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2018年07月06日 10時52分 JST | 更新 2018年07月06日 11時06分 JST

麻原彰晃死刑囚の三女・"アーチャリー"松本麗華さんが父の治療を訴え続ける理由

「主役の証言がない、主役の視点がないまま終わろうとしている」

(2018年3月16日15:15「AbemaTIMES」より転載 )

オウム真理教による一連の事件での確定死刑囚7人が、東京拘置所から死刑執行施設を備えた別の拘置所へと移送された。今年1月には全ての裁判が終結しており、執行への前触れなのではとの一部報道もある。

元教祖・麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の3女、松本麗華さん(34)は、今回の報道を受け「混乱した。一体何が起きているのだろうと。23年も経っているので、父に対しての思いとか、小さい頃に面倒見てくれた人たちに対する思いが弱まっているのかと思っていたら、全然弱まっていなかった。昨日は暖かかったが、コートを着ても手足が寒いと感じる状態だった」と話す。

「日本の死刑制度では事前に家族に知らせることはせず、"執行したので遺体を引き取りに来てほしい"という電話連絡が急に来るだけ。今回の知らせが仮に執行のニュースだったかもしれないと思うと背筋が凍るというか、眠れなくなる思い。でも父はまだ生きているし、治療して頂ければ真実を話せる状況にある。まだ終わっていないんだから、社会を信じて、しっかりできることをやっていかないといけないなと思った」。

13日に中川智正死刑囚と面会したアンソニー・トゥーコロラド州立大学名誉教授は「移される可能性があるから、面会もこれがひょっとしたら最後になるかもわからんとはっきり言った。死刑執行が近いのでないかと覚悟しているようだった」と振り返る。

もしこのまま死刑囚たちの刑が執行されたら?と尋ねられた麗華さんは、「父に会って真実を聞くという23年間の目標がいきなり無くなってしまう。そして何も分からないまま、最愛の父を失って、極悪人の娘として生きていかないといけない。耐えられるんだろうか。他の方についても、やはり当時のことを思い出して、友人、知人を失うことになる状況にあるんだなということを感じて、恐怖だし、悲しみだし、絶望」。

■「主役の証言がない、主役の視点がないまま終わろうとしている」

松本死刑囚は、1997年の一審公判で「アイキャンスピークイングリッシュ・ア・リトル」、1999年に証人として出廷した際には「私は今、宇宙全体を動かすことのできる生き物になっています」などの不規則発言を繰り返すようになった。弁護側が依頼した6人の精神科医の鑑定では「心神喪失状態で訴訟能力を失っている」という結果が出ている。また、刑務所や拘置所で身柄を拘束された際に起きる拘禁反応というものが見られ、うつ・幻覚・妄想等の症状が現れることから、一刻も早い治療が必要と診断されてもいる。2013年の被告人質問では無言を貫き、呼びかけても反応がなく、排泄物は垂れ流していた状態だったとも報じられている。

しかし、2006年2月の東京高裁の判決では、認知症であるかのような症状を示す「偽痴呆症」という判定のもと、訴訟能力があると弁護団の精神科医の鑑定とは逆の判断がなされた。故に裁判を行い、その裁判で出てきた判決は量刑として被告に科すことができると国が判断したということになる。つまり司法は他の証言などの状況証拠を積み上げ、一審の途中から証言をすることも無くなった松本智津夫死刑囚に地下鉄サリン事件に関して殺人罪を適用、そして死刑の判断を下した。

それでも麗華さんは「被害者の方、ご遺族の方のことを考えると、こういうお話をするのも大変心苦しい大変申し上げにくいことだが」と前置きした上で、「心神喪失の状態では裁判を続行できないので、まず治療をしないといけないということになっている。しかし父は"詐病"だとされ、感情論で裁判が進んでいった。裁判所は医師に対して訴訟能力があることは揺るぎないと断定した上で鑑定させていたので、それ以外の結論は出せなかった。多くの方が私の話をご不快に思われるのではないかと思うが、ぜひ治療して法治国家として適正な手続きを踏んでいただきたいと考えている。そしてどういうつもりでオウムをつくったのか、犯罪に走っていくのをどう思っていたのか、残った様々な疑問を父自身に語ってほしい。もちろん社会的な責任、道徳的な責任はあると思うが、もし首謀しておらず、謀議の場にもいなかったら、やはり刑法上は地下鉄サリン事件では無罪になると考えている」と訴える。

