スターバックスの日本モバイル戦略、その狙いとは? LINE&Uber Eatsとの提携

モバイルペイメントの普及を目指すスターバックスには、越えねばならない障壁がある。

日本市場での高成長を維持するべく、スターバックスは携帯電話で顧客に働きかけていく。

去る11月8日、スターバックスは、同社アプリを利用したモバイルオーダーおよびペイメントを来年、日本市場に導入すると発表した。また、日本の最大手ソーシャルプラットフォーム、LINEとの提携でデジタルペイメントを可能にするとともに、これにより、国内のLINEユーザー7800万人と繋がりたいと考えている。さらに、Uber Eats(ウーバーイーツ)と提携し、モバイル経由のデリバリーサービスも導入する。

現金至上主義な日本

こうしたモバイルサービスは、顧客をスターバックスのエコシステムにより深く取り込み、ロイヤルティを構築するための戦略であると同時に、顧客データ獲得のための行動でもある。デジタルプロフィールおよびポイント還元サービスをパーソナライゼーションへのきっかけとして利用できるからだ。このオンライン・オフラインアプローチは、現在全国で展開する1392店舗に加え、2021年まで毎年100店を新規開業していくという、同社の成長計画を補完するものとなる。ただし、モバイルペイメントの普及を目指すスターバックスには、越えねばならない障壁がある。日本には依然として、現金払い信仰が根強く残っているからだ。最近の調査結果によると、全顧客取引のうち、金額ベースで60%以上が現金で行なわれている。

「日本では、 [モバイル]テクノロジーはあるが、[モバイルペイメントは] 中国のように広くは普及していない。LINEが素晴らしいのは、顧客中心主義の視点に立ち、何よりもユーザーが第一となっている点だ。つまり、彼らはプラットフォーム上で顧客とじかに相対することになる」と、グローバルコンサルティング会社Vivaldi(ヴィヴァルディ)の戦略コンサルタント、ダニエル・ブラック氏は言う。「LINEと提携すれば、顧客からのオファーが目視できるし、スターバックスはロケーションベースの視点に立ち、それを活用できる」。

米市場調査会社eマーケター(eMarketer)によれば、今年末までに、日本人全体に占めるモバイルペイメントユーザーは、それに近いユーザーを含めて、14%になるという。これに対して、中国はモバイルペイメント先進国だ。今年末までに、世界のモバイルペイメントユーザーの64%を中国在住者が占めることになると、eマーケターは推定する。

このように、日本人顧客の動向と中国のそれとは大きく異なるのだが、スターバックスのLINEとの提携は、さらなる成長を目指して人気のローカルプラットフォームと組み、モバイルにフォーカスするという中国における動きに酷似している。同社は8月、ECおよびロジスティックスの中国最大手アリババ(阿里巴巴)とデリバリーサービスのパートナーシップを結んだ。これを受けて、スターバックス・チャイナは現在、eコマースおよびモバイルショッピングといったデジタルファーストタッチポイントやモバイルペイメントと従来型の実店舗を統合するという、アリババの 「ニューリテール」コンセプトの実践に向けて動いている。店舗に行きたくない顧客は、アリババのオンラインマーケットプレイスからスターバックスに注文可能だ。つまり、アリババのマーケットプレイスがeコマースショッパーのための「仮想店舗」となる。

吉と出るか凶と出るか

スターバックスは日本の顧客にモバイルペイメントを取り入れるよう、静かに促していくのではないかと、アナリストらは見ている。ただし、顧客が支払方法を現金からモバイルに変えるかどうかはひとつの賭けだと、コロンビア・ビジネス・スクールのセンター・オン・グローバル・ブランド・リーダーシップのディレクター、マシュー・クイント氏は言う。

「非常に興味深い、反直感的な状況だ」とクイント氏。「[日本の]消費者は一般に携帯電話を[ソーシャルな]体験の向上手段として利用する一方、支払の向上手段とは考えていない。クレジットカード決済への依存に対する抵抗感が風土としてあるからだ」。

デリバリーサービスの導入により、スターバックスが多忙なオフィスワーカーに狙いを絞っていくことも考えられるが、いずれにせよ、長期的にコーヒーのデリバリーに収益性が見込めるかどうかは、じきにわかるだろう。

「多くの人は、スターバックスに『サードプレイス(自宅や職場以外のくつろげる場所)』を求めて訪れるが、デリバリーではそれが望めない」とブラック氏は指摘する。「一般のコーヒー消費者は、デリバリー料に難色を示すかもしれないが、その一方で、フードの購入量が増える可能性はある」。

スターバックスの優位性

とはいえ、スターバックスには規模という優位性がある。莫大な資産と広大な店舗ネットワークを活用すれば、デリバリーコストを抑え、消費者に優しいサービスの提供が可能だと、小売業者に向けて顧客サービスとペイメントプラットフォームを開発するテキサス州オースティンのマーケティングテクノロジー企業、T3のプレジデント、ベン・ガディス氏は指摘する。

「グローバルなパートナーシップを通じてそれができるところがあるとすれば、それはスターバックスだ」と、ガディス氏。「彼らは今後、費用対効果のより高いものにするよう、(デリバリー事業者らと)交渉できる力を付けてくるだろう」。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)

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