気前の良いフリ、もうやめない? おごる文化が根づく韓国で思うこと

財布を出す先輩に言った。「強がらないで、割り勘にしましょう」。
business hand holding empty wallet with silver coins, financial concept
ArchOneZ via Getty Images
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ハフポスト韓国版エディターのパク・セフェさんが、おごり文化について思いを綴ったブログです。韓国では先輩が後輩をおごるのは当たり前という空気があり、食後のコーヒーまでごちそうする人も。ケチに見られたくない"先輩"たちの苦悩は、日本でも「あるある」かもしれません。翻訳してご紹介します。

先輩、どうか強がらないで

お決まりな話だが、まるで誰かが仕上げた落とし穴のように「避けられない事情」が日常を襲うことがある。

これは、ファッション雑誌でカルチャー部門を担当していたときの話。

給料が慎ましく通帳を通り過ぎたある日、私は勇敢にもクレジットカードを解約した。 デビットカードだけで1カ月持ち堪えてみて、クレジットカードの罠を断ち切って、給料が増える富の好循環をつくり、富貴栄華を享受すると固く誓った。

ある日の昼食、なぜオフィスに私しかいなかったのかよく思い出せない。12時ごろになると、ファッションチームの後輩たちが撮影に使った衣装を持って、1人2人、オフィスに集まってきた。

「先輩、昼食召し上がりませんか?」。隣チームの後輩4〜5人とともに昼食をとりに行った。転職したばかりの私はオフィス周辺の物価をよく知らなかった。

韓国のほとんどのファッション雑誌は、ソウル江南(カンナム)エリアの新沙(シンサ)・清潭(チョンダム)・狎鴎亭(アックジョン)周辺に集まっている(※)。

(※)いずれも芸能事務所や高級ブランド店が立ち並ぶ、物価が高くて有名なエリアだ。

特に私がいた会社は、食費が高いことで悪名高い島山(トサン)公園の近くだった。何の考えもなく、ヒップスターのイメージが漂うお店で、パスタ数皿と肉炒めラーメン、サラダ2つを注文したが、会計が15万ウォン(約1万5千円)だった。

肉がちょっと乗ったラーメンが1万6千ウォン(約1600円)と書かれたメニューを見て、席を蹴って立ちあがらなくてはいけなかったが、そうはできなかった。どうもけち臭く見えないかと心配だったからだ。

どうしても後輩たちに割り勘にしようと言い出せず、コーヒーまでおごった後、カード会社に電話をかけた。

「カードを再発行するには、銀行に行かなければなりませんか?」。

すべてみみっちく見えないために起きたアクシデントだ。「食事代や飲み代請求書が恐ろしい人」を探すため、知り合いに電話をかけると、あちこちで糾弾が続いた。

ある先輩はメニューで最も怖い単語は「時価」だと言った。「今日はいいクロソイ(高級魚)が入ったから、人数に合わせて出しましょうか?」とシェフが話すと、緊張するという。

「市価って一体いくらですか。自然産でもないクロソイに時価とはどういう意味ですか」と問い詰めるのは正しいが、後輩たちの前でなんとなくケチっぽく見えるのではと思い、尋ねることすらできない。

「ワインを注文するとき、ソムリエがたまに憎い」という人もいる。「ふと思い切ってレストランへ行くと、ソムリエがいつも中上級ワインを勧めてくる。勧められたワインより安いのは頼めない」というのがその先輩の告白だ。

「食事もご馳走して、食後にスターバックスに行くと必ず6000ウォンをはるかに超える"フラッペチーノ"を"グランデ"サイズで注文する後輩がいる。憎らしくもある」とのエピソードも耳にした。

大したことないように財布を取り出す大先輩たちも、心境を打ち明ければそれなりの気苦労がある。勤め人、悲しきかな。先輩が全てをおごってくれた時代に後輩として育った昔の人たちの、ほとんどがこうやって生きている。

みんなのために、今はちょっとケチになる勇気が必要だ。時代が変わった。

焼酎より高い酒はビールだけだった時代、昼食は韓国料理か中華だった時代、トンカツが"洋食"で、会食がサムギョプサルだった時代はかなり前に過ぎ去った。

同時代の人々の好みはすでに、様々なクラフトビールを料理によって組み合わせるほど多様になり、外食の価格も大衆の好みに合わせて猛スピードであがっている。

一方、多くの企業の給料は亀の歩みのような上がり具合なのだから、もうケチに見えるのが嫌だとの気持ちは贅沢だ。

先輩の悪い癖を直すには、後輩のチクっとした一言が最高だ。

最近、先輩に「強がらないで」と大口をたたいたら、酒の席がもっと和気あいあいとしたことがあった。

先日、個人事業をはじめた先輩と3、4人で集まって、かなり出来上がった状態で1次会を終えた。大まかに頭の中で計算してみたら、私なら「3か月分割払いで」と言うほどの金額だった。

レジの前で財布を取り出す先輩の手を握って言った。「強がらないで、割り勘にしましょう」。

「そうする?この頃は、みんなそうだって言うんだよ」。先輩と知り合った歳月の間で、こんなに明るい笑顔を見たことがない。

テーブルの上に空いたボトルと料理が増えるたびに、頭の中で電卓を叩いていた先輩のことを考えると、心が痛くなった。

この場を借りて、世の中のすべての社会人にこう伝えたい。

「先輩もう強がらないで、お互い通帳の残高は、火を見るようにはっきりと分かっているじゃない」。

誰もがいつかは先輩になるから、あらかじめ言っておこう。

ハンギョレ新聞に掲載されたコラムです。

ハフポスト韓国版から翻訳・編集しました。