アート&カルチャー
2018年11月23日 09時30分 JST | 更新 2018年11月24日 09時37分 JST

せやろがいおじさんは、なぜ“誰も傷つけない笑い”を目指すのか。「差別する側は、息を吐くように差別すると気づいた」

「今のお笑い界で当たり前のようにやっている手法も、疑う必要がある」

せやろがいおじさんこと榎森耕助さん
HuffPost Japan
せやろがいおじさんこと榎森耕助さん

「お~い りゅうちぇるのタトゥーにヤイヤイ言うてる人~ 一旦落ち着こ~」

沖縄の綺麗な海をバックに、関西弁で社会問題について一言物申す。「せやろがいおじさん」と名乗るキャラクターが投稿する数分の動画が、ネット上で話題になっています。

せやろがいおじさんの正体は、沖縄で活動するお笑いコンビ「リップサービス」の榎森耕助さん。

11月に東京・沖縄で開催したトークライブはチケットがすぐに売り切れ、急遽追加公演も行われる事態に。

お笑い芸人がYouTubeをはじめたきっかけや、せやろがいおじさんが拡散される理由などをご本人に直撃しました。

撮影:島袋コウ(モバイルプリンス)
せやろがいおじさんこと榎森耕助さん

「せやろがいおじさん」が生まれるまで

ーー沖縄でお笑いを始めたきっかけを教えてください。

奈良から大学進学で沖縄に来たんですけど、教職課程コースで教員になるために勉強していました。そのコースの先輩と、沖縄お笑い事務所「オリジン」のライブを見に行ったのがキッカケです。

そこで「お笑いを始めたい!」と思い、一緒に見に行った先輩の金城 晋也とそのままコンビを組んでオリジンに入りました。大学1年の終わり、19歳のころでした。

(※オリジンは沖縄のお笑い事務所。主な出身芸人は、キャン×キャン、スリムクラブ、三日月マンハッタン、しゃもじなど)

ーー沖縄で活動している中で、リップサービスは「お笑いバイアスロン」など県内のお笑いコンテストを4連覇するなど結果を残します。そうした中、YouTuberとして活動するキッカケはなんだったのでしょうか?

大会で連覇して「地元じゃ負け無し」みたいになりましたけど、それでも全然飯食えなかったんですよ。

これは沖縄だけじゃなく全国の大会でも多分一緒で、結果を残してもメディアにフィットしなければお金を稼げないんじゃないかと思い、賞レース以外での売れ方を考えないといけないなと思ったのが、YouTubeを始めたキッカケです。

ーーYouTubeを始めてから「せやろがいおじさん」にたどり着くまで、どんな試行錯誤がありましたか?

当初は自分たちが面白いと思うことをやっていたんですが、その時に改めて「世間って俺らに興味ないな」と思いまして。(苦笑)

確かに、どこの誰かも分からないお笑い芸人よりも、信頼と実績の中央の芸人さんのお笑いを見るだろうし、YouTubeを見るにしても信頼と実績の有名YouTuberさんを見るだろうと。

その中でのし上がっていくのは難しいな、と壁を感じていました。

ーー「苦しい」と感じる時期が続いていたんですね。

そうですね。そうした中でいい動画を作るために、編集用で17万円くらいのパソコンを奮発して買ったんですよ。そして、節約するためにお弁当作ってカバンに入れていたら、煮卵の汁がこぼれてパソコンが壊れるという。あの時が最大の危機でしたね。

ーー煮卵で引退の危機に追い込まれると。

もう辞めようかと思いましたが、ここで辞めたらこれから笑顔で煮卵食べられなくなるぞと思いましたね。「ここで煮卵食べられなくなるか」、「また20万出してパソコン買って動画作って、笑顔で煮卵食べられるようになるか」の分岐点で、じゃあ大好きな煮卵のために頑張ろうかと。

ーー今はもう煮卵は食べられるようになったんですか?

せやろがいおじさんが拡散され出してからは、煮卵が本当にうまい。(笑)前よりもうまく感じますよ。

共感に加えてモヤモヤを「言語化」すると、広がっていく

ーーちなみに動画を作るにあたって、どのくらいの時間がかかりますか?

テーマによって全然違いますね。撮影は1~2時間、編集は2時間半くらいとある程度決まってきたんですが、台本はかなり変わります。

ーーせやろがいおじさんは、当初は社会派というよりは「あるあるネタ」が多かったと思います。どの辺りから変化しましたか?

