QRコード決済がメインストリームになる可能性は低い。なぜなら…

PayPay騒動を踏まえて、2019年のキャッシュレス社会を考える。
Engadget 日本版
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2018年は「日本をキャッシュレス化する」を合い言葉に、雨後の竹の子のように次々と「○○Pay」が誕生した年だった。それ以前から存在するもの、サービス名のみアナウンスされているものも含め、主要なものをざっと挙げただけで下記のようになる。

・Origami Pay

・LINE Pay

・楽天ペイ

・d払い

・PayPay

・Amazon Pay

・pixiv PAY

・銀行Pay(YOKA Pay、はまPay、りそなPay、ゆうちょPay)

・au PAY

・セブンペイ

・みずほWallet

・MUFGウォレット

これらの多くはQRコードまたはバーコードを使った「コード決済」「アプリ決済」と呼ばれるもので、同様に中国系では「Alipay(支付宝)」「WeChat Pay(微信支付)」が存在している。さらに送金系を主眼とするアプリも次のようなものがある。

・Kyash

・paymo

・pring

サービス展開に苦戦している事業者も

とはいえ、これら多くの決済サービスは数社を除けば、残りは2-3年程度の比較的短いスパンで事業縮小を経て終了となるか、あるいは続いたとしても商圏を大きく広げることなく細々と継続していく形となるとみている。実際、割り勘サービスをうたうAnyPayのpaymoが来年2019年前半にも提供終了を発表しており、いくつかはこれに続くと考えられる。

また「au PAY」は楽天との提携で、「楽天ペイ(実店舗決済)」が利用できる加盟店での決済サービス提供をうたっている一方で、当初2018年内を目標としていた開始時期が2019年4月まで順延するなど、準備期間を要しているようだ。

このほか、筆者が複数の関係者から聞いた情報を総合する限り、サービス展開に苦戦している事業者が多いという。利用の伸び悩みに加え、どのようにサービスを宣伝し、他と差別化していくかの部分で紛糾しているという。ゆえに、同種のサービス乱立を憂う声も多数聞かれるものの、そう遠くないタイミングでこの種のアプリ決済はいくつかのサービスへと収れんし、一定の固定ユーザーを抱え込んだうえで日本のキャッシュレス化を担う一翼となると考えている。

PayPay騒動を経て2019年はスロースタートに

○○Payでは最後発となるPayPayだったが、わずか10日間で終了した100億円キャンペーンは世間を大いに沸かせた。購入金額に対して最低でも20%の還元が行われ、最大で10万円までのキャッシュバックとなる。街には高額商品を買い求める人々で溢れ、ちょっとした騒動が連日ニュースやソーシャルネットワーク経由で配信され、それがさらに新たな客を呼び込む原動力となった。

もともと「QRコード決済とはなんぞや?」という層がほとんどだったこの種のサービスだが、これが一般に認知されるきっかけとなった点は大きい。

いろいろな意味で話題を呼んだ100億円キャンペーンは10日間で終了。いろいろ未熟な面も浮き彫りになった
いろいろな意味で話題を呼んだ100億円キャンペーンは10日間で終了。いろいろ未熟な面も浮き彫りになった

一方で、高額商品の購入が比較的容易なこと、そして実装上の問題から正規のクレジットカード保有者でなくてもカード情報をPayPayのアプリに登録できてしまうという不具合があり、何らかの事故で流出していたと思われるカード番号を使った商品の不正購入が一斉に行われるという事件も発生している。

PayPayでは問題把握後にセキュリティコード入力回数上限を設けたほか、一時的措置としながらもPayPayを使ったカード経由での決済金額上限を月額5万円までと定めている。

この決済金額上限は「対策の完了するまで」となっており、最低でも2月程度、おそらくは春ごろまでは抜本的な対策は難しいのではないかと考える。もともと100億円キャンペーンの還元タイミングが1月10日であり、PayPayではこの前後に合わせて新たなキャンペーンを打ち出すことで、少なくとも2019年前半くらいまで話題を継続させ、サービスの認知向上とアカウント登録に結びつける狙いがあったのではないだろうか。実際、複数の情報ソースからPayPayが100億円キャンペーンに近い仕掛けを複数回行える予算を用意していたという話を聞いている。

