コンビニの成人向け雑誌の撤去は「日本社会の変化を象徴」「ビジネス判断も」海外・英字メディアの反応は?

「コンビニから成人誌が消えれば、アダルト雑誌市場は過激化する」との見方もあります
幼児むけ書籍のすぐ近くに成人向け雑誌のコーナーが設置されている
幼児むけ書籍のすぐ近くに成人向け雑誌のコーナーが設置されている
kasane nalamura/huffpost japan

大手コンビニチェーンが、成人向け雑誌の販売を2019年8月で原則中止するという発表は、国内だけでなく海外メディアでも報じられている。

各コンビニは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどにおける「海外の目」を販売中止の理由に挙げているが、公的空間からのエロの排除は五輪の新たなレガシーとなるのだろうか。

海外の報道や、日本の英字メディアの見解を以下に紹介する。

海外メディアはどう報じたか

FOXニュースは、2019年9月に開幕するラグビーワールドカップと2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえ、「今後2年間の大きなスポーツイベントで、世界中の関心が日本に集中する。コンビニの棚で成人向け雑誌を見ることはもうできなくなりますよ」と皮肉を込めた。

CNNは、成人誌の撤去は「2つのスポーツ大会で大勢の外国人観光客が訪れる前に行われる」とし、「『マンガ』を含むポルノの販売は、明示的なイラスト入り漫画本であり、日本では広く行われている。ほとんどのポルノは、未成年客の購入禁止を警告するプラスチック製のガード下に展示されているが、多くの場合、子供が簡単に近寄れる場所に陳列されています」と注釈を付けた。

「日本のコンビニの大半からポルノ雑誌が撲滅される」と報じるFOXの記事
「日本のコンビニの大半からポルノ雑誌が撲滅される」と報じるFOXの記事
HuffPost Japan

ガーディアンは、「セブンイレブンの成人誌の売り上げは全体の1%未満」とする共同通信の報道を引用し、販売中止は「ビジネス上の判断もあったのでは」との見方を示している。

一方、ロイターは日本人の男性客に取材し、「ニュースで日本がポルノ雑誌を公共の店で販売することを許可している唯一の先進国であることを知った。オリンピック前に国際基準に合わせるのは、当然だと思う」というコメントを紹介。さらに、「店が成人誌の販売を中止すると、欲求不満な男性が犯罪を犯すきっかけになるかもしれない」と心配する妻の声も伝えている。

海外向けメディア「日本の社会環境の変化を象徴するニュース」

日本の英字メディアは、どのような点に注目したのか。

ジャパンタイムズの永田一章記者は、「日本の社会環境の変化を象徴するニュースだ」と意義を語る。

「どこにでもあり何でも揃う日本のコンビニは、便利だ、と外国人の間でも話題になるほど身近な存在です。そのコンビニに成人誌が売られているのは、日本人にとっては『日常的な光景』だったかもしれませんが、外国人の中には驚かれる方もいたかと思います」

「そのコンビニから成人誌が完全に撤去される、というのは、昨今の日本の社会環境の変化を象徴するニュースです」

日本の女性差別に関するニュースは、海外メディアに注目されやすい印象がある。最近では、週刊SPA!の炎上、財務省幹部のセクハラ、大学医学部の入試差別問題も海外メディアで報道された。なぜ注目されるのか。そう尋ねると、永田記者はこう答えた。

「海外では日本は男性社会という、ステレオタイプのイメージが根強く残っています。実際には日本でも女性の社会進出は進んできたけれど、政治家や管理職にはまだ女性が少ない、といった従来のイメージを助長する事実もある。また、ジェンダーは国際的に注目されるニューストピックになってきた。そういう中で、こういうニュースは目立つのかもしれない」

「ただ、今回のケースも大学医学部のニュースも、女性差別だから報道したわけではなく、ニュース性が高いという判断だと思います」

コンビニから成人誌が消えれば、エロ本市場は過激化する?

ところで、出版業界はどう見ているのか。

一般社団法人「日本書籍出版協会」の担当者は「民間企業の経営方針に口出しはできないが、決定は個人的には残念」と明かし、「ガイドラインで定める『成人向け雑誌』の基準があいまいなので、これまで成人向けとされてきた雑誌以外にも波及するのではないか。そうなれば、コンビニ向けのソフトな性的表現の雑誌は、より過激な雑誌へと路線変更する可能性もある」と指摘する。

コンビニの成人向け雑誌コーナー
コンビニの成人向け雑誌コーナー
時事通信社

今回、コンビニ各社が販売中止の対象とする「成人向け雑誌」は、業界団体「日本フランチャイズチェーン協会」がガイドラインで定めもので、立ち読みできないようにシールでとじられている。一方で、都道府県の青少年育成条例で指定する「有害図書」や、性的表現がより過激な「成年向け(18禁)」のものは、コンビニでは売られていない。

そもそも、東京都青少年育成条例は、前回の東京オリンピック開催年の1964年に制定されたもので、「業界内では、今回の五輪も同じような動きがあるのではないかと警戒はしていた」と明かす。

「成人誌の業界にとって、コンビニは大きな販路。コンビニ向けによりソフトな表現の雑誌を作り、それぞれ販路維持のための努力してきました。写真やイラストのない文字だけの表紙を作り、外国人や子どもには内容が分からないようにするなどの工夫をした雑誌もあります」

「それが販売中止となれば、コンビニ向けのソフトな雑誌は、書店に並ぶ事になる。書店では、コンビニでは販売できないような、より過激な18禁の雑誌と競合することになる。そうなれば、コンビニで売られていたような雑誌も過激路線にシフトしていくことになるでしょう。ソフトなアダルト雑誌の市場がなくなってしまう可能性もあります」

日本雑誌協会も「『成人向け雑誌』のガイドラインの基準があいまいで、選別方法が不明瞭であることに危惧を覚える。一部雑誌の取り扱い中止に関しては慎重な判断を求めたい」とコメントしている。

経緯をおさらい

コンビニ業界3位のローソンは1月21日、ホームページで「原則全店にて2019年8月末までに『成人向け雑誌』の取扱いを中止することを決定いたしました」とするコメントを発表した。業界最大手のセブンイレブンも同日、報道各社の取材に対して8月末で取り扱いを中止することを認めていた。翌22日には、業界2位ファミリーマートも2社に続いて販売中止を決めた。

業界4位のミニストップは、18年1月に他社に先駆けてすでに販売を中止していた。

自治体レベルでは、大阪府堺市や千葉市が独自に表紙の一部を隠して販売するなどの取り組みを行っていた。

ファミリーマートの広報担当者は「以前から店内の成人向け雑誌についてご意見をいただくことがあり、快適な店づくりと、インバウンドを見据えた中で今回の決定に至った」と説明した。

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