「アーチャリー」というホーリーネームで5歳から教団内で過ごし、12歳の時に父親の逮捕を経験。アルバイトを解雇され、大学から入学を拒否される経験もした。それでも父について尋ねられると「大好きですね。父がいてくれたから人を好きになれた」とも話していた。そんな父が、事件を主導したのかという疑問。そして自分たち家族のことを見ていて欲しかったという思い。麗華さんはそうした気持ちを伝えるため、拘置所に何度も足を運んできた。しかし2008年の面会を最後に「父の口から真実を聞きたい」という願いは叶えられていない。「月に1回以上は申し込みをしているので、この10年間で120回」。

このような麗華さんの言動に対しては、厳しい意見が存在することも事実だ。オウム事件を知らない若者たちへの講演では、「僕のお父さんの同僚もこの事件で命を落としている」と、厳しい質問も飛ぶ。麗華さんは「すごく難しい。たとえ父が主導してこのような悲しい事件を起こしたとして、それをしっかりと明らかにしてほしい。真実を明らかにするために申し訳ないですが、どうか力を貸してください」と涙ぐみながら答えていた。

「実際に身近な人が事件を起こしたら、私と同じような気持ちになる人もいると思うし、逆に自分の生活を守るために『あいつ悪いことしたんだからもうあいつは悪い奴なんだ』と縁を切る人もいる。色々な人がいると思うが、自分の気持ちに嘘をつかずに向き合っていくとなると、事件と人というのはどうしても切り分けざるを得ない」とし、もし治療が叶い、改めて訴訟能力や罪に問われていること認められた場合は「日本には死刑と言う刑があるから、責任を父に返したいですね。父が治療されてに父に意識が戻れば、すべて父の責任なので」。

そして「事件は本当に憎いし、絶対に起こってはいけなかったし、起こらないでほしかったし、もし今、あの時代に戻って止められるのなら命張って止める」と、涙ぐみながら話した。

■「治療した上でしっかりと裁いていただきたい」

12日には地下鉄サリン事件で夫を亡くした高橋シズヱさんらが死刑囚との面会、死刑執行の立会いなどを求めた要望書を上川法務大臣に手渡している。高橋さんは「裁判だけでなく、最後まで見届けたい」とその理由を語った。

一方、入信した長男を奪回しようとし、自らもVXガスで襲われたオウム真理教家族の会会長・永岡弘行さんは「あの人たちが死刑に値する罪を犯したことは間違いない。でも死んだら、お前たちの犯した罪はそのまんまだと。どうしてだ、なぜなんだということを絶対に究明すべきだ」と話す。

麗華さんを取材しているジャーナリストの堀潤氏は「高橋シズヱさん自身も死刑執行を早期に求める立場だが、死刑確定までの10年以上の間、果たしてみんなやることやりきりましたかという思いはあると言っていた。やはり被害者の皆さんの気持ちもよく分かるが、裁判では事件の解明が十分ではなかったのではないかという疑問がある。また、親が犯罪を犯した家族は石を投げられ続けるんですか?オウム事件の加害者家族だから何をしてもいいということじゃないのではと思う」と話す。

「松本被告は裁判の初期の段階から証言能力を失う。にも関わらず、死刑執行ができる状態という、非常に曖昧な状況。核心を知る本人の証言なしで周囲の証言を基に裁判が進められていく。麗華さんや、先日無罪が確定した菊地直子さんにお話を伺うと、マインドコントロールや教祖の指示だけで事件が実行されていったという単純な構造でもないようだ。それならば核心を知る人物たちにもっともっと話を聞いていきたい。麻原彰晃氏が精神疾患の治療を受けられないまま、この十数年間放置されている状況というのは果たして適切ですか、ということは改めて問い直したい」。

移送と同じ14日には、井上嘉浩死刑囚が東京高裁に再審請求をしたことも分かった。弁護人によると、井上死刑囚は「死刑を免れたいわけではなく、事実は違うことを明らかにしたい」と話しているという。

2008年、最後に会った時の父の様子は「面会室に連れてこられた時はオムツを着け、荒れた肌はめくれあがっていた。耳が聞こえているのかも分からないような状態で。大声を出しても全く気が付かない」。麗華さんは改めて麗華さんは改めて「今は受刑能力がない状態だと思う。受刑能力というのは死刑の執行がなされた時に、自分が死刑の執行がされたんだと認識する能力が必要。現在の父は外的刺激に一切反応できず、昏睡状態の手前とも言われているので、自分が生きているかどうかも分からないまま死んでいく、それだけの刑になる。日弁連もはっきりと勧告しているし、今からでも治療してほしい、ただそれだけのこと。その上で、父をしっかりと裁いていただきたい」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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