ミャンマーからバングラデシュへのイスラム系少数派の大量流入が始まって半年余り。避難民が暮らす同国コックスバザール県のキャンプで、AAR Japan[難民を助ける会]は劣悪な衛生環境を少しでも改善するために、共同トイレと水浴び場を併設した施設22カ所、井戸22本を建設しています。その一部が3月初旬に完成し、避難民の人々に利用されています。
掘削したばかりの井戸に殺到
数キロ四方のエリアに60万人余りの避難民が密集する通称"メガキャンプ"。その中核に位置するクトゥパロン避難民キャンプで、避難民が井戸に集まってアルミ製の水がめやバケツに水を汲んでいました。男性や子どもがその場で石けんを使って水浴びする姿も見かけます。AARは同キャンプ一帯で22本の井戸を建設していますが、まさに今、2~3月は渇水期で特に水が貴重であり、掘削したばかりの井戸には避難民が殺到します。井戸は鋼製パイプを地中200メートルほど打ち込んだ深井戸で、浅い井戸と違ってより安全な水を供給できます。
ミャンマーから昨年9月、妻と5人の子どもを連れて逃れてきたコビル・アフメッドさん(50歳)は「今まで少し離れた井戸まで水を汲みに行っていたので、テントの近くに井戸ができて本当に助かっています。みんな喜んでいますよ」と話します。この井戸は約40世帯が利用しており、話を聞いているうちに人々が集まり、「ありがとう!」「あなたにアッラーのご加護を」などと言いながら次々と握手を求めてきました。たった1本の井戸がこれほど感謝されるとは思いませんでした。
クトゥパロンでは共同トイレ4個と水浴び場2室を併せた施設5基の建設が進み、すでに完成した施設は周囲の家族が使い始めています。トイレは従来、コンクリート製の浅いタンクを埋めた簡易な造りが大部分を占め、すでに多くが使えなくなってしまっています。そこでAARでは1年間は使えるレンガとコンクリート製のタンクを備えたトイレを設計しました。汲み取りをすれば中長期的に使える構造です。
夫と3人の子どもと暮らすラズマ・ベゴンさん(32歳)は「清潔なトイレができて助かります。それに女性が安心して水浴びできる場所がなかったので、ありがたいですね」。男性は井戸端で水浴びをしていますが、周囲から見えてしまうため、女性は服を着たまま水を浴びるか、排水設備もない、各家庭のテントの片隅で済ませるしかありませんでした。また、水浴び場のコンクリートの床は洗濯場としても使い勝手が良いらしく、バケツを持ち込んでは洗濯に励んでいました。
バングラデシュ最南端のナヤパラ避難民キャンプ
メガキャンプから車で南に約1時間、バングラデシュ最南端のテクナフ。国境のナフ河を挟んでミャンマー領を望むこの地域にも、3万人規模の避難民が暮らすキャンプがあります。多くの支援団体が拠点を置く中心都市コックスバザールからかなり遠くに位置していることもあり、支援があまり届いていないこのナヤパラ避難民キャンプで、AARは共同トイレ・水浴び場17棟を建設中です。以前からミャンマー避難民を受け入れていた同キャンプにも、昨年の衝突を受けて新たな避難民が移り住んでおり、トイレなどのニーズが高まっています。流入する人数の多さから、キャンプに隣接するホストコミュニティ(受け入れ地域)にも避難民がテントを建てて住んでいます。そのためキャンプ外でも、土地を所有する地域住民の要請を受けて、トイレ・水浴び場を建設しています。バングラデシュは以前から暮らす20万人と併せると100万人以上の避難民を受け入れています。地元住民にも負担が大きくのしかかっており、避難民支援と併せてホストコミュニティへの配慮も大きな課題になっています。
雨季・モンスーンに備えて支援を急ぐ
バングラデシュでは4〜5月頃に雨季、6〜10月頃にモンスーンの季節が訪れ、雨量が増大します。丘陵を切り開いて造成した避難民キャンプでは、斜面に密集するテントが土砂崩れで流されたり、低地が水没したりする危険性があり、国連機関や国際NGOが対応を急いでいます。AARも共同トイレ・水浴び場や井戸の設置に際して、そうしたリスクがある場所を最大限避けて建設を進めました。
ミャンマー、バングラデシュ両政府が発表した1月下旬からのミャンマーへの帰還は始まっておらず、避難民問題は長期化する様相を呈しています。AARは今後も衛生環境の改善、女性の保護などのプロジェクトに取り組む方針です。引き続き、皆様のご支援をお願い申し上げます。
AARのミャンマー避難民支援の活動はこちらから
【報告者】
バングラデシュ・コックスバザール事務所 中坪 央暁
大学卒業後、新聞社で特派員、編集デスクを経験。ジャーナリストとして平和構築支援の現地取材に携わった後、2017年12月にAARへ。栃木県出身