「Q」の衝撃 匿名掲示板に書かれた「根拠なき陰謀論」がアメリカで広まっている

世界は闇の犯罪組織「ディープ・ステート」に支配されていた?
トランプ大統領の集会で掲げられた「Q」のプラカード=8月4日、アメリカ・オハイオ州
トランプ大統領の集会で掲げられた「Q」のプラカード=8月4日、アメリカ・オハイオ州
Bloomberg via Getty Images

アメリカの上下両院議員と州知事などを一斉に選ぶ中間選挙が11月6日(現地時間)、投開票される。共和党と民主党が激しく競り合う選挙戦の行方は、政権の人気がもろに影響する。

就任から2年目のトランプ大統領は「ラストベルト」(さびついた工業地帯)に暮らす白人貧困層たちの支持を得て当選したが、非常識な言動や自身の関与が疑われるロシア疑惑、セックス・スキャンダルなどにより、かつての人気に陰りが出始め、トランプ氏を輩出した共和党も中間選挙で苦戦を強いられている。

だが、そんな状況に変化が生じている。「救世主トランプ」論を支持する人たちが徐々に増えているからだ。

きっかけはインターネット掲示板の匿名の投稿者「Q」の書き込みだった。

国民の危機感をあおる荒唐無稽な内容で、各メディアも陰謀論扱いするが、中間選挙がらみの集会にもQを信じる人たちが姿を見せるようになった。

人々をひきつけるQの主張とは何か。改めて紹介する。

「偉大な覚醒」

Qが「出現」したのは2017年10月。元々はインターネットの掲示板「4chan」に、Qというハンドルネームで根拠のない主張が次々と投稿がされたのがきっかけだ。

Qの主張をまとめた動画がYouTubeに投稿されている。タイトルは「Q、それは世界を救う計画」。そこには次のようなことが述べられている。

アメリカは裏の犯罪グループ「ディープ・ステート」によって長年支配されており、世界で起きている戦争や貧困問題などはこのグループが関与している。

ケネディ元大統領はディープ・ステートに立ち向かおうとしたが、巨大な力によって暗殺された。

ロナルド・レーガン氏以降の大統領はすべてディープ・ステートに関わっている。

アメリカにとって選択肢は2つしかない。1つは軍事クーデターを起こすこと。だがそれは失敗のリスクが高く、すでに手遅れでもある。

もう1つの選択肢として、良識ある軍人と世界の同志たちが考えたのが、ドナルド・トランプ氏に大統領になってもらい、国民を危険にさらさない形で合法的に秩序を取り戻す。

ディープ・ステートは北朝鮮も操り、核兵器で世界を脅している。金正恩・朝鮮労働党委員長が突如、和平に前向きになったのはディープ・ステートから解放されたからだ。

テロ組織「IS(イスラム国)」もトランプ大統領が当選した後に掃討された。しかし、道はまだ半ばであり、犯罪者であるヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ前大統領、ジョージ・W・ブッシュ元大統領は健在だ。

そこで次の段階に入る。それこそがQだ。アメリカの諜報機関「国家安全保障局(NSA)」にいる善良な人たちが、Qと呼ばれる最高機密情報を流す。

その機密情報こそが、インターネット上の草の根運動「偉大な覚醒」を起動するためのプログラムにほかならない。

それはインターネットのアンダーグラウンドなチャンネルから始まり、次第にメインストリームへと拡散していく。

問題は資本主義か社会主義かでも、民主党か共和党かでも、白人か黒人かでも、イスラム教徒かキリスト教徒かでもない。相手は巨大な力を持った犯罪者集団だ。

動画は「この計画を信じよ」という一文で締めくくられる。

ピザゲートに酷似?

ニューヨーク・タイムズによると、Qの投稿では、大統領選でトランプ氏と争った民主党のヒラリー・クリントン氏や、前大統領のバラク・オバマ氏、投資家のジョージ・ソロス氏はディープ・ステートのメンバーで、国際的な児童買春に関与しているとされている。

また、2016年の大統領選で勝利するため、トランプ氏がロシアに選挙干渉させた疑惑の捜査についても、クリントン氏やオバマ氏らのクーデター計画の内偵を察知されないための偽装工作にすぎないとしている。

闇の犯罪組織に支配されてきたアメリカを救うために出現したのがトランプ氏――。それがQの投稿の核心だ。

アメリカの各メディアは相次いで「事実無根」「錯乱している」と、陰謀論として報道。中には、ワシントンのピザ店を拠点にクリントン氏らが児童買春をしているという偽ニュース「ピザゲート」をほうふつさせると指摘するメディアもあった。

「Q」現る

「我々はQだ」。7月末、そんなTシャツを着た若者たちがフロリダ州であったトランプ大統領の集会に姿を現した。

シンガー・ソングライターのアンドリュー・キレルさんやジャーナリストのアーノン・ルパー氏もTwitterで紹介。Qの支持者たちがネットを飛び出して初めて集会にやってきたとメディアで注目された。

一方、女優のロザンヌ・バー氏もQへの賛同をツイートしたほか、トランプ氏自身も、YouTubeでQの主張を拡散しているラジオパーソナリティーのライオネル氏と大統領執務室で記念写真に収まった。

There simply are no words to explicate this profound honor.

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報道機関が相次いでQの主張を「根拠なし」としているのにもかかわらず、信奉者は増加。彼らはQanon(匿名のQたち)と呼ばれる「勢力」を形成、その存在感は増すばかりだ。

ブルームバーグによると、世論調査では中間選挙は共和、民主両党が拮抗しているという。当初は民主党が優勢と言われていたが、終盤にきて共和党が巻き返しを図っている。

共和党の追い上げは、Qの広がりと関係しているのか。選挙後もQを支持する人たちの動向は見逃せない。

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