「憧れの私、描くよ」 。スター☆トゥインクルプリキュア制作陣が子どもたちに伝えたいこと【インタビュー】

女の子だって、冒険しよう。「分からないこと」を怖がらないプリキュアに託した思いとは。
スター☆トゥインクルプリキュア
スター☆トゥインクルプリキュア
(C)ABC-A・東映アニメーション

何て自由なんだ! 2019年2月から放送が始まった「スター☆トゥインクルプリキュア」(スタプリ、毎週日曜、ABCテレビ・テレビ朝日系列)の第一印象は、とにかくそれに尽きる。

オープニングに続くCMが終わり、本編開始後たった1分足らず。主人公の中学2年生・星奈ひかるは、初回からあっという間に「宇宙」へ飛び出してしまった。自分がノートに描いた絵から出現した、妖精フワの力でだ。

前作では男の子がプリキュアに変身したことなどで注目を浴びたが、今度はどんなパワフルな「革命」を見せてくれるのだろう。プロデューサーの柳川あかりさん、田中昂さんに、プリキュア宇宙進出の理由を聞いた。(インタビュー内は敬称略)

プロデューサーの柳川あかりさん(右)、田中昂さん
プロデューサーの柳川あかりさん(右)、田中昂さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

追究した「プリキュアらしい」宇宙

――初回からいきなり、宇宙へ。構想はどこから生まれたのですか。

田中:そもそも、提案してくれたのは柳川さんでしたよね。

柳川:私自身、宇宙がすごく好きだったので(笑)。また、主人公のひかるたちはこれから色々な惑星に行ったり、「地球人」以外の存在に出会ったりします。物語を紡ぎやすい舞台でもあると考えました。「多様性」というテーマを大切にしてきたプリキュアシリーズと宇宙は、相性がよいと思ったんです。

――プリキュアはこれまで、「花」や「スイーツ」など女の子に人気があるモチーフに着想を得てきました。その中で「宇宙」は、やや異色ですね。1話からロケットで宇宙に飛び出て、無重力空間で戦うという......。

柳川:挑戦ではありますね。初代が「女の子だって、暴れたい」から始まったように、型にはめないのがプリキュアらしさではある。一般的な「女の子らしさ」「男の子らしさ」の間、というところは意識しました。ただ、企画立ち上げ段階でも「男の子向けになり過ぎないか」という点は議論がありました。だからこそ、女の子に向けてこのモチーフで挑みたいと思いました。受け入れられやすい「王道」をいくのか? そこから一歩踏み出て「冒険」をするのか? というバランスは悩みどころです。

田中:あくまで「傾向」はあるので難しいですよね。経験的に、女の子の好奇心は「日常」や「足元」から広がっていく感じがあるんです。それに対して、いきなり地球の外に連れていかれて、しかも真っ暗な宇宙空間......となると、入り込んでもらいにくいのかなと。それで、描き方は工夫しました。例えば、第1話冒頭でひかるがワープする「星空界」は、同じ宇宙でも「地球から遠くとおく離れている」という設定。ポップな色使いや、キラキラしたモチーフを散りばめて、ファンシーな世界観にしました。一方、戦闘シーンの舞台になっていたゾーンは、地球に近いところにある空間という設定です。こちらはリアルな宇宙に近い描写にしています。

――女の子たちを「冒険」に誘うために、色々な仕掛けを仕込んでいる、と。

柳川:一般的には男の子っぽいと言われる題材でも、切り口次第で「調理」はできると考えていました。私が通っていた女子高校では、「宇宙授業」というプログラムがあったんですよ。「宇宙×食べ物」とか「宇宙×ファッション」とか、各回で異なるテーマが設けられていて。宇宙を身近に感じるきっかけになったのをよく覚えているので、ヒントにはしました。

田中:「掛け合わせ」でいうと、番組の最後に「星座占い」のコーナーを設けたのも仕掛けの一つです。急に「星座」「宇宙」と言われると4~5歳の女の子には難しいかもしれないけれど、自分の誕生月の星座についてお父さんやお母さんと一緒に話しながら、少しずつ関心を持ってくれたらいいなと考えています。

「多様性」に向き合うために大切なのは、自分の頭で考えること

主人公の星奈ひかると、宇宙人の羽衣ララの出会い
主人公の星奈ひかると、宇宙人の羽衣ララの出会い
(C)ABC-A・東映アニメーション

――そして、今回のテーマとしては「多様性」というお話がありました。1話でひかるが初めて、敵のカッパード(宇宙人)に出会ったときの反応が、面白くて。カッパードは「地球人」から見ると奇妙ともいえる風貌ですが、ひかるは全く怖がらず、まず「かっちょいい~~っ!」と目を輝かせたんですね。

柳川:スタプリらしい場面だったと思います。ひかるは、自分の価値観ではカッパ―ドを「かっこいい」と思った。でも次の瞬間、妖精のフワをまるでモノのように扱う彼の言葉を聞き、かっこよくない、と考えを改める。どんな溝や壁も、好奇心で乗り越えながら、自分の頭で考える女の子なんです。

――「宇宙人だから怖い」「敵だから醜い」という描き方はしない。スタプリでは史上初めて「宇宙人のプリキュア」(キュアミルキー、変身前は宇宙人の羽衣ララ)が登場することでも注目されています。ただ、これも「特別なことではない」というのがポイントですね。