▲CMと連日の報道やソーシャルネットワークでの拡散は、少なくともPayPayと「QRコード決済」の認知向上にはつながったとみられる
▲CMと連日の報道やソーシャルネットワークでの拡散は、少なくともPayPayと「QRコード決済」の認知向上にはつながったとみられる

だが現在、セキュリティ対策と世間の目への配慮から派手なキャンペーン展開は難しくなっており、おそらく当初描いていたようなロケットスタートは不可能だと考えている。上限金額5万円という縛りでは普段使いも難しいため、アカウント登録したユーザーも対策が終わるまではしばらく利用が停滞するだろう。

また、PayPayの加盟店開拓にあたっては、契約に同意した小売店舗に対してQRキットを発送した直後に利用可能店舗として登録し、実際には店舗が未設置で利用できないにも関わらず、両者に齟齬があるケースが散見される。かつてブロードバンド普及を題目にADSLモデムを大量配布したケースと同様のことが起きていると指摘する関係者もいるが、サービス開始から1年で一気に市場を席巻するつもりでスタートしたPayPayは最初のステップで躓くことになった。

このため、本格的なサービス普及は2019年後半を待たなければならないというのが筆者の見解だ。

加盟店開拓を比較的堅実に進めてきたLINEや楽天などがいる一方で、後発組は全体に「展開が性急」「検証不足」という声も大きい。特にPayPayの失態は「この種のサービスは危ない」と一般層に先入観を抱かせた可能性が高く、全体的な普及のスローダウンは避けられないだろう。当面はユーザー側への派手なアプローチよりも、地道に加盟店開拓や提携相手を増やし、後々の使い勝手向上を先に実現したサービスが優位に立つことができるだろう。

2019年は政府主導でキャッシュレス化

PayPayのスタートでの躓きがあったとしても、2019年の日本はキャッシュレス化に向けて進んでいくことになる。

最も大きいのは2019年10月1日からスタートする消費税増税と軽減税率導入にともなう「ポイント還元」と「中小小売店舗向け決済端末導入支援」の2つの施策で、「2019年10月までにキャッシュレス対応すれば、政府の導入支援を受けつつポイント還元目当ての買い物客を取り込める」という動きにつながると思われる。

多くの人が知るように、チェーン店を含む大規模店舗の多くではクレジットカードなど何らかの"キャッシュレス"的な決済手段に対応しているが、一方で店舗数では多数を占める中小規模の小売店舗のクレジットカード導入が進んでいない。

理由はいくつかあるが、「導入しても初期費用や維持費に比して利用があまり進まなかった」「決済手数料がそもそも高い」「支払いサイトの関係で運転資金が逼迫する」といった体力的にカード決済環境を維持するのが厳しいといったものが中心と思われる。

だがカード導入に関しては先駆者となったSquareをはじめ、リクルートのAirレジや楽天ペイ(実店舗決済)など、中小規模店舗でも比較的使いやすいサービスが登場しており、中にはFeliCa系の電子マネーが扱えるものもある。あとはきっかけさえあれば......ということで、今回の政府施策を受けて「どうせ入れるならこの機会に......」と考える店舗も少なくないはずだ。

実際、過去に税制優遇や決済端末導入支援を行った韓国やオーストラリアでは一気にカード決済端末が普及しており、現在も台湾では減税を釣り餌にカード決済を国土全体に普及させようとしている。

まだ具体的なプランが固まっておらず、軽減税率が実際に導入されるかも含め混乱の途上にある日本のキャッシュレス推進施策だが、「利用者へのポイント還元5%(当初は2%と表明)を消費税増税から2020年の東京五輪開催まで1年間限定」という内容の是非は差し置いても、キャッシュレス化に向けて進んでいくことになるだろう。

