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2018年02月16日 18時50分 JST | 更新 2018年02月16日 18時53分 JST

日本は赤ちゃんを捨てる国?慈恵病院の「内密出産」で浮き彫りになる"望まない妊娠・出産"の実態

風俗や性的暴行で"望まない妊娠"をする女性たち

 日本で1年間に誕生する赤ちゃんの人数は約96万人。その一方、「望まない妊娠」などの理由で、年間16万8000件あまりの人工妊娠中絶が行われている。ここ数年、件数自体は減少傾向にあるものの、当事者である女性が周囲に相談できず、孤独な状態で赤ちゃんを産む例も少なくないという。昨年12月には、茨城県で両親とみられる男女2人が、生まれたばかりの赤ちゃんの遺体を自宅の畑に埋めた疑いで逮捕されるという事件も起きている。国の調査では、2015年度までの3年間に遺棄や虐待で亡くなった新生児の8割近くが、望まない妊娠によって産まれていたという実態も明らかになった。

 こうした状況を受け、昨年12月、親たちが育てることができない新生児を託す「こうのとりのゆりかご(通称赤ちゃんポスト)」で知られる慈恵病院(熊本市)が出産制度に関する新しい構想を明らかにした。それが病院に身分を明かさず妊婦検診に通い、出産ができる「内密出産」だ。

 14日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この「望まない妊娠」の実態、そして「内密出産」実現への課題を取材した。

■風俗や性的暴行で"望まない妊娠"をする女性たち

 今まさに望まない妊娠・出産に直面しているのが、もうすぐ高校生になる子どもを持つ、30代のミカさんだ。お腹の中には、来月産まれてくる新たな命が宿っている。

 昨年暮れ、胎動を感じて妊娠に気づいた。数年前から生活のために風俗の仕事をしていることから、妊娠の心当たりについて「風俗だと思う。それ以外に心当たりはない」と話す。病院を訪れたのはつい先日のこと。人工中絶ができるのは妊娠21週目までとされており、すでに妊娠30週目に入っているミカさんに選択肢はなかった。夫と離婚し、子どもとも離れて暮らしているみかさんは、赤ちゃんを特別養子縁組で第三者に託すつもりでいる。

 「産むのにも体力いるし、食べておかないと。どんな顔してるんだろうって、生まれてくるのは楽しみ。自分がお腹を痛めた子は、誰も愛情は一緒だと思う。でも、あんまり愛情はかけないようにしている感じ」。そして涙ながらに「この子が幸せになれればいいかなって...」と、成長した子どもの写真は必要ないと話した。

 そんなミカさんをサポートしているのが、NPO法人「Babyぽけっと」のゆきえさんだ。自身も3年前、望まない妊娠で出産。子どもはすぐに養子に出した。「お腹の子どもの父親が逮捕・拘留されていたので。一人で育てていくことも考えたけど、"犯罪者の子ども"というのを背負わせると考えると、別の籍に入った方がいいのかなと思った」

 「子どもとは笑って別れるって決めていた」と話すゆきえさんだが、「病院にいる時、隣の部屋では"おめでとう"、夜泣きの声も聞こえてきて、部屋に一人の私は泣いた」と振り返る。新しい家族のもとで元気に成長する子どもの姿を目の当たりにし、同じような境遇にある女性たちのサポートを始めた。中には、性的暴行を受けた結果妊娠、周りに言えないまま中絶時期を過ぎてしまった女性もいたという。

 「女の子と一緒に行政窓口に行くと、きちんと事情をヒアリングしないまま頭ごなしに責められることも多いし、病院で事情を話してもまた怒られてしまう。相談できる窓口は多ければ多い方がいいし、選択肢も多い方がいい」。自宅での出産を選ばざるを得ない人たちにとって、赤ちゃんポストや内密出産は大きな助けにもなりうるようだ。

 「"いらない子"ではなかったので、やっぱりどこに行ったか、幸せかどうか、きちんと見届けたいと思った」と話し、会う権利をサポートしてくれる団体を探し、子ども養子に出したというゆきえさん。しかし、「お子さんが産みの親について知りたい気持ち最大限優先してあげてほしいが、やっぱり言えない事情の親もいると思う」とも話した。

■慈恵病院が導入を目指す「内密出産」とは

 「自宅で隠れて産んだ赤ちゃんが生まれた時には息をしていなかった、というケースは結構多い。お母さんも危険な状態になることがありうる」。慈恵病院の蓮田健副院長は、孤立出産の危険性をそう指摘する。

