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2015年02月01日 16時06分 JST | 更新 2015年04月02日 18時12分 JST

今こそ、日本の外交戦略を問い直す!

ISIL(自称「イスラム国」)による邦人人質事件は、外交の舵取りの難しさを改めて考える契機となりました。自ら掲げる「積極的平和主義」の旗印の下、安倍首相は年初の中東歴訪によって、国際テロとの闘いを前面に打ち出しました。とりわけ、中東地域の安定を脅かすISILと戦う周辺国への資金援助を表明したことは、これまでにない積極的な外交姿勢を内外に印象づけることとなりました。

ただ、同時に、安倍首相の言動がISILに対し、拘束中の日本人の命と引き換えに国際社会に向かって存在をアピールする口実やきっかけを与えてしまったのではないかとの批判も浴びています。実際、ISILは「日本は十字軍に加わりISILに敵対する選択をした」と盛んに喧伝しています。

■外交において「政争は水際まで」

私は、中東地域に対する歴代政権の首相や外相の演説や首脳会談の記録を読む限り、批判されている安倍首相のエジプトでの演説内容がとくに踏み込んだ(これまでの外交姿勢を踏み外した)ものであるとの印象は持ちません。

ましてや、その英訳が挑発的だったとの指摘は当たらないと考えます。ただし、この時期に、敢えて中東を歴訪しISILとの対決姿勢を鮮明にすることが我が国の国益と外交の優先順位に照らして適切だったか否かについては冷静に検証する必要があると考えます。

■されど、外交に事後検証は不可欠

まず、メリットですが、我が国エネルギーの大半を依存している中東の安定化は、我が国経済にとって重要です。しかも、その安定を損ねる最大の脅威がISILであることも自明です。また、今回歴訪の目的の一つであったパレスティナ和平への寄与は我が国が長年取り組んできた中東貢献策の柱でもあります。過激主義を排し宗派和解により安定化を実現すべきとの安倍首相の「中庸」演説は、国際社会から高い評価を受けました。

しかし、同時にこのような積極外交の推進には、必然的にコストやリスクが伴います。日本人に対するテロリストによる直接の脅威は今後ますます拡大し、中東から8000キロも離れた日本といえども決して対岸の火事では済まされなくなりますし、2020年にオリンピック・パラリンピックを開催する日本および日本人が危険にさらされる確率は今後さらに高まって行くことでしょう。

■「積極的平和主義」のリスクも自覚すべし

最大の問題は、そのようなコストやリスクに対する日本国民の覚悟や備えが十分であるのかどうかです。安倍首相の標榜する「積極的平和主義」は、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献して行こうという外交理念です。「これまで以上に」と言うからには、これまでに経験したことのないリスクやコストを国民が覚悟しなければならないことを意味します。国民の覚悟のみならず、国民を守るため政府として想定されるリスクに対して的確に対処し得る法制度や危機管理体制を整備することも重要です。

そのような十分な体制を整えるためには、予算や人員を投じ適時適切な方策を講じて行かねばなりません。そのつど、国会論議などを通じて国民の理解を得る努力も必要です。今回の中東歴訪で積極姿勢を表明するにあたり、安倍首相から国民の認識を新たにするような説明や、危機管理や情報収集における特段の体制強化がなされたとは言えないように思います。

■『国家安全保障戦略』(2013年)の基本に立ち返れ

そうした政権の外交方針を内外に明らかにする基本文書が『国家安全保障戦略』です。しかし、その戦略文書を読んでも、テロとの闘いや中東地域へのコミットメントの優先順位はそれほど高くない。むしろ、中国の台頭によって脅かされているアジア太平洋地域の平和と安定に対する我が国の役割の拡大や日米同盟の深化や韓国、豪州、インド、ASEAN諸国との連携強化の方がはるかに優先順位の高いことがわかります。

それは、我が国の国益と国力の制約を冷静に考えれば、きわめてリーズナブルな結論といえます。為政者は、「積極的平和主義」という理念が、何でもかんでも積極的に関わろうとする外務省の地域政策担当者の衝動(これは決して悪いことではありません)を抑えきれなくなる危険性があることを強く自覚すべきです。

経済再生とアジア太平洋地域の平和と安全の確立という大事業を一方に抱えながら、中東の複雑な地政学的パワーゲームに長期にわたって首を突っ込むような国力の余裕が、今の日本にあるのかどうかも冷静に自問すべきです。米国ですら、イラク戦争という無謀な戦線拡大がもたらした巨大なツケにこの10年以上も悩まされてきたのです。

■真の戦略的外交をめざして

外交戦略において最も重要なことは、持てる資源や国力の制約と国民の意思を冷静に分析(もちろん、必要なら資源配分を変えたり国民を説得すべきです)した上で、国際社会の期待や外務省の意欲を考慮しつつ、国益を最大化し得る対外政策の優先順位を決定することと考えます。

その意味で、官邸における首相を中心とする国家安全保障会議(NSC)による役所の縦割りを排した大局的な判断が極めて重要です。私たち野党としても、現実的な国益を見据え、真に戦略的な外交を展開して行くために、我が国に必要な冷静な観点を見失うことなく、政府に対し引き続き建設的な批判や政策提案を重ねて行くつもりです。

衆議院議員・民主党「次の内閣」外務大臣 長島昭久