩

こうしたシャットダウンが、オタクの間で近年特に盛んになっている背景には、オタクが集まる場所の変化があるように思います。

かつてネット上のオタクが個人運営のWebサイトに集まっていた頃は、運営者側の方でかなり丁寧な配慮がなされていました。サイトの入り口に掲載内容の傾向を記載した上、作品ページの前にも内容に関する注意書きがあったので、うっかり地雷を踏んでしまうことはあまりなかったように思います。

しかし今は、「Twitterで発信・交流し、絵や小説などの作品数がたまってきたらpixivにまとめて投稿する」というように、オタクの交流場はSNSに一元化されました。SNSは厳重な配慮に守られたwebサイトとは違い、考え方も趣味嗜好も多様な人々が集まる「広場」です。またwebサイトと異なり、ワード検索をしたりタイムラインを見ていると、見たくない内容がいきなり目に入ってしまうことも少なくありません。

集まる場所がSNSになり、かつては見えなかったものが見えるようになってしまったことで、オタクの棲み分けは難しくなっているのです。

レコメンド機能にも"地雷"が潜んでいる

また、プラットフォーム側からのレコメンドも「棲み分け」を難しくしています。今Twitterでは、フォローしている人が「いいね」した投稿が一定の頻度でタイムライン上に表示される機能があるのですが、この機能によって地雷を踏んだ、あるいは邪魔な情報が流れてきて困るという声をよく聞きます。「フォローしている人自身のつぶやきが見たいのであって、余計なおすすめはいらない!」というわけです。

また、フォローをレコメンドする「おすすめユーザー」の機能も同様です。この機能の場合、「同じキャラクターが好きだが、解釈が地雷」というところまではレコメンドも見抜くことができず、最も見たくない地雷のユーザーがおすすめされてしまうということが起きています。見たいものの周辺に広大な地雷原が広がっているオタクにとって、これは死活問題です。

誰かの萌えは誰かの萎え

「誰かの萌えは誰かの萎え」という言葉があります。これはオタク界隈で、自戒を込めて「互いの嗜好に寛容であろう」とするものです。この考えには全面的に同意なのですが、自分の受け容れられない考え方も可視化されてしまうSNS社会において、これを実践することは簡単なことではありません。以前であれば「見たくないテレビは見ない」という選択肢がありましたが、SNSでは見たいものの中に突如として見たくないものが紛れ込むからです。

冒頭でご紹介したように、2、30代の多くがSNSで情報収集し、流行を感知している時代です。しかしSNSは、大きなトレンドを把握する場所でありながら、たくさんの「地雷」が転がっている場所でもあります。オタクではない方も、自分とは相いれない意見を見て傷ついたり、思わぬところから論争になるなどして疲弊した経験のある方は少なくないと思います。オタクもSNSの本垢や一般社会では広く「みんな」とつながっているので、趣味垢くらいは自分の見たい「みんな」だけを見たいと考えるのも自然なことではないでしょうか。

ここまでご紹介してきたオタクのSNS処世術は、目に入る情報が増え、世間が広がりすぎた現代を生きるためのヒントになるところもあるように思います。

皆さんのタイムラインは、理想的な状態になっているでしょうか。自分好みのタイムラインをつくるために行なっている工夫があれば、ぜひハッシュタグ「#地雷回避術」をつけてお聞かせください。

執筆を担当した研究員

十河 瑠璃(生活総合研究所 研究員)

2013年博報堂入社。博報堂DYホールディングス及び博報堂DYメディアパートナーズにて経理業務に従事し、2016年より現職。生活者の消費動向や子どもの意識・行動変化の分析に携わる。