 望まない妊娠によって産まれた赤ちゃんを救うため、2007年に設置された「こうのとりのゆりかご」。以来、同病院には10年間で130人が預けられた。しかし、ここ数年は自宅などでの"孤立出産"により、直ちにケアが必要な未熟児などの割合が半数近くにまで増えているという。また、親が誰なのか分からず、"捨て子"状態になってしまった子どもたちもいるのだ。こうした状況から、既にドイツで制度化され、これまで346人が産まれている「内密出産」の仕組みに着目したという。

 日本の法制度では、まず妊娠がわかった時点でまず市町村に届け出て、母子健康手帳の交付を受けるが、その際には身分を明らかにすることが不可欠だ。また、出産後は速やかに出生届を提出しなければならず、匿名で出産を行うことは基本的には不可能となっている。このため、様々な事情で身分や妊娠の事実が発覚してしまうことを避けたい女性たちによる"孤立出産"が発生してしまうという。

 ドイツの「内密出産」制度の場合、医療機関でも匿名を貫くことができる。また、役所に対しては身元が分かるもの提出しなければならないが、資料は厳重に管理され、成長した子供が実の親のことを知りたいと思った際には(16歳以降であれば)情報開示請求が可能だ。

 「匿名で出産し、そのまま預けることができれば、自宅での危険な出産ではなく、病院での出産を受け入れてくれるお母さんもいるかもしれない」と蓮田副医院長が期待を寄せる一方、日本での「内密出産」の導入にあたっては、子どもの戸籍を巡る問題や、出産に関わる費用の負担、出自の開示といった多くの議論すべき問題をはらんでいる。慈恵病院がある熊本市も「国による法整備が不可欠」としており、加藤勝信厚生労働大臣は「仮に熊本市からご相談があれば、私どもとしても対応する。まずは話を聞かせて頂きたいと思っている」とコメントするなど、制度面の課題も残されている。

■"日本は赤ちゃんを捨てる国だね"と言われた

 千葉経済大学短期大学部の柏木恭典准教授は、「内密出産」について「昔からヨーロッパには匿名で出産できる仕組みがあった。そもそも日本には妊娠に悩んでいるお母さんが相談に行ける場所がほとんどない。中絶するのか産むのか、まずその判断に対応できる医療スタッフもあまりいない。ドイツでは町中に『妊娠葛藤相談所』というものがあり、相談員が話を聞いてあげてゆっくりと信頼関係を築き、出産後も継続的なケアをするのが当たり前に行われている」と話す。

 また、産まれてきた子どもが、自身のルーツについて知る権利をどう考えるのかも重要な問題だ。柏木氏は「ドイツでは子どもが望めば、16歳になった時に自分を産んだ母親について知る権利もある。性暴力で妊娠したケース、あるいは父娘の間で妊娠したケースなど、それが困る場合は、匿名で出産をする選択も残されている」と説明する。

 子どもが作れないと診断され、特別養子縁組で親になることを選んだ森崎千春さんと麻紀さんは、特別養子縁組によって親になった。長男の悠貴くんが小学校に入学する前に、産みの親について話をしたという。千春さんは「(出自を知った後で)私に向かって、ちょっと考えて、"いつも大事に育ててくれてありがとう"と。もう嬉しくなっちゃって、うるうる...」と振り返る。産まれた直後に夫妻のもとにやってきた次男・晴斗くん(4歳)は、産みの親が別にいることをまだ知らない。まだ幼い晴斗くんにも時が来れば、同じように伝えるつもりでいる。「つらい話になることもあると思うが、やっぱりそれは現実として伝えていくべきかなと」(千春さん)。

 柏木氏は「出自を知る権利やその制度の議論も大事だが、前提として、赤ちゃんを捨てたり、置き去りにしたりするのを防止することが優先だろう。慈恵病院の蓮田院長も"命を救うためにまず動かなければいけない"として赤ちゃんポストを始めた」と指摘。「首都圏から遠い熊本で130人の赤ちゃんが預けられたというのは、ドイツ人から見てもびっくりする話。"日本は赤ちゃんを捨てる国だね"と言われたくらい。日本が戦後、置き去りにしてきたのがこの問題だと思う。経済発展ばかり考えてきた中で、泣いてきた女性たちがいる。自己責任だという人もいるが、子どもは社会のものでもある。今後の動きはぜひ皆さんに見ていただきたい」と訴えた。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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