by ナタリア・ノザゼ アムネスティ・インターナショナル調査員
アゼルバイジャンの首都バクーはさまざまなコントラストが存在する街だ。手の込んだ噴水のある優雅な公園が、泥や瓦礫だらけの荒れた区画と隣り合い、城壁で囲まれた世界遺産の旧市街の曲がりくねった石畳の向こうに、ガラス張りのタワーがそびえ立つ。市の中心部にはブランドショップが立ち並ぶ一方で、汚く貧しいスラム街は、空港から市街地に走る道路のフェンスに隠されている。
今は、どこを見渡しても何かが建設中だ。道路、アパート、公園、スタジアム......。
バクーは、欧州競技大会、通称ユーロリンピックの初回開催国である。6月12日から28日、59カ国から6,000人のアスリートを迎えて20種の競技が行われる。いわば欧州版オリンピックだ。アリエフ大統領はこれを機に、アゼルバイジャンが大々的な国際イベントを牽引するに足る、近代的で豊かさと洗練さをそなえた国であることを見せつけようとしている。
そしてコントラストの街バクーで、最大のギャップは、世界に印象づけようとする近代的なイメージと、その背後にある現実だ。
アムネスティの調査によれば、この1年は、ソビエト連邦から独立した1991年以来、弾圧が最もひどかった年である。自由と連帯をうたうオリンピック憲章に則って開催されるユーロリンピックが、最悪の時期に開かれるのだ。
著名な人権活動家、ジャーナリスト、ブロガーなど22人が、ねつ造された容疑で投獄の憂き目にあっている。国を追われた人もいれば、当局に批判的な活動をあきらめざるを得なかった人もいる。
何千人ものアスリートや観光客を集めたい街は、公での集会を禁止している。海外からの訪問客のために壮大なスタジアムやホテル、会議場が建設されている一方で、地元の活動家たちは集まる場所にも事欠いている。
先日、バクーを車で走っていると、大会開催100日前を祝う掲示板がライトアップされていた。しかしインティガム・アリエフさんの家族や友人にとっては喜ぶほどのことではなかった。彼らはインティガムさんの裁判を傍聴するために裁判所の前に集まっていた。インティガムさんは著名な人権派の法律家だ。ヨーロッパ人権裁判所にこの国の人権侵害を提訴しようとしたために、昨年8月、逮捕された。容疑はでっち上げである。他の人権活動家も捕まった。
アゼルバイジャンは、100メートル走に参加するアスリートにとっては安全な国かもしれない。だが人権擁護や自由な発言は危険な勝負となる。人権や自由を唱え闘う者は、メダルの代わりに嫌がらせや逮捕状を受け取るはめになる。
逮捕や弾圧は市民社会を萎縮させ、議論や討論を封じ込めた。しかし国の批判は、社会の安定の脅威などではない。大統領が宣言するように、アゼルバイジャンが人権を尊重する民主主義国家になるよう求めているに過ぎない。
この国の将来に目を向けると、政府の被害妄想はさらにひどくなりそうだ。バクーは石油や天然ガスに恵まれた地だが、石油埋蔵量は20年で、天然ガスは50年で底をつく。ブームが終わったその後はどうなるのか。
ウクライナ危機で、ロシアより安定した石油やガスの供給先を求めていた国際社会は、アゼルバイジャンの人権状況に対して"だんまり"をきめこんだ。視線はオイルダラーに向き、口は閉ざされた。あまりに近視眼的な行為で、鉄格子の向こうで苦しむ人たちには酷い仕打ちである。バクーは人権を抑え込んで大手を振って歩いているようなものだ。
現地で私が出会った若い活動家のトゥルグトさんは、「バクーは2015年に変われる」という。
「このユーロリンピックは自分たちの声を国際社会に届け、その目を自分たちの苦境に向ける最後のチャンスだろう。明日では遅すぎる」
アムネスティは、政府批判で投獄された人たちの無条件釈放を求めている。ユーロリンピックで名を残すにふさわしいのは、華やかさよりも、自由への敬意だ。
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