「海外で働きたい人の答えは"海外"にしかない」徹底した現場主義が築いたアジアでの働き方〜クロスコープシンガポール代表取締役 庄子素史さん〜

立ち上げが落ち着いた今だからこそ言えることは、「日本人の考え方がグローバルスタンダードではない」ということ。

アジア6ヶ国でレンタルオフィス事業を展開するクロスコープシンガポール代表・庄子素史さん。

日本で8年間働いた後、36歳にして活躍の舞台をアジアに移し、事業立ち上げに挑戦されます。その道無き道を創る過程は、苦労の連続だったそう。

アジアの中でも特に競争が激しいとされるシンガポールに身を置く庄子さんに、アジアで働くことになったきっかけから、現地で働く際の心がけについてお話を伺いました。

36歳、使命感と興味に突き動かされた海外進出

海外で働くきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけになった出来事はふたつあります。ひとつ目は加藤順彦さん(現クロスコープシンガポール取締役)との出会い、ふたつ目は2011年に起きた東日本大震災です。

今でこそ私はシンガポールをはじめとするアジアで仕事をしていますが、もともと海外志向の人間ではありませんでした。

大学卒業後は周りの人たちと同じように日系大手企業に就職して、8年弱の間、営業やマーケティング、企画の仕事をやってきました。

非常にドメスティックな組織だったので、海外に行くという意識は皆無。そんな私を変えたのが加藤順彦さんでした。

アジアを舞台に仕事をする彼から聞いたのは、今のアジアはまるで日本の高度経済成長期のような急成長を遂げているという話。そして、その勢いは実際に現地に行かないとわからない、と言われたのです。

自分自身と会社を大きく飛躍させるには、「成長している環境の中に身を置く必要がある」と感じていた私は、アジアという環境に強く興味を抱きました。

ここで言う「成長すること」とは、「新しい市場が生まれる」という意味。私たちの親世代は、車を購入したり給料が上がるなど、成長実感のある時代を経験していますが、現代の日本で同じような実感を持つことは困難です。

でも、アジアであれば今後ますます新しい市場が生まれていくはず。そう考えた時、私にとってアジアで働くことは自分の今後のキャリアを創っていく上で必要な選択に思えました。

ふたつ目のきっかけについて教えて下さい

私は仙台出身なのですが、東日本大震災の影響で、小さい頃に親と遊びに行った公園や兄が店を運営していた場所が全部流されてしまいました。それを見て、「何かしなくては」という使命感に駆られたのです。

経営者である自分だからこそできる貢献方法を考えた結果、会社を盛り上げて日本経済に貢献しようと決意しました。

そんな思いから、元々予定していた出張ベースでのシンガポール拠点立ち上げを白紙にし、震災が起きた2週間後に「シンガポールの事業を自らしに行く」と役員たちに伝えたのです。

加藤さんとの出会いによる「成長環境に自分の身を置くことへの興味」と、震災で芽生えた「日本経済に貢献したいという思い」が合わさり、シンガポールでの挑戦が始まりました。

常識がひっくり返った、海外でのマネジメント経験

6カ国での立ち上げを経験されて、どのような学びがありましたか?

立ち上げが落ち着いた今だからこそ言えることは、「日本人の考え方がグローバルスタンダードではない」ということ。

ありきたりでな言葉ですが、実際に現地で経験を積んだことによって本当に腹落ちしましたね。

シンガポールでの事業立ち上げは、日本と違うルールはあっても大きな壁にぶつかることはありませんでした。でも、シンガポール以外の4カ国への進出は苦労の連続。

例えば、ちょっとした掃除でさえ「契約書に書かれていないことは自分の仕事ではない」とやらなかったり、日本のような上司部下の関係も通用しなかったりします。

とにかく、ローカルスタッフのマネジメントをしていると、日本とは違う現地の考え方に触れることばかり。最初はこの国の人たちが間違っていると考えていました。

でも、現地の人たちと腹を割って話してみたり、人に辞められて辛い思いをしたりしていくうちに、「変わらなければいけないのは自分のほうだ」と気付いたんです。

なぜならば、彼らの考え方の違いは良い悪いで判断できるものではなく、そもそも育っている環境が違うから。そして、私たちは外国人で、その国で商売をさせていただいている立場だから。

