本を盗まれる恐怖よりも、理想の図書室を目指す。大切なのは「子どもたちの視点に立った」学校運営

「机の上に荷物を置く習慣」は変えられるのか?

前回(過去記事リンク)では、バングラデシュの一般的な学校環境について紹介しました。

今回は、それを踏まえて本校ではどのような学校環境にしたのかについて、書いていきます。

「机の上に荷物を置く習慣」は変えられるのか?

K.Furusawa

前回、バングラデシュの田舎で一般的な教室環境についてお伝えしました。長机に4~6名の生徒がぎゅうぎゅうに座っている状況で、他に荷物を置く場所がないため机の上に荷物を置き、更にその上でノートをとっている状況です。

バングラデシュでは子どもの数が多く、全員に授業を受けさせるとなるとこのような環境になってしまうのは理解しています。ただ、この環境が生徒の成績にも影響してくると思っており、本校では生徒数を1クラス40人と制限した上で「1人1脚」の机と椅子を用意しました。日本のものと同様、荷物を下げることができるフックなども付けた、机も椅子も特注品です。

「これで生徒も集中して授業を受け、ノートも取りやすくなるだろう」と安心していました。しかしある時、授業中の教室を覗いたら、机の上に荷物を置いて授業を受けている生徒の多いこと! 荷物の上でノートをとる習慣は想像以上に根強く、無意識にでもやってしまっていたようです。また現地教員もその状況に違和感を抱くことなく授業を進めていました。

まずはすぐに教職員の意識を変えるため、朝礼で机の使用方法について生徒へ徹底指導するように話をしました。また、生徒には以前紹介した職場再建の三原則のひとつ「場を清める」(過去記事リンク)の一環として机を効率良く使用し、身の回りの整理整頓を心がけるよう指導しました。

それから数日経って授業を見に行ったら、もう机の上に荷物を置く生徒は一切おらず、机周りも整頓されていました。良い習慣をつけさせるのも学校のひとつの仕事だと実感した出来事でした。

図書室を開放したら本は紛失するのか?

K.Furusawa

本校の図書室のレイアウトやシステムを計画している時に悩んだことがあります。それは他校の学校訪問時に聞いた「図書室の本が盗まれてしまう」ということです。

私たちの理想は、本の貸し出しはもちろんのこと、生徒が本を読みたい時に好きに読むことができる、調べたい時に調べることができる環境です。

でも、他校のように本当に本がなくなってしまうとしたら、どうすればいいのか。

不安は多少ありましたが、理想の図書室環境に近づけるためにチャレンジしてみようと思いました。他校が実施している本棚の施錠は、本を盗まれないようにするための根本的な解決策ではないと思います。まずは、盗むという行為の意味を指導することが大切であり、その上で図書室や本の存在価値を教えていく必要があると考えました。

図書室の運営を開始するにあたり、まずシステムやオペレーション方法を明確にしました。アナログで管理するため、貸出記録簿使用方法の作成や図書館利用の学年別タイムスケジュール、本の分類記号貼付など、ゼロからの構築は想定より時間もエネルギーも必要で大変でした(苦笑)。

理想の図書室環境を作りたいと思い、図書室を開放しましたが、開始当初は数冊紛失しました。その都度、朝礼にて何度も生徒に「理想の図書室」の話を聞かせ、「一緒に作っていこう」と伝え続けました。それから運営方法が落ち着くまで約1年かかりましたが、今では紛失もほぼなく、思い描いていた図書室運営がある程度できています。

本校の子どもたちは本当に本が好きで、昼休み、放課後と多くの生徒が本を読みに図書室に訪れます。現在、本校の蔵書数は約4000冊あり、今後毎年1000冊ずつ購入していく予定です。

他にはどんな学校設備を入れる?

K.Furusawa

2017年、校舎を2階建てから4階建てに増築しました。現在、理科室や農場、ICT室(コンピュータ室)、そして小ホールもあります。

また、バングラデシュでは一般的な特別教室というと祈祷室(prayer room)があります。イスラム教国ということもあり、礼拝は大切な儀礼です。当初、本校では教室数の関係で設けていませんでしたが、現在は設置しています。

そして、私の勝手な意向で設置したのが託児所です。バングラデシュには外に出て働く女性は多くいますが、子育てをしながら働きに出られる環境にいる人は、まだごくわずかです。そこで本校では託児所を設け、仕事も子育ても両立できるように教職員の環境も配慮し設置しました。

学校設備としては最低限用意することができているものの、本校には体育館がありません。バングラデシュの一般的な学校に体育館がないのはふつうのことですが、雨季になりグラウンドで体を動かすことができない生徒たちを見ていると、やはり体育館は必要だと感じます。

まだ進行中ではありますが、体育館建設計画を進めようとしているところなので、また決まったらこちらでもご紹介したいと思います。

Ambassadorのプロフィール

K.Furusawa

K.Furusawa

宮城県仙台市出身。大学在学中はプロキックボクサーとして活躍。卒業後は日本の私学教員をやりながらタイ、カンボジア、ネパール、ミャンマーなどアジアの教育支援に携わる。その後、とある公益財団法人の仕事としてバングラデシュでモデル校となる学校建設・運営を任される。現在は生徒数約800名の学校をバングラデシュで運営中。

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