体育が大っ嫌い。運動神経「中の下」の私の中で、スポーツのイメージが変わった夜。

「世界ゆるスポーツ協会」を主催する澤田智洋さんは「スポーツの多くには、勝ち方のダイバーシティが不足している」と指摘する。

私は、スポーツが好きではありません。

その理由の多くは、学生時代の体育の授業の記憶に関連しています。

下着と大差ないような形状の、ブルマが恥ずかしかったこと。

寒い日でも、そのブルマと半袖の運動服を着て外で運動をしなくてはいけない違和感。

暑い中校庭を走り回っても、水を飲んではいけないと言われた苦しさ。

毎朝定規を手に、通学時間の校門の前に立ち、女子生徒の膝からスカートまでの長さを測る、高圧的な体育教師が好きになれなかったこと。

そして何より、運動神経が"中の下"レベルで、どんな競技もこれといって得意ではなく、楽しいと思えなかったこと。

だから、体育はなにかしら理由をつけて見学するか、具合が悪いふりをして保健室に逃げ込む不真面目な生徒でした。

そして大人になっても、平日は仕事で忙しく、休日はその疲れをとるためにダラダラして過ごす日々を積み重ね、いまやこれといった運動をしない人間です。

車いすユーザーの日常から生まれた"イモムシラグビー"

そんな私にとって、12月10日(木)、ハフポストのネット番組「ハフトーク」のなかで澤田智洋さんが語った"ゆるスポーツ"の世界はあまりに衝撃的でした。

大手広告代理店のコピーライターであり、世界ゆるスポーツ協会代表を務めている澤田さんは、ゆるスポーツを、「性別とか年齢、運動神経のよし・あし、障害のある・ないにかかわらずみんなが楽しめるスポーツ」と定義しています。

たとえば、"イモムシラグビー"。

イモムシラグビーを楽しむ人たち
澤田智洋さん提供
イモムシラグビーを楽しむ人たち

参加者全員が"イモムシウェア"を身にまとい、ほふく前進か転がるかしながら、ラグビーをします。

この競技が生まれたのは、2015年秋のこと。

車いすを使って生活している知人がたくさんいるという澤田さんは、彼らが玄関に車いすをおいて、家のなかでは這って生活しているのを見てこの競技を思いついたと言います。

「彼らにとって這う動作は毎日しているものなので、とても機敏。這うという動作が活きるスポーツを考えたら、車いすユーザーが健常者より強いスポーツがつくれるのではないかと思いました。ラグビーの楽しさのひとつは、ランダムな動きをするボール。その楽しさはそのままに、イモムシになるという不自由さも加わってみんなが下手くそになります。だから、運動が苦手な人でも気軽にできる」

写真を見るとわかるように、イモムシラグビーをしている人たちの表情には、障害者と健常者の垣根が全く感じられません。

「障害者理解というと、『心のバリアフリー』などといった標語で語られることが多いですが、そんなことを言われても心は1ミリも動きませんよね。でも、イモムシラグビーを一緒にして、車いすユーザーになぎ倒されて、トライを決められたら見方が変わるんです。あれ? 障害者だと思っていたけれど、イモムシラグビーでは強い。強いところもあれば、弱いところもある。自分たちと一緒じゃないかという感想をもつ」と澤田さんは言います。

ごろごろと転がりながらトライを決めるのなら、運動神経レベル中の下の私でもなんとかなるかも?イモムシウェアもかわいらしいし。

私の中で、イモムシラグビーへの興味が膨らみました。

ブルマは嫌でも、ゾンビマスクならいけるかも?

澤田さんが次に紹介したのは「ゾンビサッカー」。

ゾンビサッカーの様子。ゾンビチームは、目が見えないようになっているマスクをつける
澤田智洋さん提供
ゾンビサッカーの様子。ゾンビチームは、目が見えないようになっているマスクをつける

時は20XX年。あるマッドサイエンティストにより、世界は恐怖に包まれていた。彼が開発したフットサル施設特化型ウイルスにより、世界中のフットサルコートでフットサルをしていたプレイヤーがゾンビとなってしまったからだ。彼らは生前のフットサル愛を忘れられず、マッドサイエンティストにより与えられた特別なボールを追いかけつづけた......

