MeToo後の1年。ソ・ジヒョン検事の暴露後に韓国社会で起こった5つの変化

社会全般に深く根づく文化が変わるにはとても短い時間だが、幸い変化が全くなかったわけではない。
ソ・ジヒョン検事。2018年8月7日、韓国・ソウル。(Photo by Jung Yeon-je / AFP)
ソ・ジヒョン検事。2018年8月7日、韓国・ソウル。(Photo by Jung Yeon-je / AFP)
JUNG YEON-JE via Getty Images

2019年1月29日は、韓国でソ・ジヒョン検事が安泰根元検事長のセクハラと人事不利益を暴露してちょうど1年になる日だ。

ソ検事は2018年12月7日、ハンギョレのインタビューで「(考えたくない)最も大きな恐ろしさは真実が最後まで明らかにされないかもしれないことであり、(考えたくない)最も大きな絶望は何も変わらないことだ」と述べた。

MeTooから1年、韓国社会はどれほど変わっただろうか。社会全般に深く根づく文化を変えるには非常に短い時間だが、幸い変化が1つもなかったわけではない。

1. 加害者が法廷拘束された

韓国初のMeToo運動の発端となった安泰根元検事長(53)は1月23日、懲役2年を言い渡され法廷拘束された。MeToo1周年を1週間後に控えた出来事だった。

裁判部はセクシャルハラスメント、人事不利益の容疑すべてを罪と認め、安元検事長に対し「国民の信頼と検察構成員の期待を裏切った」と判決を下した。

朝鮮日報によると、安元検事長は実刑が言い渡されると予想していなかったのか、判決直後「あまりにも心外」と語ったとともに、ため息をついたと報じられた

2. 社会の各界各層で権力者の性暴力が暴露された

出廷する安熙正氏(中央)。2018年8月14日、韓国ソウル。(Photo by Jung Yeon-je / AFP/Getty Images)
出廷する安熙正氏(中央)。2018年8月14日、韓国ソウル。(Photo by Jung Yeon-je / AFP/Getty Images)
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安熙正・忠清南道(チュンチョンナムド)元知事、詩人の高銀、劇作家の李潤澤、俳優のチョ・ジェヒョン、チョ・ミンギ...。

政治、芸術、スポーツ界など社会のあちこちで勇気ある告白が出てきた。それだけでなく、教師による性暴力を告発する「スクールMeToo」も本格的に始まった。

KBSによると、この1年間に性暴力の告発があった学校は計69校。声をあげた生徒らは2月、国連児童権利委員会に出席し、1年間の成果や限界、学内性暴力の実態などについて証言する計画だ。

3. 裁判所の判決で変化の風が少しずつ吹いている

2018年4月、ついに最高裁の判決で「gender sensitivity(性認知感受性)」(*1)という単語が初めて登場した。

(*1)性別間の差による日常生活の中での差別と有利・不利さまたは不均衡を認知すること(時事常識辞典:韓国語)。日本では「ジェンダーに敏感な視点」と表現されている

MeToo暴露が立て続いたこの頃、日本の最高裁にあたる大法院の第2部(裁判長:権純一最高裁判事)は、学生へのセクハラ行為で解任された大学教授の解任が違法だとした2審に対し「『性認知感受性』に欠け、被害者の『2次被害』を考慮しない判決」と指摘した

2次被害への不安感など、性暴力被害者の状況を総合的に考慮して判断しなければならないという意味だが、司法初の「性認知感受性認定」判決だ。この判決から8カ月にわたり、26件の判決で「性認知感受性」が言及されたと分析されている。

韓国女性弁護士会のチョ・ヒョンウク会長はSBSのインタビューで「(既存では裁判所が)加害者中心の立場で(被害者の)供述の一貫性と証明力を認めにくいと見ていたが、そう考えてはいけないということ」と説明した。

韓国性暴力相談所のキム・シンア氏は京郷新聞のインタビューで「相談所が開所して以来、継続的に司法で性認知性を持って、被害者の観点で判決を下さなければならないと主張したが、27年後の2018年になってやっと性認知感受性を認めた初の判決が出た」「司法はこれまで一般市民が持っている常識のラインに満たない判決を下してきたと見ることができる」と評した。

4. 性犯罪の通報が過去最高に増えた

ソウル新聞が最高検察庁の統計を引用したところによると、2018年の性犯罪通報人数(被害者基準)は4万1089人で、統計を取り始めてから最も多かった。強姦、強制わいせつ、性暴力処罰特例法違反などを加えた値だ。

2012年と比べると、性犯罪の通報が6年ぶりに77.7%急増したことになる。

18年3月に発足した「汎政府セクハラ・性暴力通報センター」にも10カ月間、相談・届出が計2284件寄せられたが、女性家族部(*2)の関係者は「刑事告訴が難しくても、職場内のセクハラ問題を告発したいという内容が多い」と伝えた。

(*2)女性家族部は、韓国の国家行政機関。「女性家族部職制」によると「女性政策の企画・総合、女性の権益促進など地位向上、家族と多文化家庭政策の樹立・調整・支援、健康家庭事業のための児童業務および青少年の育成・福祉・保護に関する事務を管掌する」。

5. MeToo法案9件が通過した

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韓国日報によると、国会本会議のハードルを乗り越えたMeToo関連対策法案はこの1年間で9つだ。似たような内容の法案が重複発議されたため、実効性のある法案数は減らざるを得ないとしても、かなり少ない実績である。

デートDVなど被害者に対する政府支援の根拠を盛り込んだ「女性暴力防止基本法制定案」が国会本会議で成立したものの、"性平等"が"両性平等"に修正されるなど原案から後退したという評価も相次いでいる。

暴行や脅迫がなくても相手の意思に反し持たれた性関係を処罰する「非同意姦淫罪」(*3)、性暴力告発者を攻撃する手段となった「名誉毀損罪における事実の摘示」(*4)廃止法案もまだ継続審査中だ。

(*3)被害者が拒否の意思を明かしたにも関わらず、性関係が持たれた場合、これを性暴力と判断するのが原則だ。暴行、脅迫など物理力があれば成立する現行の強姦罪(刑法297条)が、性暴行被害者を十分に保護するに不足だとの指摘がなされながら、争点化している(時事常識辞典:韓国語)。

(*4)現行法上、虚偽でない事実を述べても名誉毀損罪の処罰を受け得る。裁判部は該当の犯罪に対して懲役最高2年または500万ウォンの罰金刑の宣告が可能だ。しかし「ひとえに公共の利益に関する表現」ならば、処罰を避けられる。そのため、法廷の公共利益に対する判断によって処罰の可否が割れる(韓経経済用語事典:韓国語)。

国会の補佐陣らは、MeToo法案処理が不振な理由について、KBSのインタビューで「(議員が)MeTooというイシューを広報用として使うのが多かった」とし、法制司法委員会の構成(50代以上の男性が72%にのぼる)の影響も大きいと伝えた。

国会補佐陣A氏は、「法案が主に性認知感性の低い構成員らによって評価されたため、ただ後回しにして死蔵させる」「"女性問題"ではなく"社会問題"なのに、ただ女性家族委員会、女性議員、女性家族部の仕事だと思ってずっと先延ばしにしている」と批判した。

ハフポスト韓国版から翻訳・編集・加筆しました。

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