恋愛はハードルが高い。でも家族が欲しい、子育てもしたい。女ふたりが見つけた同居のカタチ

同性の友人とは家族になれないのだろうか。
2年前から一軒家に暮らす(左から)小野リコさんとモスクワカヌさん
2年前から一軒家に暮らす(左から)小野リコさんとモスクワカヌさん
井口翔平さん提供

同性の友人とは家族になれないのだろうか。

これは私が抱いてきた疑問だった。

最近は「共生婚」や「友情婚」、「契約結婚」などと呼ばれる、恋愛を介さない結婚のかたちが増えてきている。ここ数年、友情結婚専門の結婚相談所も誕生し、「恋愛にハードルの高さを感じているが、家族はほしい」という人も、少しずつではあるが、自分にフィットしたかたちを見つけやすくなってきたといえるだろう。

しかしながら、それは異性同士の結婚の場合だ。2015 年から自治体での「同性パートナーシップ制度」が誕生したが、2018年12月現在で9自治体でしか実施されていないのが現状だ。日本では同性婚は認められていない。

おまけに、これらは恋愛関係にある同性同士のための制度だ。

やはり、同性の友人同士では家族として認められないのだろうか。

そんな疑問にひとつの答えを示してくれた、ふたりがいる。小野リコさんとモスクワカヌさん(ともに仮名)だ。ふたりは2年前から一軒家に暮らし始め、3年目になる。

恋愛関係にはない友人同士だが、ふたりの関係は「友人同士の一時的なルームシェア」とは一線を画した、家族のようなものに思えた。

ふたりはどうして一緒に住み始めたのか。サステナブルに同居できる秘訣は何なのか。これからどんな風に生きていくのか。ご自宅で話を聞いた。

「自分の気持ちにブレーキがかからなかった」で同居スタート

井口翔平さん提供

――おふたりが一緒に住むようになったきっかけは何だったんでしょうか?

小野:兄が仕事の関係でイギリスに1年間駐在することになって、その間に一軒家に住んでいいよと言われたことがきっかけでした。広い家でのひとり暮らしは持て余してしまうので、ワカヌさんを誘って一緒に住み始めた感じです。

でも、その前から一緒に住む話は出てたよね?

ワカヌ:そうだね。リコさんはよくうちにも泊まりにきてくれていて、一緒に住めたらいいよねとお互いに言っていた気がする。

小野:当時は私が大病を患ったこともあって、江の島の実家に住んでいたんですけど、都内で仕事をしていたら終電に間に合わないことが多くて、中華街に住んでいたワカヌさんの家に泊まらせてもらっていたんだよね。元々仲の良い友達で、お互いに劇作家になる前に知り合っていたのも大きいかも。

――でも、同年代の劇作家だからといって一緒に住みたいという気持ちにはならないですよね? どうやって信頼を築いていったのでしょうか?

小野:劇作家としてデビューする日が近かったんですよね。だから、お互いの作品を観に行ったり、演出助手として同じ現場で働いたりしたこともあったからかな。

ワカヌ:私が覚えているのは、リコさんに誘ってもらって文楽に行ったことがあったでしょ? 「チケットもらったから行きませんか?」って。私、開始5分から最後まで大爆睡してしまったんですよ。

私も空気が読めないところがあって、観劇後に喫茶店に入ったときに「すごく気持ちよく寝ちゃった~」って言っちゃったの。そうしたら、「寝るよね~」って言ってくれて、「あ、この人いい人だな」って(笑)。

Nonoka Sasaki

小野:私、そこで信頼されたんだ(笑)。

ワカヌ:そのうちに、演出助手として一緒の現場で作業するようになったんだよね。

小野:お互いに人見知りなので、少しずつ仲良くなっていった感じだよね。私がワカヌさんのことで印象的だったのは、どの現場でも好かれる人だなっていうことだったな。

ワカヌ:人数の多い現場だったから短時間でコーヒーをたくさん淹れなきゃいけなくて、「小さい穴からポトポト出ているのがいけないんだ!」って思って、コーヒーをろ過する部分を外しちゃったのね。そしたら、床がコーヒーの海になっちゃって......。

小野:そのときに、周りが「さすがワカヌさん。あいつまじで面白いな」ってなったんだよね。「コーヒーをこぼしたのに、みんなが湧いてるぞ。この人一体何なんだろう......」って思った(笑)。

――二人の個性がエピソードから伝わってきます。ご実家以外で、どなたかと同居された経験はありますか?

