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2018年11月28日 09時27分 JST | 更新 2018年11月29日 00時53分 JST

誰かのせいにしてしまいがち。そんな社会を変えたい。Jリーグの米田惠美理事は訴える

これからの25年、Jリーグはどこに向かうのか。変化や改革の裏側を語ってもらった。

Ryo Nagata
米田惠美氏

J2018年に25周年を迎えたJリーグ。

次の25年に向けた一歩として、5月に開いたイベントで「Jリーグをつかおう!」というメッセージを打ち出した。リーグ主導ではなく、地域やみんなと一緒につくりあげるリーグを目指そう、という思いが込められている。

米田惠美理事は、その仕掛け人のひとり。もともと公認会計士で、組織運営や地域・社会に関わる取り組みなどを買われ、4月にJリーグに理事として招き入れられた。

「スポーツを使って最後どうしたい、というコミュニケーションを取る人が少なかった」

これからの25年、Jリーグはどこに向かうのか。変化や改革の裏側を語ってもらった。

「一緒に未来をつくりたい」Jリーグが届けたいメッセージ

Jリーグ提供
Jリーグ25周年ワークショップの様子

今年の5月にJリーグでは25周年を記念して、未来共創「Jリーグをつかおう!」という300人ワークショップを開催しました。通常は、こういう節目は「記念式典やります」となりますよね。そこで昔話で盛り上がるのもいいけど、それだと未来に繋がらず自己満足になりやすいと思いました。

また、Jリーグのビジョンや戦略を策定する時に、「フットボールをどうしよう?」や「集客戦略どうしよう?」みたいな話は当然あるんですけど、社会に向けて発信するには内輪すぎる。

そうではなく、一番大事にしないといけないのは「私たちは今まで、社会に対してこういう活動をやってきたけど、これからは"皆さんと一緒に"描いている理想の社会をつくっていきたい。一緒に未来を考えましょう!」というメッセージを世の中に届けるということだと思ったのです。

なぜ、このメッセージを届けたかったか。理由は2つあります。1つは現代は「共創の時代」だからということ。もうひとつは、Jリーグの経営課題の観点です。

全54クラブが地域のために年間計1万8000回のホームタウン活動をしているのですが、「これ以上やれない」「もう限界までやっている」という声が選手やスタッフから出てきていました。それなら、もっと多くの人を巻き込んで、さらに大きな規模で活動をやっていけるようになったほうが、地域にとっても良いですよね。そこで、クラブと地域がこれまでの交友関係から、一歩進んだ関係を築くことが重要だと考えたのです。

それが、「Jリーグが」から「皆さんがJリーグと」に主語を変えよう、ということでした。

Jリーグの関係者と各クラブの社長らで「こういう社会にしていきたい」と、2018年の年明けからずっとビジョンについて話していました。目指したい社会像や私たちが提供できる価値を話している中で、「Jリーグをつかおう!」というメッセージが決まりました。

スポーツ界にビジネスの血を入れていく

Ryo Nagata
米田惠美氏

今Jリーグでは、2030年のビジョンを考えています。百年構想や理念といった大きな概念はありましたが、具体的にいつまでにここまでいくぞ、という状態を具体的に示すビジョンやそれを実現するための戦略、中期計画をきっちり立てていませんでした。

資金使途は明確でしたし、リーグの方向性を示すものはあるのですが、そこに向かってちゃんと進んでいるのかどうかが測れない状態だったので、それはまずいと。

この船はどこに進んでる?今どのあたり?という状況を明らかにして、対外的にも出来た・出来ないを背負うのが経営側の責任だと思っています。ビジョンは2030年ですが、サッカー界は4年周期で動く組織なので、戦略や中期計画は4年単位で考えています。

スポーツの組織で、中長期計画をきっちり考えているのは珍しいと思います。クラブはやっているところもありますが、リーグや協会といった組織では多くないと思います。リーグでは直接集客せず、クラブを通じてやっている難しさがあります。あと、Jリーグは公益法人なので、利益や売り上げを上げることだけがミッションではなく、社会的価値も求められます。

目指すべき社会的価値の指標をどこに置くか、KGI(重要目標達成指標)の設定が難しく、これまでは出来ないと諦めていました。でも、私は「何かしらの指標を置ける」と思っています。これは会計士時代に培った考え方でなのですが、村井チェアマンが「スポーツ界の良さを失わずに、ビジネスの血を入れていくこと」を大事にしているので、後押ししてくれました。