最初は、あるあるネタなどの「共感」で攻めようと思ったんですよ。

でも、最初の「違法アップロードされたアダルトビデオ」の動画は、アダルトビデオ業界の人から「よくぞ言ってくれた!」という形で拡散されました。

共感に加え、みんながモヤモヤしているけど言語化できないようなことが表現できると「すっきりした」みたいな形で広がっていった感覚がありました。

違法アップロードされたエロ動画を見るやつに一言【せやろがいおじさん】

久々に会って「覚えてる?」って聞いてくる奴に一言【せやろがいおじさん】

このあたりで「拡散される要素」がボンヤリと見えてきて、僕もモヤっとする時事問題を扱ったらどうなるかと思いました。

その後、「高野連に一言」という動画を作りました。

▼金足農業の侍ポーズ禁止した高野連に一言【せやろがいおじさん】

あれは自分でも計算があったんですけど。みんな甲子園には絶対に関心があるし、高野連にも「なんだかな」というモヤモヤがあったと思います。

決勝前日の夜に「動画撮ろう!」と思い、翌朝撮影し、試合中に編集してアップしたんですよ。

その試合中にすごく拡散されました。その時に、時事性の高い話題の拡散力に手応えを感じました。

「AV」と「金足農業」で今のせやろがいおじさんの方程式ができた感じでしたね。

やりたいことは「攻撃」ではない

ーーその後「りゅうちぇるタトゥー」や「オリンピックボランティア」動画で確信に変わった感じですか?

そうですね。その時は、皆さんネット上の殺伐とした雰囲気に相当すり減ってるんだろうなと気づきがありました。

▼りゅうちぇるのタトゥーについて思う事を沖縄の海に叫んだ【せやろがいおじさん】

▼東京オリンピックのエゲツないボランティア募集について【せやろがいおじさん】

お笑い芸人としてやる以上は、「クスッと」笑ってもらえるような言い回しを考えたり、マウンティングして誰かを叩くためじゃない、マイルドな言葉を選んでいるので、それが支持されているのかと思いました。

ネット上に書き込まれる罵詈雑言、とんでもないことになっているじゃないですか。こうしたところにも需要があるんだなと発見でしたね。

ーー9月30日に投開票が行われた沖縄県知事選後の「沖縄終わったと言ってる人に一言」という動画も、反響が大きかったと思います。あの動画はいつ撮られたのでしょうか?

県知事選の翌朝に撮影しました。

実は台本を「沖縄終わったって言ってる人、何言ってんねん!」という形で一度作ったんですが、眠る時に考えて「これじゃ(従来のネット上での議論と)やってることは同じだよな」と思いまして。

俺がやりたいことは攻撃じゃない。何に自分が引っかかっているんだろうということに立ち返って作りなおしました。

▼沖縄県知事選を終えて「沖縄終わった」と言ってる人に一言【せやろがいおじさん 】

その結果、右・左ではなく、前・後ろで考えたいと思ってからはすぐにできましたね。

特に、沖縄の県知事選挙の時はネット上での言論が荒れに荒れてたじゃないですか。汚い言葉の応酬で。そうした言葉が飛び交うことで、ネット上が殺伐として、語りづらい雰囲気になる。

それが一番よくないと思うので、「前向きな感じでやっていきましょうよ」という感じで作りましたね。

アンチテーゼ的な感じでも、受け取りやすい言葉で、笑いも入りながらやっていきたいなと。

時事問題を語りづらい話題も、せやろがいおじさんのマイルドな言葉を使う手法で、みんなが喋りやすくなると思ってからは「この動画作る意味があるな」と実感してきましたね。

松本人志さんの発言にも物申す

ーー松本人志さんに物申す動画もかなり勇気が必要だったと思います。

動画を事務所で編集していたら、事務所の代表が一言「俺は守らんぞ」と(笑)

▼松本人志さんの「死んだら負け」発言に一言【せやろがいおじさん 】

ーー松本人志さんが圧力をかけることはないと思いますが、周りの人が気を使う感じですよね。

そうですね。周りの人からも「干されるぞ」とか言われたんですが、すでに干上がってる状態なんで。干物に対して「干すぞ」はダメージゼロですし。

そして、別に松本人志さんを否定しているわけでも攻撃しているわけではなく、提案ベースの叫びだったので。

ーーリップサービスが4連覇した大会「お笑いバイアスロン」では、審査員ではダウンタウンのブレーンの放送作家、高須光聖さんもいらっしゃいます。

でも、そこは全然気にならなかったですね。あの動画を出して高須さんとの仲が険悪になるような、そんな方ではないので。

ーーちなみに沖縄といえど、これからの季節は流石に寒くなると思いますが、大丈夫ですか?

寒くなる問題は最高のフリとなって、あれやりたい・これやりたいがどんどん出てきていますね。こんな美味しい話はないです。

逆に、今ホットココアを売り出したい企業さんがいらっしゃれば、俺にその仕事依頼してくれよと。

ーー確かに、せやろがいおじさんは広告との相性もすごく良さそうですね。11月3日・4日に行われたMONGOL800主催のフェスでも、動画を作っていました。

あの時にいただいた意見で結構多かったのが、「お金の匂い」とか「体制派」に行ってしまった時の反論も大きくて。せやろがいおじさんを「崇高なもの」として考えすぎてしまっていると言いますか。

ーー別にモンパチさんは「体制派」ではないけれど(笑)

そうなんですよ。別にせやろがいおじさんは大きい企業でも応援したければ応援しますし、金も欲しいですし。(笑)

▼WWW!!18│モンパチフェス│せやろがいおじさん

過去の自分の発言に、「女性蔑視」と指摘がきた。その時に気づいたこと

ーーまた、お笑い芸人と社会派のネタ、なんなら多様性を大事にする主張は少し相性が悪いと感じます。人を傷つけない笑いもあるけれど、どうしても幅が狭くなってきてしまう。過去の発言や、"リップサービス"のネタの内容などで、せやろがいおじさんファンからの指摘が入ることなどはないですか?

