炎上したら、どう対応するのが正解? 週刊SPA!「ヤレる女子大学生ランキング」のケースから探ってみた

批判するだけでなく、週刊SPA!が良い特集を出したら、買い支えましょう
問題の特集が組まれていた週刊SPA!12月25日号
問題の特集が組まれていた週刊SPA!12月25日号
HMV&BOOKSより

週刊SPA!(扶桑社)の「ヤレる女子大学生ランキング」特集をめぐる大学生グループと編集部の話し合いについて、ウェブ版の日刊SPA!が自ら報じた。ジェンダー表現で炎上する事例は後を絶たないが、批判された側がここまで「本音」を明かすのは異例だ。

炎上対応の参考書「炎上しない企業情報発信」の著者でジャーナリストの治部れんげさんは、SPA!編集部の対応は過去の炎上事例と比べて「一歩前進」した内容だったと評価する。一方で、今後週刊SPA!が良い企画を出した時に、「雑誌を買う」というアクションをとることが大事だ、と警告を鳴らす。

■自らの炎上を、SPA!はどう報じたか?

日刊SPA!が掲載した記事は、「お詫び」から始まる。

続いて、経緯の説明。当初は「ガチ恋しやすい」または「お持ち帰りしやすい」女子大ランキングを作る予定だったものが、最終的に「ヤレる」と変化したという。「編集長である私が、世間の耳目を引きたいためにより扇情的なものを求めていた」(犬飼孝司編集長)と責任を認め、謝罪した。

女子大生グループの質問に対するSPA!側の回答も、驚くほど正直だ。

「何を批判されたと感じているか」と尋ねられると、「女性が好きで親しくなりたい、モテたい、という前提がありながら、結果的には『女性をモノのように見る』視線があったことは間違いないと思うし、その点を深く反省しています」(犬飼編集長)

週刊SPA!編集部話し合いを終えた山本和奈さん(右から2番目)ら4人
週刊SPA!編集部話し合いを終えた山本和奈さん(右から2番目)ら4人
HUFFPOST JAPAN/SHINO TANAKA

また、署名活動を行う国際基督教大4年の山本和奈さんが「批判されると予想できなかったのか」と質問すると、内部でも批判の声が上がっていたことを告白。その声を吸い上げる仕組みがなかった、と率直に認めた。

話し合いの内容を編集部員と共有すること、今後の編集方針について討議することなども約束した。記事の最後は「当該記事で傷ついた多くの方に改めてお詫びすると共に、週刊SPA!を再構築していく所存です」と結ばれ、出席者全員の写真も公開した。

■誰かを傷つけても、その表現を世に出す意義がある、と言えますか?

CMやコンテンツの中で描かれる女性像・男性像がSNSなどで拡散し、不特定多数の目にさらされ、批判されたりブランドイメージが傷ついたりするケースを、治部さんは「ジェンダー炎上」と呼ぶ。

2019年を迎えてわずか2週間余りだが、ジェンダー炎上は相次いでいる。年明け早々、女性が飛び交うパイを顔面で受け止める西武・そごうの広告「わたしは、私。」が物議を醸した。意中の相手に「こっそり飲ませる」ことを勧める下着販売ピーチ・ジョンのラブサプリ(販売中止)の広告も、「レイプドラッグを想起させる」として炎上した。

治部れんげさん
治部れんげさん
huffpost japan/kasane nakamura

耳目を集めるキャッチーな表現と、誰かを傷つける表現の境界線は、どこに引けばいいのだろう。

治部さんは、2つの質問を投げかける。

「あなたが考える『面白い表現』を外部の人に見せたら、傷つく人がいるかもしれない、という想定はありますか?」

「仮に傷つく人がいるとしても、その表現は世に出す意義がある、と言えますか?」

2つの質問に「イエス」と答えられるだろうか?

■週刊SPA!の炎上対応を採点すると?

出版社での記者経験もある治部さんとともに、これまでの経緯を振り返る。

問題となったのは、2018年12月25日号の週刊SPA!が、男性が女性に金銭を支払って行う「ギャラ飲み」について特集した記事。インターネットマッチングサービス運営者の見解として、「ヤレる女子大学生」と称して5大学の実名を掲載し、炎上した。

問題の特集が組まれていた週刊SPA!12月25日号
問題の特集が組まれていた週刊SPA!12月25日号
HuffPost Japan

「今の時代、これはアウト、と思いました」と、治部さんは第一印象を語る。

1月4日、山本さんらが署名サイトで「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」というキャンペーンを開始。7日には、編集部は「読者の皆様の気分を害する可能性のある特集になってしまった」という最初の謝罪コメントを発表した。山本さんらは「論点がズレている」として、編集部に直接対話を求めた。

治部さんも「謝っているのか何なのか分からない、残念な対応だった」と振り返る。

ここまでは、よくある炎上事例と同じだった。

だが、記事中で実名を掲載された5大学すべてが抗議し、海外でも報道されるに至ると、編集部は9日に新たな謝罪コメントをホームページで公開。犬飼編集長名義で「女性の尊厳に対する配慮を欠いた稚拙な記事を掲載し、多くの女性を傷つけてしまったことを深くお詫びいたします」とつづった。14日には大学生らとの話し合いに応じ、内容を日刊SPA!で報道した。

治部さんは「女性をモノとしてみていた」と認めて反省した犬飼編集長の対応について、「性差別表現で叩かれた企業が、ここまで踏み込んで謝罪した例は初めてではないか」と驚く。編集部内でも特集記事に対して批判があったと明かした点についても高く評価。「これまでの炎上対応と比べ、一歩前進した。良い前例になったと思います」と語る。

「炎上しない企業情報発信」治部れんげさん著(日本経済新聞出版社)
「炎上しない企業情報発信」治部れんげさん著(日本経済新聞出版社)
HuffPost Japan

ちなみに、治部さんが考える炎上対応の正答例は、

①「逃げない」「抗議に正面から向き合う」「議論する」

②3つのステップを踏んだうえで、謝罪文やメッセージを作る。

③そして、何が問題だったのかを振り返り、今後に生かすーー。

14日の週刊SPA!の対応は、「よくできていたと言える」と治部さんは評価する。

■批判するだけでなく、良いものには褒めてお金を払おう

ただ、これで「めでたし、めでたし・・・」とはいかない。

治部さんは次のように警告する。

「雑誌はあくまでビジネス。今回の炎上対応も、『私たちは変わります』というメッセージを打ち出すことがビジネスとして有益だ、と考えた可能性もあります。『ヤレる』という表現と大学名を名指ししたことで炎上しましたが、週刊SPA!は特別酷い雑誌というわけではない。よくあるエロ表現で、こういうのを好む男性読者が一定数いるのも事実です。」

山本和奈さん
山本和奈さん
HuffPost Japan

「SNSで批判した人は、次号で週刊SPA!が良い企画を出したら雑誌を買うでしょうか?いくら良い対応をしても、やっぱり扇情的な表現を使わなければ売れないじゃないか、となれば、雑誌がどちらを向いて記事を書くでしょうか?けしからん、と思ったら批判するだけでなく、良いモノは買い支えてあげてください」

「経済的なプレッシャーは、良い変化を加速させることができる」と強調する治部さんは、最後にこう提案した。

「たとえば、今回の署名活動に参加した5万人が生まれ変わった週刊SPA!を買えば、それだけで大きなインパクトになる。悪いものを批判することに加え、良いものは積極的に買い支える。消費者の力を『声』と『経済』の両面から発信することが効果的です」

注目記事