「カード決済端末(CCTなど)は導入が面倒なので、より簡単で安価に導入できる方法を」ということで、当初はQRコード決済普及も念頭にキャッシュレス推進協議が行われていたとみられる。

経済産業省ではQRコード決済普及促進を目指してコードや決済体系の共通化を目指した協議会を立ち上げる一方、LINEのように専用決済端末を小売店舗に配布したり、PayPayのように静的QRコード方式決済で一気に加盟店開拓を目指すなど、統一仕様策定を前にした各社のつばぜり合いも見られたりした。

このように導入の簡便さと、QRコード決済各社が提供している「(期間限定での)手数料0%」というキャンペーンもあり、キャッシュレス推進においてQRコード決済という仕組みがクローズアップされることになった。

ビックカメラではPOS(mPOS)での対応が間に合わなかったのか、印刷済みのQRコードを読み取って金額を入力、送金する仕組みとなっていた
ビックカメラではPOS(mPOS)での対応が間に合わなかったのか、印刷済みのQRコードを読み取って金額を入力、送金する仕組みとなっていた
LINEでは専用のQRコード決済端末を加盟店に提供
LINEでは専用のQRコード決済端末を加盟店に提供

だが諸外国でのキャッシュレス普及状況や日本での現状を見る限り、QRコード決済がメインストリームになる可能性は低いと筆者はみている。実際、筆者自身も普段の決済はほぼ交通系電子マネーとクレジットカードで済ませており、現金を支払うのはサイゼリヤなど頑なに現金決済を維持する一部小売店やレストランだけだ。

「東京近郊エリアで活動しているからだよ」といわれるかもしれない。事実その通りで、地方都市や大規模店舗の少ないエリアではいまだ現金が主流だったりする。この残された市場を開拓していくのが、政府のキャッシュレス普及策の支援を受けたカード決済やQRコード決済といった仕組みだ。

キャッシュレス比率98〜99%スウェーデンでさえ現金も普及

諸外国からのインバウンド需要を考えたとき、Alipayと提携するPayPayやWeChat Payと提携するLINEを除けば、他のQRコード決済は単独ではインバウンド客を取り込めない。AlipayとWeChat Payも中国からの旅行客中心であり、インバウンド対応という観点からはカード決済の方が重要になる。

実際、中国を除くキャッシュレス先進国と呼ばれる地域でのインバウンド対応はクレジットカードまたはデビットカードによる決済だ。また北欧では、スウェーデンの「Swish」、デンマークの「MobilePay」、ノルウェーの「Vipps」のように外国人では利用できないスマートフォンを使った決済・送金サービスも提供されており、カード決済ではカバーできない部分のキャッシュレス化を支援する。このほか、店舗独自の決済アプリやポイントサービスも提供されており、ありとあらゆる観点から現金が必要な場面での代替手段を提供されている。

もし、海外からの旅行者(主に中国人など)がこれら国を訪れてキャッシュレスによる支払い手段を持たない場合、最後の手段として「現金決済」が用意されている。「現金決済は全体の1-2%」といわれるスウェーデンでさえ、いまだ現金は普通に使われている。そのうえで、キャッシュレスを含むさまざまな決済手段を用意することが「キャッシュレス化」への重要な道筋だと考える。

スウェーデンの青空市ではiZettleと呼ばれるスマートフォン+簡易決済端末を使ったカード決済やSwishによるキャッシュレスでの支払い手段が利用できる
スウェーデンの青空市ではiZettleと呼ばれるスマートフォン+簡易決済端末を使ったカード決済やSwishによるキャッシュレスでの支払い手段が利用できる

QRやカードというのはあくまで手段であって、本筋ではない。また、利用者が利便性を感じられない決済手段は普及しない。結局、現金が便利である限りはキャッシュレスな代替手段を使う必要がないからだ。そうした事情を踏まえ、キャッシュレスが大きく前進するとみられる2019年を迎えたい。

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