決して「商売をしてやっている」という感覚になってはいけないのです。

でも、現地のやり方に迎合しすぎるとローカルスタッフに甘えが生じるので、自分のやり方を貫く部分と寄り添う部分のバランスが重要です。

難しいですが、相手を受け容れつつもどこで線を引くかが海外マネジメントのポイント。

私はその感覚を手探りで身に付けていくのに、1カ国につき約1年かかりました。

そんな経験から得たマネジメントをする上でのポイントは、ローカルスタッフの話をきちんと聞くこと。

例えば、ベトナムで仕事が上手く進まない理由を複数人に聞くと、初めは日本人からすると身勝手な主張に思えることも、だんだん話がひとつに集約されていくんです。

そこからベトナム人の考え方や価値観を割り出すと、より建設的な話ができるようになります。ベトナムのやり方を一部取り入れながら、日本のやり方も並立させることで、彼らも納得して進めてくれるようになる。

日本式のやり方を振りかざすのではなく、「お互いに改善しよう」という流れを作っていくことが大事ですね。

そして、立ち上げをしたばかりの時は、とにかくどんな手を使ってでも結果を出して下さい。日本企業への営業でもツテでも何でもいい。

それで結果を出せなければ、ローカルスタッフから尊敬されません。彼らと良い関係を築く一番の方法は、尊敬できる上司であること。

指示を出すだけではなく、結果も出す必要があります。自分がまずやって見せて、うちの会社はちゃんとやれば仕事が取れるんだと立証した上で、ローカルスタッフに動いてもらうことがポイントです。

失敗してもいい!トライ&エラーがキャリアを創る

これからの世の中で働いていく上で、重要なことを教えて下さい

さらにグローバル化が進む世界で大切になってくるのは、どこにいようとも起業家のようにアグレッシブな姿勢を持つことです。

海外での働く手段は色々あるので、駐在員として海外に来ることもキャリアとしては良いと思います。その場合は海外赴任中にどれだけ失敗しないかではなく、結果を出すことに対してこだわりを持てるかが大事。

でも、大企業の中での評価制度は減点方式が多いので、失敗しなければ勝ち残っていけると考え、赴任中は無難にこなそうと思っている人も中にはいます。

一方、私たちのようにマーケットを開拓しなければ生き残れない起業家の立場だと、3年後には会社がなくなるかもしれないので、その働き方は通用しません。

海外に限らず人口減少が進む日本でも、今後の規制緩和によって労働力としての外国人が増え、競争相手は外国人になるはず。

「日本で一花咲かせてやろう」というアグレッシブな気持ちを持ったライバルたちと戦える力を、今のうちに養えるかがカギでしょうね。

だからこそ、日本にいて働き続けようが、海外に出て働こうが「失敗してもいいからトライ&エラーを繰り返して、色々な国の人と関係を構築できる力」を付けることが求められるのです。

多様性のある環境に飛び込み、いかにして結果を出せるか。そのためにもABROADERS読者の皆さんにはぜひ、シンガポールで新しい会社を立ち上げるとかタイに営業所を作るといった、ゼロベースで何かを作り上げる経験をして欲しいですね。

さまざまな国々の人に揉まれて、多くの失敗をする若い人が増えれば、日本の未来にもさらに希望が見えると思います。

プロフィール

庄子素史/Shoji Motofumi

クロスコープシンガポール代表取締役

青山学院大学卒業後、東京ディズニーリゾートを経営する(株)オリエンタルランドにて約8年間、テーマパーク・リゾートのマーケティングに従事。

2006年にソーシャルワイヤー株式会社を共同創業。2011年には同社インキュベーション事業の東南アジア市場への進出の責任者としてシンガポール移住。シンガポール法人立ち上げ後、ベトナム、フィリピン、インド、タイ法人/事業の立ち上げを担当し、現在はシンガポールから各国の事業を統括。各国の自社レンタルオフィスを利用している日系企業に対して、アジア進出のアドバイスから商品開発、販売計画、人材採用、税務面まで幅広くアドバイスを行うと共に、日本食の輸出拡大のアドバイザリーも務める。

【主な著書】共著『なぜ、私達はシンガポールを戦場に選んだのか?』(ゴマブックス出版)

ライター

濱田 真里/Mari Hamada

ABROADERS 代表

海外で働く日本人に特化した取材・インタビューサイトの運営を6年間以上続けている。その経験から、もっと若い人たちに海外に興味を持って一歩を踏み出してもらうためには、現地のワクワクする情報が必要だ!と感じて『週刊アブローダーズ』を立ち上げる。好きな国はマレーシアとカンボジア。

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週刊ABROADERSは、アジアで働きたい日本人のためのリアル情報サイトです。海外でいつか働いてみたいけど、現地の暮らしは一体どうなるのだろう?」という疑問に対し、現地情報や住んでいる人の声を発信します。そのことによって、アジアで働きたい日本人の背中を押し、「アジアで働く」という生き方の選択肢を増やすことを目指しています。

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