ヨーロッパの首脳に翻弄されるシリア難民の命運

マケドニア当局がギリシャとの国境を正式に完全閉鎖して以来、難民は身動きがとれなくなっている。

EU首脳陣とトルコ政府は、海を渡ってトルコからギリシャにたどり着いたシリアの難民・移民をトルコに送り返し、それと引き換えにトルコにいるシリア難民をEU内で受け入れるという措置を、導入しようとしている

あまりに短絡的で非人道的なこの交換協定が話し合われている最中にも、難民をめぐる人道危機は悪化する一方だ。

たとえば、ギリシャ北部、マケドニアとの国境地帯にあるイドメニ村では、13,000人もの人が足止めされている。EUからの圧力を受け、マケドニアはギリシャとの国境を閉鎖している。

3月上旬、アムネスティの欧州担当とギリシャ支部が現地に入った。ここにその様子の一端を、写真で紹介する。

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マケドニア当局がギリシャとの国境を正式に完全閉鎖して以来、シリアから来たこの少年のように、難民は身動きがとれなくなっている。「国境はずっと閉鎖されたままなの? 私たちはどうすればいいの?」と、何度も聞かれた。

©Amnesty International

難民の人たちは、そこかしこにテントを張って日々をしのいでいる。国の支援はまったくない。食糧も、最低限の衛生設備も、医療も、すべてNGOとボランティアが提供している。

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しかしNGOがどんなに頑張っても、何千という人たちは支えきれない。

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これまで多くの難民が、イドメニを通ってヨーロッパ諸国へ渡った。トルコから危険な船旅でギリシャへやってきた人たちにとって、ここは希望への入り口だった。しかし今や、行き止まりの地だ。

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70代の夫婦は、シリアのアレッポからドイツを目指していた。向こうに住む息子夫婦と一緒に暮らすためだ。「アラブ諸国とトルコに失望し、ヨーロッパなら、と思っていたのに、こんな扱いあんまりだ」

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「私は小児科医だ。ぎりぎりまでシリアにとどまって医療にあたっていたが、どこにも安全な場がなくなり、とうとう国を出た。死から逃れるためだ」

ここでは12歳の息子と一緒だが、妻と他の3人の子どもたちは、まだシリアで、トルコとの国境地帯から出られずにいるにいるそうだ。

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ここ数日、土砂降りが続いた。テントが水浸しになり、毛布は濡れ、みんな冷たい泥の上で寝るはめになった。

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18歳の息子と一緒に1週間も足止めされている薬剤師の男性(45歳)。

「私を、周りを見てみろ。ビクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を知ってるか? 私たちは、まさにレ・ミゼラブル(悲惨な人びと)だ。でも来週の、ヨーロッパのお偉方の会合まで待つことにする。それからどうするか、考えるよ」

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生物学専攻の学生(23歳)は、障がいを持つ弟とシリアを離れた。ドイツで弟に脊髄手術を受けさせたいと考えている。

4カ月前に父親が殺され、母親と妹とは連絡がとれないままだ。「ヨーロッパのリーダーたちには、僕たちが安全に暮らせるような道を考えて欲しい。戦争を止めてくれとは頼めないけど。だって、無理だからね。今は、弟を治すことだけ考えている。自分のことは、それからだ」

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衛生設備が足りず、先日の大雨もあり、環境は厳しさを増す一方だ。「子どもたちは具合が悪くなって、吐いたりしている」そうだ。「ばい菌だらけだ。この間なんてテントにヘビが入ってきた」と話す少年もいた。

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家族とこの地にやってきた身重の女性は、国境閉鎖を知って、愕然とした。「地面にじかに寝ている。毛布は濡れてしまって、凍えるほど寒い。子どもの安全のためだけに、ここまで来たのに」

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EUとトルコが進めている計画のニュースはイドメニにも届き、みんな動揺している。「トルコに送り返されちゃうの?」と多くの人に聞かれた。

ギリシャ当局は、イドメニにいる人たちを国の運営するキャンプに移す計画を発表した。しかし、既存の難民キャンプはすでに満杯で、国境も閉ざされたとなれば、何千もの人たちの居場所はあるのだろうか。

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