原動力は、世の中への怒り。生きづらいこの時代に、池松壮亮さんが映画に込める思い

「世の中や社会に対して思うこと。そういうものを込めてこそ、映画に力が宿るし、人の心に届く」
池松壮亮さん
池松壮亮さん
Ayako Masunaga

「なんかもう、ちょっと危機感を感じますよね。街を歩いても、テレビを見ても。自分も含めて、ちょっと世の中全体がおかしい気がします」

そう話すのは、俳優・池松壮亮さん、28歳。

『ラストサムライ』で12歳にして映画デビュー。近年は『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』、『万引き家族』などの話題作で好演を果たし、実力派俳優として活躍中だ。11月24日(土)には、鬼才・塚本晋也監督との初タッグとなる主演映画『斬、』が公開された。

物語の舞台は、開国をめぐり激動に揺れた江戸時代末期の日本。池松さんは、人を斬ることに疑問を抱き、時代に翻弄される若武者・杢之進を怪演した。

人間の暴力性が鋭く描かれた作品だが、池松さんは2018年の「いま」という時代にも、「閉塞感や怒りが満ちているように感じる」と語る。

その言葉の意味とは? ハフポスト日本版のインタビューに、池松さんが答えた。

池松壮亮
池松壮亮
Ayako Masunaga

ーー『斬、』は、人間の暴力性や時代に翻弄される姿をうつす、今の時代を反映するかのような映画でした。

今の時代に向けて、自分が精一杯できる「祈り」みたいなものを込めました。20代の俳優としての自分は『斬、』をやるためにあったんじゃないか、と思えるくらい。

僕だけじゃなくて、塚本晋也監督や蒼井優さんをふくめ、一緒にこの映画を作り上げた人たちの「祈り」が結集した作品だと思っています。

何に対して祈っているのかと聞かれると、うまく表現できないんですけど...。(笑)すごく簡単に言うとしたら、「世の中がもっと良くなってほしい」みたいなことなんでしょうね。

この『斬、』を撮影中に、3回くらいJアラートが鳴ってるんですよ。ミサイルが発射されたという情報が飛び交う中で映画を撮ってるわけです。

世界では、目や耳を防ぎたくなるようなことがたくさん起こっていて、世の中がいい方向に向かっているかと言ったら、決してそうではないと思います。

そんな状況の中で自分ができることって、何にもないんですよね。何もできないんですよ。映画を撮っているだけで。

この状況でも映画をやってるんだから、もう自分にできることは「祈る」しかない、ということです。もっと言うと、人間が最終的に何ができるかとなると、「祈る」ことしかできないんだと思います。

今の世の中に対して思うこと、社会に対して思うこと。そういうものを、「祈り」というかたちで込められてこそ、映画に力が宿ると思っていますし、人の心に届くと信じています。

そういうものを映画に込めたいとずっと思っているし、じゃなきゃ映画をやっている意味もないと思っています。

「塚本映画のファンだった」と話す池松さん。「20代の自分はこの映画のために俳優をやってきたんじゃないか、と思えるくらいの作品だった」と振り返った。
「塚本映画のファンだった」と話す池松さん。「20代の自分はこの映画のために俳優をやってきたんじゃないか、と思えるくらいの作品だった」と振り返った。
©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
Ayako Masunaga

ーーそう感じるほど、世の中が「悪い」方向に向かっていると思いますか?

どうなんでしょうね。悲しいと思うのは、誰も「時代がいい方向に変わる」って言わないですよね。自分自身、新しい時代に何か期待が持てるかと聞かれたら、そうだとは言えないのが本音なので。

なんかもう、ちょっと危機感を感じますよね。街を歩いても、テレビを見ても。自分も含めて、ちょっと世の中全体がおかしい気がします。

たとえば、渋谷のハロウィンで起きたこともその結果の一つだと思います。人間が暴徒化して、何か煮えくり返りそうな感じになってる。

僕はたまたま俳優というものに出会って長年やってきて。まだこの場所で自分がやりたいこと、やるべきことがあると思ってる。それでこの仕事を続けている感覚はあります。

みんなが怒った方がいいところまでとっくにきている中で、その「怒り方」や「反撃」の仕方として、僕は映画という純粋なものにまだかけているんだと思います。

『斬、』について塚本晋也監督は、反戦への思いなどが制作背景にあると明かしている。
『斬、』について塚本晋也監督は、反戦への思いなどが制作背景にあると明かしている。
©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

ーーすごく強い責任感や使命感を持たれているんですね。

日本映画と社会って、どんどん離れていっていると感じていて。

でも、現代で映画をやるとしたら、少なくとも時代の空気や世の中に漂っているもの、みんなが必要としているもの、怒っていること、喜びや悲しさとか、そういったものを伝えることに「責任を取らないといけない」と思っているんです。

僕が俳優を志した頃は、「そういう思いを俳優が持つべきではない」と言われがちでした。

俳優は「言葉」を持つべきじゃないし、何かを発信する立場ではない。俳優はただ作品のピースの一つであれ、という風潮があったと思います。

でも、もうそんな時代じゃないでしょう、という感じです。

Ayako Masunaga

ーー世の中に対する「怒り」のようなものが、池松さんにとって原動力になっているのでしょうか。

さっき言った「祈り」というのも、根源も「怒り」だったり「傷」だったりしますよね。たしかに、ずっと怒っているような気持ちはあります。

何もできない自分の無力さに対してもそうだし、人に対してではなく、漠然としたものへの「怒り」みたいなものがある。何かを発表しなくちゃいけない思いがある。

だから俳優をやっていられるような気がします。

こんな時代だし、せめて一生懸命生きていたいなと思います。一生懸命生きていたいし、ボケッとしてらんないな、という気持ちです。

Ayako Masunaga

ーー池松さんが話すように、今の時代に生きづらさや閉塞感を感じている人はたくさんいると思います。そんな中で希望を抱いて生きていくためには、どうしたらいいと思いますか?

どこまでできるのか、そもそもできているのかはわからないですけど...。映画ができるのは、明日がんばろう、と伝えることじゃないかなと思います。

明日何が起きるかわからないし、もしかしたら明日、世界がなくなってしまうかもしれない。

でも、ひょっとしたら明日いいことがあるかもしれないし、誰かが一緒に怒ってくれるかもしれない。だから今日はなんとか生き抜いて、明日がんばろう。そういう感じではないでしょうか。(笑)

池松壮亮

池松壮亮さん 映画『斬、』インタビュー

【作品情報】

斬、』(ざん、)

11 月 24 日(土)よりユーロスペースほか全国公開

監督、脚本、撮影、編集、製作:塚本晋也

出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也

(撮影:増永彩子、聞き手・執筆:生田綾、南麻理江)

注目記事