柳川:その通りです。今回は4人いるプリキュアの中の1人が宇宙人だというだけ。ララは「未知の文化や価値観」を象徴する存在ではありますが、皆それぞれにドラマがある。

田中:「出会い」の時点では、ひかるにとってはプリキュアになるララも、敵のカッパ―ドも同じ「宇宙人」なんですよ。逆にララの側から見れば、ひかるたちが「宇宙人」でもあるわけで。

柳川:あくまで種族が違うだけ。「自分とは違う誰か」に出会ったとき、それぞれが何を考え、成長していくのか。1年をかけて丁寧に描いていきたいです。「多様性」というキーワードは企画書などでも強調してはいますが、大上段から子どもたちに「多様性が大事だよ」と教えたいのかというと、少し違います。もっと「当たり前にあるもの」として感じてもらいたい。

また個人的な話になるのですが、私は小学生の頃アメリカに住んでいて。日本のアニメより海外のカートゥーンに親しんで育ったんです。そこのキャラクターたちは、肌色も髪色も瞳の色も、「いろいろ」が当たり前でした。通っていた現地学校でも、おにぎりを持って行ってみんなで食べたら、とても仲良くなれた記憶がある。「自分とは違う存在」が自然にあり、それが楽しかった。そんな思い出も込めて作っています。

ひとつだけの「正解」を示せない時代に

今作では、歌って踊る変身シーンも話題
今作では、歌って踊る変身シーンも話題
(C)ABC-A・東映アニメーション

――前作「HUGっと!プリキュア」で男の子のプリキュアが誕生したときも、大人より子どものほうが自然に受け入れて喜んでいた、という話をあちこちで耳にしました。

田中:多様性って本来、ことさらに受け入れようとするものじゃなくて、そこに自然に「あるもの」じゃないですか。例えば外国人の子どもがいて、言葉が通じなかったとする。でも、何となく一緒に遊んでいるうちにすんなり仲良くなれちゃうのが子どもです。大人より子どものほうが多様性を受け入れる力は高いんじゃないですか。プリキュアは、その伸びやかな感性に寄り添える存在でいたい。

――それはシリーズが始まって以来、ずっと大事にし続けてきたことですよね。

田中:僕が担当していた「キラキラ☆プリキュアアラモード」(2017年2月~2018年1月放送)では、各プリキュアが別々の動物をイメージした姿で、力を合わせて敵に立ち向かいました。特に意識していたのは「個性」の大切さです。観てくれているのがどんな子であっても、「自分だ!」とか「こういう風になりたい!」と思えるプリキュアを見つけてくれるといいな、と。

柳川:「これを見せるべき」「伝えるべき」――。それを一方的に定義しないことが、プリキュアらしさなのかもしれません。先ほど田中さんから「寄り添う」という言葉がありましたが、付け加えるなら「エンパワメント」でしょうか。初代「ふたりはプリキュア」のシリーズディレクター・西尾大介さんも以前、プリキュアとは「日常の理不尽や疑問に向き合い、奮い立つためのパワー」を体現する存在、と話していました。それはスタプリでも受け継いでいきたい。

――多様性が豊かということは、つまり世の中がより複雑になっているともいえる。その中で一方的に「正しい」ことを教える、というのは非常に難しくなってきていますよね。

柳川:一つの正解なんて、ないですから。自分の中にある想像力や個性、何かを大好きだという気持ち――とにかく思いっきり、解放してほしい。変身シーンにもそんな思いを込めていますよ。今回の変身グッズはインクボトルとペンをモチーフにしています。「憧れの私、描くよ」――主人公のひかるはそんな風に口ずさみながら「なりたい自分」に変身します。宮元宏彰ディレクターも、制作過程ではのびのびと線を描くイメージにとてもこだわっていました。子どもたちに届くといいな!

田中:私の娘は4歳で、よくプリキュアの口真似をします(笑)。朝ごはんを食べながら「私、ゼッタイにあきらめない!」とか。「あきらめないのはいいけど、遅刻するよ」って言うんですけど......(笑)

一同:(笑)

田中:そんな風にプリキュアに自分を重ね合わせながら、少しずつ成長していくのかな。今はすべて伝わらなくても、大人になったときに「あれってこういうこと言ってたんだな」と気づいてもらえたら嬉しい。そんな気持ちで作っています。基本は楽しんでほしいです。日曜日の朝にプリキュアを観て、次の日に保育園や幼稚園、学校に行く。ちょっと嫌なことがあったときに頑張れる力になったりとか、「早く友達に会いたいな」って思ってもらえたりとか。プリキュアがそんな存在でいられるように、制作陣は全力を注ぎます。

「恐怖は思考を停止する」――。プリキュアとの初めての戦闘シーンで、敵のカッパードはそう言った。それは多様性の大切さが叫ばれる日本で、世界で、私たち大人がリアルタイムで直面している「暗闇」でもある。その歴史を通じてお仕着せの「女の子らしさ」を革命し、前作では男の子も大人も巻き込み、解放していったプリキュアたち。

どんな風に、宇宙に光を灯してくれるのだろうか? これからの戦いが楽しみだ。

民放テレビ局が連携した公式テレビポータルサイトTVerでは、放送後1週間限定でスタプリを「見逃し配信」中。https://tver.jp/anime

(取材・文:加藤藍子 編集:泉谷由梨子)

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