タジキスタン:6月1日「国際子どもの日」に思うこと

歌って踊って楽しんで

AAR Japan[難民を助ける会]は現在、タジキスタンの首都ドゥシャンベ郊外のヒッサール市で、障がいの有無、人種や言語の違いなどにかかわらず、すべての子どもたちがそれぞれの能力やニーズに合わせて受けられる「インクルーシブ教育」の推進を行っています。AARは普通学校の校舎のバリアフリー化をはじめ、教職員への研修、学校や地域住民にインクルーシブ教育についての理解を深めてもらうための活動などを行っています。

2018年6月1日、本事業の拠点校である2番学校で「国際子どもの日」のイベントが開催されました。子どもの無事と成長を祝い、インクルーシブ教育を推進する機運を高めることが目的です。当日は、障がい児とその保護者約100名が参加してくれました。東京事務局員でタジキスタン事業担当の紺野誠二が報告します。

歌って踊って楽しんで

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AARが事業を行う2番学校でも「子どもの日」のイベントが行われました

日本では5月5日が「子どもの日」ですが、国によっては日にちが異なります。例えば海外の多くの国で定められているのが6月1日。1925年にジュネーブの子どもの福祉世界会議で「国際子どもの日」と制定されました。ほかにも11月20日(国連総会が定めた「世界子どもの日」)としている国もあります。タジキスタンでは6月1日が「子どもの日」。多くの学校がこの日に子ども向けのイベントを行います。

AARが事業を行うヒッサール市の2番学校でも、校長先生の発案で障がい児向けにイベントが行われました。子どもたちが大好きな歌や踊り、詩の朗読などが行われ、参加した子どもたちと保護者が一緒に歌ったり踊ったりして賑やかに過ごしました。AARは参加者へのプレゼントとしてお菓子やノート、鉛筆、ペンなどを配りました。

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タジキスタンの子どもたちは歌ったり踊ったりすることが大好き

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先生から子どもたちへ、通学を励ます意味で表彰状が贈られました(後列中央右はAARの町村美紗)

適切な水やりが子どもを伸ばす

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学習支援室のオルゾグ先生。子どもからも保護者からも大人気です

2017年11月に学習支援室を開設したこの学校では、地域で就学前の障がい児を支援しているオフトバックという団体のソーシャル・ワーカーのサポートのもと、現在23人の障がいのある子どもが通っています。さらに9月の新学期からは6人の障がい児が通常学級で学ぶ予定です。

イベント終了後、2番学校に設置した学習支援室にて、担当のオルゾグ先生からお話しを伺いました。オルゾグ先生は、これまで普通級の子どもたちを22年間指導した経験を持つベテラン先生です。教師としての経験だけでなく、人の痛みがわかり相手の心に寄り添える素晴らしい人間性を校長に買われ、AARの教員向け研修を受けたうえで、今回障がい児のための学習支援室の担当教諭となりました。

オルゾグ先生は、教室の棚からノートとファイルを取って数冊見せてくれました。あるノートには一桁の足し算がたくさん書かれていました。先生は、「去年の11月に学習支援室に来るようになった子ども(14歳)が書いたものです。初めて学校にきたときにはまったく数字も文字も書けなかったのですが、半年ちょっとで小学校1年生で習う算数や文字を書けるようになったのです」と話してくれました。また、ほかのノートにはキリル文字のアルファベットがたくさん書かれていました。このノートの持ち主は5年生。「4年間通常学級に通ったけれどまったく何もできなかった子どもです」と教えてくれました。最後に先生がファイルから大切そうに取り出して見せてくれたのは、3名の保護者からの感謝の手紙でした。先生が子どもたちの中にある花を咲かせようと日々水やりを適切に行い、子どもたちがそれに応えて確実に芽を伸ばしていることが、ノートからも、保護者の方々からの手紙からも伝わってきました。

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学習支援室に通うようになってから、みるみる文字が書けるのようになった小学校5年生の子どものノート

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オルゾグ先生の指導に感謝する保護者からの手紙

ただ、オルゾグ先生からは心配な点も寄せられました。「通ってくる障がい児の数が増えたのは嬉しいのですが、2つ問題があります。まず、子どもが増えたことで、一人ひとりにまで目配りができなくなったこと。もう一つは、保護者や養育者の方々から、『来年もオルゾグ先生にうちの子どものサポートをしてほしい』とお願いされていることです。一人でできることには限りもありますし...」。同校では15名の教員がインクルーシブ教育に関する研修を受けているので、AARからは、来年度からはほかの先生にも少しづつ学習支援室での指導に参加してもらい、ほかの先生による対応がどうしても難しい子どもには、引き続きオルゾグ先生が担当されるようアドバイスしたところ、うなずいてくれました。

一人ひとりの花が咲くように

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AARの支援対象校のひとつである24番学校の校長先生とAARの紺野誠二(右)

世界中で多くの子どもたちが災害や紛争、貧困などの被害に遭っています。中でも障がいのある子どもは、さらに教育の現場でも、常に取り残されがちです。AARでは障がいのあるなしに関わらず、一人でも多くの子どもたちが教育を受けられるよう、そして、一人ひとりが自分だけの花を咲かせることができるように、タジキスタンの関係者の方々と活動を進めてまいります。

この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。

【報告者】

東京事務局 紺野 誠二

AAR Japan[難民を助ける会]

2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身

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