これだけ社会的な活動をやっている団体は他にない

Suphaporn via Getty Images
サッカーボールのイメージ画像

そもそも、私がJリーグに携わるきっかけは、以前仕事で関わりがあった村井から「Jリーグも風土を良くしたい。手伝ってくれないか」と言われたことです。

私自身は会計士がルーツですが、人材開発や組織開発の会社を知人と経営しているので、「社会への問い」を常に意識しています。社会システムがどうなっているかを紐解こうと、保育士資格をとって子育てを支える現場で何が起きているか見たり、在宅診療所の経営に携わっていたりと、いわゆるフィールドワークもしていました。それを村井は知っていて、Jリーグと親和性がある、と声をかけたのでしょう。最初はフェローとして、2017年からJリーグに携わることになりました。

私は新しく組織に加わるとき、必ずその組織の歴史を紐解くようにしています。それから、数字を見て、人の声を聴く。つまり、あらゆる観点から体系的に見て、組織の本質は何かを掴みにいくようにしています。そこから組織の強みや歪みなどが浮かび上がってきます。

Jリーグはいざ紐解いてみると、「壮大な理念はあるが、解釈はそれぞれになっているし、個々が思い思いに動くからエネルギーが分散している」ことが、課題の1つだと分かりました。さらに、今年1年頑張って、組織の何がどう変化したのか、自分の仕事が良かったのか悪かったのかも分からず、フィードバックがもらえない。それじゃ職員も消耗しますし、コンディションも悪くなっていたように思います。人の心理として、自分の仕事の進捗がわかることは、モチベーションの源泉なんです。だから、職員全員がそれを感じられるようにしたい。

ですから、ビジョン策定だけではなく、さまざまな仕組みを取りいれることで改善を図りました。もともとは、風土をよくしようということでJリーグに関わり始めましたが、そんな経緯から、次第にガバナンス・会計・戦略も携わるようになりました。

でも、約1年伴走してきて村井は改革のスピードが気になったようです。「世の中はものすごいスピードで動いているのに、このままではJリーグはどんどん置いていかれる」という危機感があったのでしょう。フェローという外の立場ではなく、中に入って欲しいと言われ、私が理事としてJリーグに入ることが決まりました。

いざ関わり始めると、あまりに課題が多くてびっくりした・・・というのも正直な想いですが、裏を返せば、こんなにポテンシャルのある組織はないなとも思っています。Jリーグ・Jクラブにしかない強み、価値も沢山あって、これは唯一無二の素晴らしい仕事だなぁと感じています。スポーツが持つポジティブな空気とか、世の中に対するプラスなインパクトがものすごくある。特に、全国に54クラブもあって、これだけ社会的な活動に取り組んでいる団体は他にありません。地域密着を掲げ25年間も活動を続けてますからね。

ただ、その価値を世の中に届けられていない。少し距離がある人からは、サッカー好きな人がサッカーの試合をやっているだけでしょ、という声が聞こえてくる。Jリーグが持つ価値を早く多くの人に届けたいです。課題もいっぱいあるのですが、見つけるたびに「あ、可能性見つけた!」と思うようにしています。

Jリーグの「触媒」になる

Ryo Nagata
米田惠美氏

組織改革のプロセスデザインは日々考えています。何かを変えるということですから、昔からいた人から反発が出るのは想定内。でも、大事にすべき軸や方向性はぶらさずに、「何を理由にやるか」「どんな手法を組み合わせるか」ということを、一個一個考えて実行しています。

外の血を入れて、中の酸素を巡らせていくことを、村井はやりたかったので、その"触媒"として私が選ばれたのだと思います。

組織内の人たちは、改革のプロセスに驚いたと思います。今も、モヤモヤしているかもしれません。性別や年齢もそうですし、畑違いなところから来たことに対して思うところもあるかもしれませんし、私の至らなさもあると思います。「あいつは本当にサッカーのこと考えているのか?」みたいな目は感じますよ。

でも、私はサッカーの価値やチカラを強く信じているし、Jリーグはもっと出来る組織だと思っているからこそ、改革に参画しました。過去や誰かの否定をしたいのではなく、目指したい未来に向かって全力で走りたい。だから、こっちの方向に一緒に走ろうよと、繰り返し伝えていくことが大事だと思っています。今まで話してきたような組織の大きな目的やビジョンを考えることは、改革のツールの1つでもあります。職員たちと、クラブと、地域の皆さんと一緒に目指すゴールにたどり着きたいと思っています。