そんな設定のもとでプレーするサッカーです。これは、視覚障害を持つ人たちがプレーする「ブラインドサッカー」をゆるくしたものだといいます。

「生身の人間チーム」と、目が見えないように加工されたゾンビマスクをかぶった「ゾンビチーム」にわかれてプレー。目の見えないゾンビチームは、「うううう」「ああああ」とゾンビのようなうめき声をあげながら、衝突をふせぐため両手を前に上げて移動するのがルールです。ゾンビに触れられた人間チームのメンバーは退場しなければならず、人間チーム全員が退場するか、人間チームがパス回している「人間の悲鳴が聞こえるボール」をゾンビが奪ったら、ゾンビチームの勝利となります。

ブルマは嫌いだったけれど、みんなで一緒にゾンビマスクをつけるのなら恥ずかしさより「笑い」が生まれるので無心になって挑戦できるかもしれない、とも感じました。おそるべしゾンビパワーです。

ゆるスポーツ、きっかけは「運動」へのコンプレックス。

番組出演中の澤田さん
JUN TSUBOIKE/HUFFPOST JAPAN
番組出演中の澤田さん

世界で一つしかない、ユニークなスポーツを作り出している澤田さんですが、もともと自分自身がスポーツにコンプレックスを持っていたことが、「世界ゆるスポーツ協会」設立のきっかけでした。

澤田さん曰く、幼少期から「貧弱な、なで肩で色白で、運動は苦手」。長らく、スポーツに対するコンプレックスを抱えたまま、ごまかしごまかし生きてきたと言います。

しかし、長らくそのコンプレックスがのどにささった魚の小骨のように感じられ、この気持ちを成仏させないと自分の人生も報われないと思ったのだそうです。

スポーツ庁が調べたスポーツ実施率のデータによると週に1回以上運動をしている成人は51.5%です。つまり約2人に1人は週に1度も運動をしていない。僕はそちら側にいる。そちら側の人が気軽にできるスポーツがないのであれば、新しいスポーツを発明しようと思い、そのための活動をしています。スポーツは健康になれるし、日常では得られない新たな人間関係を作ることができるし、勝ったりシュート決めたら自分に自信が持てる。だから全員がアスリートの喜びを体験できるべきなんです」

日本から世界に。新たなスポーツビジネスを

そうはいってもね、、、というのが本音だという人もいるのではないでしょうか。勇気をだして挑戦したのに嫌な思いをするのは避けたいですよね、私もそうです。

そうした"ため息"に澤田さんはどう答えるのでしょうか?

「スポーツの多様性がポイント」と澤田さんは言います。ゆるスポーツ協会では、現在までに70競技も新しいスポーツを作り上げてきました

「現在私たちのまわりにある近代スポーツの多くは、より早い、強い、高い人が勝つしかない。勝ち方のダイバーシティが不足しているんです」と澤田さんは指摘します。

ゆるスポーツのひとつ、"ベビーバスケット"はボールにセンサーがついていて、激しく扱うとボールが大声で泣き出してしまう仕組みになっています。つまり、"ベビーバスケット"において勝負を左右するのは、いかに赤ちゃんを泣かさないかという"母性の強さ"。足の速さも屈強な筋肉も、持久力もこの種目の前では無力なのです。

そんな澤田さんの言葉に、一緒に番組を見ていた知人は「上手にふわふわオムレツがつくれる」という特技が生きるスポーツは作れないかと言い出しました。それなら私は......。

スポーツをする、観る以外にも、「作る」という新たな楽しみ方があるなんて思ってもみませんでした。

ゆるスポーツイベント中の澤田さん
澤田智洋さん提供
ゆるスポーツイベント中の澤田さん

「東京オリンピック」が開催される2020年に向けてこれからスポーツ業界は大きな盛り上がりを見せるでしょう。スポーツ産業は基本的に海外、イギリス、フランス、アメリカ中心に作られたものが明治維新以降の日本に入ってきたものが大半だと言います。だからこそ、日本から世界に向かって、新しいスポーツを発信していきたいという澤田さん。柔道や空手、相撲など「道」を究めることを目指す従来のものとは一線を画す、いまの日本ならではのスポーツが世界を席巻する日もそう遠くないのかもしれません

私もこれを機に、ゆるスポーツに挑戦してみようかな...と思いつつ、まだ「やりたい」と即答できないのが本音です。ただ、これまで私の中にあったスポーツという概念がひっくり返されたのは事実。スポーツが多様性のあって本当に自由なものであれば、「運動神経は"中の下"だから」という思い込みに縛られてきた自分を解放してみてもいいのではないか。そう思えたことは、間違いなく大きな一歩です。