Nonoka Sasaki

小野:まだ劇作家になる前の会社員時代に、一番上の兄と4年間住んでいたことはありましたね。あのころは兄の職場と私の職場のちょうど中間地点が川崎だったので、そこで2DKのアパートを借りて住んでいました。

私は3人兄弟の末っ子で、上に兄が2人いるんですけど、一番上の兄は兄弟愛が特に強い人だったので。ずっと仲良く住んでいたんですけど、住み始めて4年目はあまり仲良くなかったですね(笑)。

部屋は分かれているんですけど、共同スペースの掃除を兄が一切してくれなかったことや、私が仕事を辞めてイライラしているタイミングが重なったからかもしれません。

ワカヌ:私は家族以外の人と同居したことはないんですよね。元々、誰かと住みたい欲がなくて、とにかくひとりになりたかったんですよ。実家を出て、アパートで一人暮らしをしてみたら、あまりに快適でこの暮らしを絶対に守りたいと思いました。

――ひとり暮らしが快適だと思っていたのに、リコさんと一緒に住むことにしたのはなぜですか?

ワカヌ:自分の気持ちにブレーキがかからなかったので、流れに身を任せてみようと思えたというか。もちろん誰でもよかったわけではなくて、知らない人は無理だし、リコさんに誘われたっていうのは大きいと思います。不思議と「住んでみようかな」と思えました。

小野:それで、1年間住んだ後に兄夫婦が帰ってきたので、家探しをして、今の家に引っ越して。うまくいかなかったら解散していたかもしれないけど、ふたりとも心のうちは一緒だった気がします。

同居がうまくいく秘訣はお互いのキャパシティがわかっていること

Nonoka Sasaki

――実際にふたりで住んでみて、快適だったところと難しく感じたことがあれば教えていただけますか?

小野:どちらもありますね。スムーズだったのは、部屋に入っちゃうとお互いすごく静かだというところ。いるのかいないのかわからないくらいです。

ただ、ケンカまではいかないものの、どうしてもちょっとしたぶつかり合いはありましたね。まぁ、ゴミの分別の仕方とかなんだけど(笑)。

ワカヌ:共同スペースに置くインテリアで、私は可愛いものを出しておきたいし、リコさんは使うものを出しておきたいっていう違いはあったかな

小野:あとは、炊いたお米や鍋物のおかずをシェアするのはいいけど、食べきってはいけないというルールができるきっかけになった"事件"も起きたよね。

――事件、ですか?

Nonoka Sasaki

ワカヌ:リコさんがつくったトンポーローがおいしすぎて、炊いてあった白米を私が全部食べてしまったんです。さすがに悪いなと思って、自分で買ってあった玄米を炊いておいたんですよ。そしたらリコさん、すごくショックを受けていたよね。

小野:だって、トンポーローに玄米は合わないもん(笑)。

でも、そうやって一緒に住みながらふたりで少しずつルールのようなものができていった感じかな。ご飯も一緒に食べるときもあるけど、そうでないときもあるし。

家事の役割分担みたいなことも、私は朝早く起きるのが苦手だから、ゴミ出しをお願いするようになって、何となく決まっていきました。

ワカヌ:私も洗濯物干しをお願いしようかなって感じになった。お互いに一人暮らし経験があるから一通りの家事はできるし、もしかしたら女性同士だからいいという部分もあるのかもしれません。どっちかがやって当たり前とは思わないというか。

小野:どちらか一人が家事をやっていると、申し訳なさが募って、「何かしなくちゃ!」っていう気持ちになるもんね。

――一緒に暮らし始めてから決めたルールみたいなものはあるんですか?

小野:気づいたことがあっても、ワカヌさんに伝えるのは1日1個までにすること。

私は思いついたことがあるとたくさん言っちゃうんだけど、ある日ワカヌさんから「1度に2個も3個も言われると傷つくからやめて」って言われて、もっともだなと(笑)。

ワカヌ:五月雨式に言われると、わけがわかんなくなっちゃうんですよ。

何かを言うときに「今から言うけど、心理状態は大丈夫?」って、必ずワンクッション置いてから言ってくれるのも助かってる。無理なときは「やわらかめにして」とか「後にして」とか「今ちょっと受け止められない」とか言えるので。

――逆に、ワカヌさんがリコさんに対して言うときは?