実は、1年前の動画の中で「女性蔑視の発言がありましたよ」と指摘がきまして。

内容は「SNSで画像加工した女性を見た後に実物見たら『ブス来たー』ってなりますよね」という発言で。お笑い界では割とよくある文脈です。

指摘に対して、一瞬「そんなつもりないから」「女性蔑視の気持ちないから」という反論をしかけたんですが、よく考えたら傷つく人もいるから、「不快にさせてすいません」と投稿したら、「お前なんも分かってないな」「そういうことじゃない」と反論がきまして。

そこで再度、自分の中で問題を因数分解して、「別に画像加工するのは女性だけじゃなくて男性もいるよな」「なんで女性に限定したんだろう」と思って。そこで、自分が無自覚に女性差別をしていたんだと気づいて。

自分が指摘されて、初めて差別する側は息を吐くように差別するんだなと気づきまして。

「不快にさせてしまってゴメンなさい」という謝り方も、ヤリをブンブン振り回してて「痛い、痛い」と言われているのに、「痛かったならゴメンなさい」と返すような謝り方で。まずはヤリを止めろよと。

自分の中でも、学びとして大きかったですね。

せやろがいおじさんを始めて数カ月で考え方がどんどん変わっていて、正直別人だと思います。

笑いの質に関しても、せやろがいおじさんでやったことを芸人として活かせるように見直し中ですね。

「誰も傷つけない笑い」と言うとかっこつけすぎだと思いますが...。本当に面白い本質的なお笑いは、そういうところとは違うところにあるのかな、とか。今のこのチャレンジが、芸人として飛躍のチャンスになるのかな、と思ったりもしています。

ーー確かに難しいですよね。芸人さん本人が自虐的に「ハゲネタ」を行なっても、それによって傷つく人も出てきますし。

難しいですよね。実は過去に人の身体をいじるネタを投稿したこともありまして、その時は「芸人は双方合意の元でやってるからいいじゃん」と思ってやってたんですけど。そもそも「芸人のやりとりを見るのも嫌なんです」という意見も結構きました。

今のお笑い界で当たり前のようにやっている手法も、疑う必要があるなと。

過去に散々やってきてしまったので。

ーーせやろがいおじさんは、そういう意味では「贖罪」のような...。

そうですね。「芸人としては芸人の文脈でやります」「でも、せやろがいおじさんも宜しく」みたいな言い訳せずに、ちゃんとせやろがいおじさんを芸人にフィードバックしたいです。

色んな意見をあわせて、前に進むことが大事

ーーせやろがいおじさんは、相手にきちっと「逃げ道」を作る優しさを感じます。問題発言をした人に「正論」だけをぶつけすぎると、相手は絶対に謝らなかったり、支持者に向けてしか心を開かなくなる。その結果、みぞが深くなる。でも、せやろがいおじさんは「こう言いたかったんやろ?」「この言い方の方が良くない?」といった、余白があります。

このあたりは、愛聴しているラジオ番組「荻上チキ・Session-22(TBSラジオ)」の影響がかなりあると思います。

パーソナリティーの荻上チキさんは、ダメ出しじゃなくて「ポジ出し」をしていこうぜ、と仰ってて。叩くだけじゃなくて、ポジティブな提案して、前向きな議論をしようというところに共感しています。

▼荻上チキ・Session22-に一言【せやろがいおじさん】

今、僕はこの「オリジン」の中でリーダーをやってるんですけれど、ライブを運営する上で、色んな人から色んな意見が出て、時に紛糾のようになるんですよ。

でもそうなったら、何も進まなくなる。お互いの攻撃が主になってしまって。

だからこそ、色んな意見をあわせて前に進むということが大事で。そうした経験と、チキさんの「ポジ出し」の考え方が合わさって、せやろがいおじさんはできていますね。

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せやろがいおじさんの動画は、YouTubeチャンネル「ワラしがみ」で配信中。

せやろがいっ!!!!

【聞き手、執筆】島袋コウ(モバイルプリンス)

1987年、沖縄市出身。お笑い芸人・携帯電話ショップ勤務の経験を活かし、スマホ・ ネット活用の方法を楽しく、分かりやすく伝える。琉球新報での連載をはじめ、「サ イバー防犯PR大使」としても県内外で活動中! / Twitter

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(編集:ハフポスト日本版ニュースエディター生田綾)