矛盾だらけの解散だが、堂々と受けて立つ

「アベノミクス解散」で国民の信を問うという。なんとも不可解なロジックだが、賽は投げられたのだから堂々と受けて立つ。
長島昭久

安倍首相はアベノミクスの成果を強調しながら、消費税率の再引き上げに耐えうる経済状況ではないので先送りさせてもらいたい。だから、「アベノミクス解散」で国民の信を問うという。なんとも不可解なロジックだが、賽は投げられたのだから堂々と受けて立つ。解散には大義はないかもしれないが、この選挙には意義があったという結果を出すために全力で戦い抜く覚悟だ。

そもそもアベノミクスとは何だったのか。

異次元の金融緩和が第一、機動的な財政出動が第二、成長戦略を第三の矢と称し、この2年間国民や世界の期待を盛んに煽ってきた。しかし、「道半ば」とはいえ「この道しかない」と首相が断言するアベノミクスの客観的な評価はどうであろうか。世界は、各国のGDPをドルベースで比較する。この2年で38%も円安が進んだことで、日本のGDPは安倍政権発足時の約6兆ドルから約4兆5000億ドルにまで縮小してしまった。この間に米国もドイツももちろん中国も経済は拡大している。円安の恩恵に浴して輸出産業大手は史上最高益などと喜んでいるが、日本経済の規模は縮小の一途だ。これが、アベノミクスの実績なのだ。

しかも、日銀の尻を叩いて自国通貨の価値を下げ、なかば人為的に株価を釣り上げる手法には、国民生活に深刻な副作用が生じている。物価の高騰である。景気がよくなって自然に物価が上がるならそれは需要が引っ張る「良いインフレ」だが、アベノミクスのもたらしたものはコスト高が押し上げる「悪いインフレ」だ。つまり、形を変えた「増税」に他ならない。じっさい、安倍政権発足以来、消費者物価は4.6%アップ。そのうち消費増税分は2%で、残りの2.6%は円安による輸入物価高騰の影響。安倍首相は円高による倒産の話をよくするが、燃料費や輸入資材の高騰で円安関連倒産は前年の2倍に達している。年金で暮らすお年寄りにとっては、物価高はそのまま生活を圧迫してしまう。円安による物価の高騰の賃金上昇がついて行けず、実質賃金は15カ月連続で下がり続けているのだ。アベノミクス不況をこれ以上続けるわけにはいかない。

アベノミクス第二、第三の矢もまやかしだ。

自民党の某幹部は、大震災や土砂災害などにかこつけて、向こう10年間で200兆円の税金をつぎ込んで「国土強靭化」を実現すると息巻いている。安倍首相のお膝元では、無駄な公共事業の象徴として計画中止になった「第二関門橋」事業がゾンビのようによみがえってしまった。安倍首相は、就任以来100万人の雇用を創出したと威張って言うが、その半分以上が建設業のしかも不安定な非正規雇用。10年間に200兆もの国民の税金を怪しげな公共事業に投入するくらいなら、その分を年金、医療、介護、子育て、雇用の充実のために注ぎ込み、国民の消費マインドを暖めて行くべきだ。将来にこれ以上膨大なツケを残すことは許されない。

言うまでもなく、アベノミクスの成否は、成長戦略が実現できるかどうかに懸かっている。そのためには、農業や医療や環境分野などの岩盤規制を粉砕しなければならない。既得権益と本気で戦わなければならないのだ。しかし、安倍さんには小泉さんが郵政解体で見せたような気迫は微塵も感じられない。自民党の支持基盤である農協や医師会からは悲鳴も怒りの声も聞こえてこない。業界団体との衝突を恐れるあまり成長戦略は一向に動き出さないのだ。

それどころか、GPIF(厚生年金基金)130兆円の半分を株に投資し、見せかけの株価つり上げを図ろうとしている。年金基金はもともと国民の汗と涙の結晶であって、厚生労働省のものではない。再びリーマンショックのようなことにでもなれば、全てが失われてしまいかねない。そんなリスクがわかっているからか、公務員の共済年金基金はこれまで通り株の比率は8%に据え置かれているのだろう。

こんなまやかしのアベノミクスとは決別しなければならない。

「この道しかない」で硬直するのではなく、私たちは、もっと柔軟な選択肢を模索したい。年金、医療、介護、子育て、雇用といった家計に直結する分野における多様な政策を紡いで、一人ひとりの能力が最大限発揮できる社会を創る。子育ての壁、介護の壁、障がいの壁、年収の壁・・・。政治は、こうした一人ひとりの活躍を阻むこれらの壁を一つ一つ取り払う地道な作業の積み重ねに他ならない。

私は、2012年の国連報告書が世界一の太鼓判を押した日本の「人材力」を信ずる一人だ。この人材力の発揮を阻む壁を取り除くことができれば、ノーベル賞学者ももっと輩出できるはずであるし、日本経済は再び力強さを回復するはずだ。怪しげな公共事業に10年で200兆円も注ぎ込むくらいであるなら、子供手当や高校無償化、大学・専門学校の希望者全員への奨学金、さらには小中学校の35人学級実現のための財源にして、未来へ投資すべきだ。子供や孫に借金のつけを回すのではなく、夢と希望とチャンスを引き継ぐ。これが私たちの責任だと考える。

皆さん、「未来に誇れる日本」を一緒につくりましょう。

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