ワカヌ:私も言いたいことがあるとき、相手の調子を見て言おうと思っているんですけど、言う前にリコさんが察してくれることのほうが多くて。

小野:私が言いたいことをすぐに言っちゃう一方で、ワカヌさんはどちらかというと言いたいことを我慢してくれちゃうから、なるべく気にするようにしています。

――おふたりの生活が2年続いている理由やうまくいく秘訣は何だと思いますか?

小野:やっぱり「1日1個までにして」って言ってくれたのは大きいですよ。そうじゃないとこちらも言いすぎてしまうし、「言ってるのに変えてくれない!」と不満も溜まってしまうので。

ワカヌ:お互いのキャパがわかっているのはいいかもしれない。リコさんが「それはそれ、これはこれ」って切り分けてくれるところもうまくいっている理由だと思います。

結婚を意識せずに済んで、恋人をつくりやすくなった

Nonoka Sasaki

――一緒に暮らし始めて2年、仕事やプライベートに何か変化はありましたか?

小野:同じ職業だから、仕事の悩みを共有できるというのはありますね。プライベートに関しては、ますます結婚を考えなくなったかな(笑)。恋人をつくるのが楽になりました。

結婚を考えずに堂々と付き合っていいという気分になった、とも言い替えられるかな。もちろんそれまでも結婚願望自体は強くなかったですし、好きかどうかだけで付き合ってはいたのですが、どうしても"邪な結婚念"のようなものはありました。

数年前は大病を患って、経済的にも不安があったので、相手への期待が大きくなって、結婚したいわけではないのに「あわよくば楽に生活できるんじゃないか」みたいな気持ちがモワモワモワ~っと広がっていって(笑)。

ワカヌ:スケベ心だ(笑)。

小野:そう! もちろんこれからもお互いにどうなるかわからないけれど、ワカヌさんという"家族"ができたことで、結婚向きの人かどうかを考えなくてよくなった。

逆に、結婚にすごく前向きな人と付き合うのは難しいのかな。まぁ、ワカヌさんも誘って一緒に住めばいいんだけど。

――ワカヌさんは同居による変化はありましたか?

ワカヌ:私は実家には絶対に帰りたくなかったし、かといって結婚願望も一切なかったんです。一人で生きていくしかないと思って頑張っていたんですけど、はっきり言って生活能力もないので、ひとり暮らし向きじゃないんですよね。

リコさんとの生活を始めてから、こっちのほうが気が休まるなって思えました。だからこそこの生活を維持していけるように、貯金をしたり健康に気を使ったり、前よりは先を見て行動できるようになったかなと思います。

いつか同性パートナーとして子育てしたい

井口翔平さん提供

――お話を聞いていると、お二人はもう、"家族"だなと思ったのですが、この関係をどのように捉えているのでしょうか?

小野:実はワカヌさんとは同居しているだけで、「家族になろう」とかは考えたことがなかったんです。でも、大阪で男子カップルが里親になったというニュースを見てからは、ワカヌさんと同性パートナーとして里親になるのも良いかなと思い始めました。

それまでは独立して生きていかなきゃと思っていたし、子どもも産むつもりはないから子育てには関わらないんだろうなと思っていたのですが、同性カップルのニュースを見て、子育てをする可能性があるぞ、と。それで、ワカヌさんに提案してみたんですよね。

――同性パートナーシップ制度を申請して、子育てする。でも、おふたりは恋愛関係にないですよね?

小野:恋愛関係にはないです。同性パートナーシップ制度は、そもそも同性カップルのためにつくられたものですが、友達同士で家族になる制度として位置付けてみてもいいんじゃないかなって思ったんです。

それをワカヌさんに提案して言葉にしたとき、初めて家族になるのかもなと思いました。次の日になって、ふと「あれってプロポーズだったのかな?」と思って、妙に照れちゃったんですけど(笑)。

ワカヌ:私も何か照れました(笑)。でも、友達同士で家族をつくるのも全然いいですよね。

今の時代、「結婚」っていうと、ハードル高く感じる人が増えていると思うのですが、だからといってそういう人たちが全員ひとりで生きていかなきゃってなるとしんどすぎるじゃないですか。

小野:そうそう。今は結婚か、実家暮らしか、一人暮らしか、っていう選択肢しかない。しかも、結婚する相手を好きにならないといけない、みたいな呪縛もある。

――確かにそうですね。でも、そうは思っていても、「お友達と家族になって里親になる」という発想にたどり着ける人は少ないと思います。同性パートナーシップ制度のニュース以外にも、何かきっかけやご自身の経験はあったのでしょうか?

