中国地方の山間部にある人口5000人ほどの小さな町が、子育て世代の注目を集めている。島根県の飯南町だ。
出版大手の宝島社が1月4日に発行した『田舎暮らしの本』2019年2月号に掲載された「2019年版住みたい田舎ベストランキング」。人口10万人未満の「小さなまち」カテゴリーの「子育て部門」で1位に選ばれた。
飯南町が「田舎での子育て」の拠点として人気の背景には何があるのか、調べてみた。
■「若い移住者の割合が高い」と、専門誌の編集長
このランキングは、2013年2月号より企画が始まり、今年で7回目だ。ランキングの順位は、移住・定住の推進に積極的な市町村を対象に、移住支援策、医療、子育て、自然環境、就労支援、移住者数など、約220項目のアンケートを実施し、データを集計した上で決定している。
その「小さなまち」(人口10万人未満が対象)のカテゴリーの「子育て部門」で、島根県飯南町が1位を獲得した。
島根県飯南町は、県中部にある人口4891人(2019年1月1日時点)の小さな町だが、町によると、昨年度は人口の1%以上となる54人が町の移住施策を通じて移住しており、その中でも子育て世代である20代~40代の家族は7世帯24人。約45%が子育て世代という計算だ。
島根県飯南町が1位になった理由について、宝島社「田舎暮らしの本」編集長の柳順一さんはこう話す。
「島根県飯南町は、小さいまち(567自治体が回答)のカテゴリーの「総合部門」でも2位になっています。 これはつまり、基本的な定住支援策を高水準で充実させているということが言えます。そのうえで、とくに子育て世代にフォーカスした施策を充実させており、今回の1位につながったと思います」(※「子育て世代が住みたい田舎」部門のランキングを算出する計算にあたっては、「総合部門アンケート」の点数*0.1を算入している)
「人口が5000人に満たないのに、移住支援の専任スタッフが4人もいることからわかるように、人的な支援体制が充実しており、 地元の人が移住者の受け入れに協力的です。 子育てに関しては、町営塾を運営するなど教育環境がよく、安心して子育てできますし、また、人口の割に移住者数が多く、とくに若い移住者の割合が高いのです」
■町職員が話す「田舎ならではの魅力」とは?
今回の結果を、町はどう受け止めているのか?具体的にどんな取り組みが行われているのか?島根県飯南町の職員・大江基博さんに聞いた。
「長年地道に取り組んできた施策の成果が評価されたのだと受け止めています。都会では大きな悩みである待機児童の数もゼロですし、保育園から高校まで一貫して行う『保小中高一貫教育』に力を入れています。町営で運営する塾では、大手予備校のサテライト授業を受けられるシステムを導入するなど、教育面での充実を図った上で、飯南町の豊かな自然を活かしてのびのびと子育てが出来る環境を提供したいと考えています」
大江さんはさらに、都会にはない「田舎」での子育ての魅力について、こう語る。
「都会に暮らしていると、隣に住んでいる人がどんな人か実際にわからないという中で子どもを育てなければいけないことも少なくないと思うのですが、その点、飯南町のように小さな町では、町のみんなが自分のことを知っている。それはすなわち、周りの人と一緒に子どもを育てているという感じがあって、それが安心・安全に繋がっている。これは田舎町ならではの魅力だと思います」
■営業マンから農家に転身した中野良介さん、「ここでは、生きている実感がある」
では、実際に移住してきた家族は飯南町での子育てをどう見ているのか?中野良介さんに聞いた。
中野さん一家は4人家族。2012年に神戸から飯南町に移住した。移住前は、食品関係の会社で営業マンとして働いていた良介さん。農業経験はなかったが、移住後に2年間の農業研修を経て「中野あおぞら農園」を開園し、現在はパプリカ栽培に従事している。
「元々は私よりも嫁の方が田舎暮らしに興味があったんです。でも、移住前はちょうど30代半ばに差し掛かった頃で、特に仕事にやりがいがなかった。だから、思い切って移住を決めました。子どもが2人いるので、子育てや教育面も含めて色々と情報を調べていくうちに、飯南町に魅力を感じたんです」
小さな田舎町での生活を始めた中野さん一家。子育てや教育の面で、都会との大きな違いを感じたという。
「学校でも学校の外でも、この町では社会全体で子どもたち1人ひとりにちゃんと目が行き届いているんですよね。だから安心して子どもを任せられる。小学3年の次女は発達障害を抱えているんですが、何かあれば教育委員会や行政と私が直接相談が出来る。そして対応も早い。大きな街や都会じゃ、なかなかそれは難しいでしょう?」
実施する子育て制度の充実さはもちろんだが、飯南町には「町全体」で子育てや教育に目を向ける土壌がすでにあるのだ。
「移住前はどこか生活が無機質だったんです。でもいまは生きているという実感がある。それが、一番大きいですね」
時代が急速に進む今、子育てのあり方のヒントは田舎にあるのかもしれない。