Jリーグは「トリプルミッションの組織」

Ryo Nagata
米田惠美氏

「Jリーグをつかおう!」で社会連携のメッセージを外に向けて発信してから、「何か面白いことをしている」「社会への発信が増えた」「ソーシャルグッドな方向に行こうとしてるね」と言ってもらえることが増えました。Jリーグをあまり知らなかった人たちにも、"地域密着をやっている組織"だと思ってもらえるようになっている印象です。

あとは、「私も何か地域のために一緒にやりたい」という問い合わせがとても増えています。問い合わせや提案が増えたのは嬉しいことなのですが、実は、それを実行に移すための人手が足りなくなってきています。

また、クラブの場合は、コミュニティデザインやファシリテーションの専門家がいるわけではないので、「何かやりたいんだけど、何から始めたらいいのかわからない。やり方を教えてほしい!」という声も届きます。我々の準備が追いつかず、バタバタしているところもありますが、想定以上の反応があるのはすごく嬉しいです。

Jリーグ担当のメディアの皆さんも、これまではスポーツの記事だけを書けばよかったけれど、そうではない記事となった時に難しさを感じられていて、記者の方々からも「何をしたいのか教えてくれ」と問い合わせがきます。Jリーグの職員からも「サッカーと興行を両立することを考えてきたけど、そこに社会がついてくるとは思っていなかった」といった声が聞こえますね。

私は「Jリーグはトリプルミッションの組織だ」ということをよく話します。NPOが社会課題の解決と事業の両立と言われていますが、そこに競技性がくっついてくるのがJリーグだと思っています。このトリプルミッションが難しさでもあり、醍醐味だと思うのですが、それが職員には伝わっていなかったみたいでした。「理念は理念」という解釈だったんですね。職員にもトリプルミッションの意味がじわじわ伝わりつつあるので、とても嬉しいです。

スポーツを使って最後どうしたいの?

Jリーグ提供
各クラブとの合宿

スポーツは本当に多面的です。スポーツの価値を社会面から抽出すると、「発信力」と「人をつなげる力」が大事だと思っています。スポーツは、どんな切り口でも、誰でも関わることができます。そして、多くの人を魅了するからこそ、発信力があります。それはつまり、人と人がつながり、新しい価値が生み出す可能性があるということ。そんなスポーツの価値を、色んな人が地域社会のために使ってもらえるといいのかなと思います。

近年、スポーツ界をビジネスの力で加速させる、というイベントは多かったのですが、スポーツを使って最後どうしたい、というコミュニケーションを取る人は少なかった。

それが最近、やっと増えてきた印象があります。Jリーグの内部にいる自分たちがそうなればいいと思っていたのですが、外部の人にどんどん増えていて、驚いています。

「スポーツを使って何をしよう?」という会話が増えるのは、描いていたビジョンと近いことなので、とても嬉しいです。

「オーナーシップのある社会」を実現したい

Ryo Nagata
米田惠美氏(中央)

私の中には、「なんで今の日本ってこうなったの?」という、社会に対する問いがいくつかあります。そのひとつが「当事者意識のなさ」。今の世の中は、「上司が悪い」「会社がこうだから」「政治がどうだ」といった声が多く、何かできないことがあると、被害者意識が芽生えて、誰かのせいにしてしまいがちです。それをやめたいなと思っています。

「もっと自分たちでできることはある」と思いますし、そう考えた方が幸せじゃないですか。自分の人生は自分で決める、誰かが困っている人がいたら自分にもできることがないかなと考える、それが「オーナーシップ(当事者意識)のある社会」だと思います。

私は、「オーナーシップ」の価値観を持った人が、リーグやクラブの活動を通じて増えていけばいいなと考えていて、それが日本社会の色々な課題の解決にもつながると信じています。

Jリーグ・クラブと関わることで、人々に良い影響を与えることができれば理想です。それが全国あちこちで起きれば、日本の社会も変わっていく。なにしろ私たちの頭文字「J」は、Japanと同じ頭文字ですからね。そこに向かって全力を尽くしたいと思いますし、「この指とまれ」に集まってくれる仲間を心待ちにしています。

(取材・文:長田涼、編集:濵田理央)

【プロフィール】

Ryo Nagata
米田惠美氏

米田惠美、公益社団法人日本プロサッカーリーグ理事

1984年生まれ。公認会計士として監査法人で勤務した後、2013年に独立。組織開発のコンサルティング会社の経営などに関わる一方で、保育士資格も取得し、保育や社会福祉の分野にも携わる。 2017年から公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の業務支援に携わり、2018年4月に理事として参画。社会連携やブランディングなどの分野を担う。

◇◇◇

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