『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』(TBS系)を手がけた脚本家・野木亜紀子さんによるNHK初執筆ドラマ、『フェイクニュース』の前編が10月20日(土)に放送された。
主演は北川景子さん。大手新聞社からネットメディア「イーストポスト」に出向し、ネット上に拡散した「カップうどんへの青虫混入騒動」を取材する記者・東雲 樹(しののめ いつき)役を演じている。
前編では、記事が読まれた回数を意味する「PV数」至上主義に徹するがあまり、釣りタイトルが付けられた扇情的な記事を配信するネットメディア編集部の姿や、SNSで嘘か本当かわからない情報が一気に拡散していく恐ろしさなどが描かれた。
「ネットが怖いのではなくて、それを取り扱う『人間』の方に問題ある。それがこの作品のテーマだと思います」。普段はニュースで"報じられる"側にいる北川さんは、そう指摘する。記者会見と単独インタビューで、初の記者役に挑んだ感想や同作にかける思いについて聞いた。
後編は10月27日(土)夜9時からNHK総合で放送予定。
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ーー普段はニュースやメディアで「取り上げられる」立場にいる北川さんですが、今回は初めて「取り上げる」側である記者役を演じられています。
15年ほどこの業界でお仕事をさせていただいて、記事に取り上げていただくことはたくさんあったんですが、「記事を書く」側である記者の役は初めてでした。
自分が取材を受けてきた時はどんな感じだったか、新聞記者の方はどういう人だったか。取材していただいた記者の方の顔を思い浮かべながら役作りをして、撮影に臨みました。
でも、やっぱり人によって取材の仕方もスタンスも全然違う。服装一つとっても、カジュアルな格好の方もいたし、スーツ姿の方もいました。
役作りにあたっていろいろな方の顔を思い浮かべたんですけど...。結局は、野木先生が書かれた脚本にいる「東雲樹」というキャラクターを大切に演じられたらいいのかな、と思いました。
このご時世に、男性とか女性とか言うのもナンセンスかもしれませんが...。東雲は、男性社会の中で、女性が"強く"働きつづけることにどれほどの苦労があるのか。そういった苦労を感じている女性だと思います。
過去に辛い経験があって、それを乗り越えて生きている人で、精神的な強さを持っていて、我慢強い。そして思考しながら取材していく思慮深さも持っている。
「記者だから」という視点で考えるのではなくて、「樹だから」という視点で考えていくうちに、そのあたりを描いていけたらいいのかな、と感じるようになりました。
ーー記者役を演じられてから、ネットニュースへの見方や印象に変化はありましたか?
この作品がきっかけで考え方が変わったという一面は、あまりないかもしれません。
フェイクニュースが問題になっていることも身を以て感じていましたし、私自身がすごく慎重な性格でもあるので、マスメディアの報道や情報には必ず「偏り」がある、と認識していました。
ネットが普及する前から、同じ事件や事柄を扱っていたとしても、新聞やテレビ、週刊誌によって報じるスタンスや切り込む角度が違う。
目にした情報を鵜呑みにしないで、しっかりニュースの聞き比べや見比べをして、どこが報じている情報が真実に一番近いのか見極めたり、情報を「取捨選択」したりする目を持つことが必要なのかな、と思っていました。
そうやって常に感じてきたことを、作品を通じて世の中に伝えられるというか...。問題を投げかけることができるのは、すごくよかったと思っています。
ネットが流行ってからは、ソースがなんであれ、ニュースが拡散されるスピードがすごく早くなりました。その分移ろいも早くて、すごいスピードで情報が入ってきては流れていく。やっぱり、情報を見抜く力を養っていかなきゃいけないと思います。
それでも私も騙されてしまったり、誤って信じてしまったりすることもあるかもしれませんが...とにかく鵜呑みにせず、踊らされることがないようにしなくては、と思います。
ネットが怖いんじゃない、取り扱う人間が問題なんだよ、というのが、今回の作品のテーマだと思います。この役を演じることで、その大事な部分を改めて感じられたと思います。
ーー先ほど、主人公・東雲樹を演じながら「女性が"強く"働きつづけることの苦労」について考えたと仰っていました。どんな苦労があると思いましたか?
今回私が演じたのは、新聞社から出向してきた女性記者の役です。
男女の雇用機会も均等になってきていると言われているし、昔よりは女性も社会で活躍しやすい環境になってきていると思います。それでも、新聞社などの記者職ではやっぱり男性記者の方が数が多いという現実があって...。(※)
脚本を読んで、男性社会の中で揉まれながら仕事をしている女性記者の方はやはり多いんじゃないか、という印象を受けました。
「女性が記者をやるってそういうことでしょう」とか、「"女性の部分"を使ってネタを取ろうとしているんでしょう」とか、そういう偏見もきっと何度も受けてきている。その環境の中で、普通に「能力」を買われたくて、発揮したくて頑張っている。そういう部分が樹にはあるんじゃないか、と思いました。
「女性だから」という理由で対等な扱いをされず、下に見られてしまうことがあっても、それに負けずに、性別は関係なく自分の仕事を全うしたい。樹はそういう思いを強く持っている人だと思います。
職業は違えど、樹と共鳴できる部分があると思いながら演じていました。
(※)日本新聞協会の調査によると、全国の新聞・通信社記者数の女性記者比率は増加傾向にあるが、2018年4月時点で20.2%だった。
ーー作品には、女性記者が取材先から受けるセクハラ問題など、現実社会で起きている出来事を思い起こすような設定がいくつも盛り込まれていました。こうした題材を扱う分、批判の声を含めて反響も大きくなると思いますが、怖さや不安はありませんか。
社会問題に切り込むフィクション作品は、やりたくてもそう簡単に作れるものではないですよね。ドラマのタイトルにもなっているフェイクニュースの問題もそうだし、作中で描かれている描写一つとっても、すごくデリケートな問題を扱っていると思います。
ただ、まだ誰も手をつけない題材を扱うことにいち早くチャレンジできるのは、私はすごく嬉しいです。やりがいがありますし、貪欲にそういった題材にはチャレンジしていきたいと思っています。
批判が起きることを「怖い」とはあまり思いません。
新しい作品に取り組むときは、毎回思うんですけど...。「こういうことをしたら世間からこう言われてしまうかもしれない」とか考え出すと、ドラマや映画ってまったく作れなくなってしまうんです。
だから、もう「こういう作品を作る」と決めたら、絶対ブレない。特に自分が主演の場合はそうですけど、途中で怖くなって「やっぱりやめよう」って思わないように、決心してクランクインすることを決めています。
このドラマは、自分の思いもすごく投影したし、信念を持って取り組めた作品です。
マスメディアの情報には必ず偏りがある。それをわかった上でニュースを読んで、扱わなければいけない。でも、それに気付いていない人が結構多いんじゃないか。そう感じていた時に、ちょうどこのドラマのオファーをいただいて。
お芝居の仕事をしている以上、自分が日ごろ疑問に感じていたことや考えていることを、役や作品を通して伝えられるとしたら、そんなに光栄なことはないと思っています。信念を持って取り組んだから、あとは、何を言われても大丈夫。(笑)
放送前から批判も起きていると聞きましたが...。批判は「見て」から言ってほしいな、と思うところもあるので、まずはドラマを見てほしいと思います。前後編を通して、作品全体を見てもらえば、何を伝えたい作品なのか、見た方にもわかってもらえると思います。
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◆作品情報
土曜ドラマ「フェイクニュース」
後編は10/27(土)午後9時からNHK総合で放送予定。