Nonoka Sasaki

小野:自分の経験で言えば、地域に親戚がたくさんいてみんなに育ててもらっていたので、両親以外のたくさんの大人の中で子どもを育てることが良いことだと思っていた、という背景はあるかもしれないですね。

両親が共働きだったので、家に帰って誰もいないときや、ケンカをしたときは、おばさんやおばあちゃんの家に行って話を聞いてもらっていました。

あとは、ポリアモリーを調べていたというのも大きいかもしれません。

――ポリアモリーですか?

小野:とてもザックリ言うと、同時に複数の人を愛する生き方のことですね。ポリアモリーについて知ったとき、「あ、恋愛はふたりでなくてもいいんだ」って思えたんです。

それから、「ポリファミリー」という考え方に出会えたのも大きかった。自分の子どもではなくても、恋人とその配偶者の子どもも一緒に面倒を見るとか、離婚しても子育てに関わるとか。

そういった事例を知るうちに、複数の大人で育てるのはいいことなんだって、自分の経験と合わせて改めて思えたというか。それまで抱いていた自分の中の既成概念が瓦解していった経験は大きいですね。

――ワカヌさんは、リコさんから提案を受けたとき、戸惑いはなかったのでしょうか?

Nonoka Sasaki

ワカヌ:なかったですね。リコさんと同居し始めたときもそうでしたが、自分の中のブレーキが作動しなかったので、きっと自分にとって自然なことなんだろうなと思えました。

私自身の経験で言えば、"家族"というと元々ネガティブなイメージだったんです。血縁があるだけで「家族なんだから」といって甘えて依存の言い訳にされて縛られちゃうみたいな。

でも、リコさんと一緒に暮らすようになって、生物学的な家族だけが家族じゃなくて、複数の人たちがお互いに譲り合って、相手を知りながら、彫刻のようにコツコツとつくっていくものだと思えたんですよね。だからこそ、リコさんの提案も自然なものとして前向きに考えられたのかも。

――お二人のように、自分の家族をつくりたいと思っている方に何かメッセージを届けるとしたらどんなことがありますか?

ワカヌ:家族って固定概念が特に強い分野だと思うんですけど、どういう家族のありかたを望んでいるのかを知るのが大事だなと思っています。

リコさんとの生活も「家族をつくろう!」というモチベーションでやっているわけではなくて、自分にとってナチュラルだと思われることに抗わずにきたら今のかたちになっていた、という実感が強いんですよね。

具体的に何が正解かは人それぞれですけれども、社会や世間がいう"家族"に囚われず、自分がナチュラルに腑に落ちるのはどういう家族なんだろう? っていうのを知って、世間から浮いていたり外れていたりしても否定しないことが大切なんじゃないかなと思います。

小野:私の場合は、自分が通ってきた経緯と、ポリアモリーについて調べて家族観や恋愛観が瓦解したので、特殊ルートというか。自分にとってはすごく良かったんですけど、みんなにとっていいかと言われたらちょっと難しいのかなって思います。

――最後に、おふたりにとって家族とはどんなものですか?

ワカヌ:私の場合は、意思を持ってつくっていくもの。生まれたからそこにあるものではないと思っています。

小野:私もつくっていけるものだと思っています。それから、自分にとって安心できる場所、ですかね。

........

自分の中にある既成概念が瓦解したーー。

インタビューの中で小野さんはそう話していた。私もまさに「友人同士は家族になれない」という既成概念で、自分で自分を縛っていたのかもしれない。

既存のかたちに違和感がなければ、もちろんそのままでいい。しかし、少しでも違和感があるならば、自分にとってナチュラルなかたちを探求し、居心地の良い場所をかたちづくっていくこともできる。

家族は、自分たちの手で"つくって"いける。

彼女たちの言葉に希望を見出せる人は、私だけではないはずだ。

(取材・文:佐々木ののか 編集:笹川かおり)

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