英国で温かく迎えられたシリア難民の家族

一番嬉しかったことは、みんな、とても暖かい笑顔で接してくれたことです。自分たちはここで歓迎されているのだ、という気持ちになりました。

イギリスで暮らし始めたシリア難民ワリドさん一家 ©Amnesty International

重い病を患って闘病中に家を失ったあるシリア難民一家が、イギリスで平和な人生を再出発させた。しかし、彼らが乗り越えてきた困難は、決して忘れることはできない。

38歳のシリア難民ワリドさんは現在、イギリス北部の町ブラッドフォードに、妻と3人の娘と住む。明るい新居で家族揃って暮らす幸せをかみしめながら、ワリドさんは語り始めた。

「ここに到着するまで、カウントダウンをしていました。当時、家族の希望はすべて閉ざされていました。私は癌に冒され、娘も深刻な病を患い、2人の治療費をねん出するために5,000米ドルもの借金をしていました。絶望的な状況で、本当に途方に暮れていたのです」と続ける。「でも暗闇の続くトンネルの出口に一つの光が差し込みました。私たちはイギリスへ行けることになったのです。朗報に小躍りしました」

ワリドさんと28歳の妻エサーフさんは、2012年に3人の娘たち――現在13歳のラーシャ、8歳のレイチェル、そして3歳のハラ――と共に、シリアからレバノンへ避難することを余儀なくされた。軍が住んでいた村を破壊したからだ。一家は二度と村へ戻ることができなくなってしまった。

それからの2年間は彼らにとって非常に過酷なものであった。ちょうどシリアが混乱期に入った2011年頃、ワリドさんは癌に冒され、それ以来、働くことができずにいた。次女にも深刻な先天性心疾患があり、定期的に医者に診てもらう必要であった。

重い病人を抱えた家族が難民として生き延びることは、二重苦だった。移住など、とても無理に思えた。

レバノンでは医療費が非常に高額だったため、ワリドさんはシリアの比較的安全な地域へ治療のために月1回通っていた。しかし、そこでは必要な治療を受けられないため、戦火にさらされている首都ダマスカスへ転院させられた。戦場近くにあったその病院で1年間治療を受けた。病院は頻繁に砲弾を受け、その度に病院内の人たちはベッドの下に隠れた。恐怖の叫びが響き渡った。その時ワリドさんの心にあったのは、「果たして無事家族の元に帰ることができるのだろうか?」ということだけだった。

癌治療が一通り終わり、定期検診を3カ月後に控えていたとき、病院は破壊され、通院することができなくなった。その6カ月後、ワリドさんは癌が再発している予感がし、レバノンで診察を受けたところ、再度化学療法を受けることを勧められた。しかし治療は高額で、諦めるしかなかった。

ワリドさん一家は、切実に助けを求めていた。国連難民高等弁務官事務所との数回に及ぶ面接の後、待ちに待った一本の電話がかかってきた。人道支援の一環としてイギリスに受け入れてもらえることになったのだった。そして2014年5月20日、ワリドさん一家はマンチェスターの空港に降り立った。

笑顔と暖かい歓迎

辛い過去を語ることは決して容易ではない。ワリドさんは「今日のこのインタビューでたくさんの悲劇を語りましたが、涙せずにはいられません。ここからは私たちの現在の幸せな生活について語りましょう」と続ける。

「イギリスに着いた最初の夜、私たちはホテルで過ごしました。ホテルのマネージャーを見て驚きました。なぜなら、空港で私たちを出迎えて食事を提供してくれた人だったからです。彼は非常に謙虚な方でした。翌日、私たちはこの家へ案内されました。支援者たちは私たちのために1週間分の食べ物を置いておいてくれたし、寝具など、すべてを整えてくれました。一番嬉しかったことは、みんな、とても暖かい笑顔で接してくれたことです。自分たちはここで歓迎されているのだ、という気持ちになりました」

英国で生活を始めてから、ワリドさんはやっと必要な治療を受けることができたが、家族は別の問題に直面した。腫瘍専門医が、ワリドさんの膝下を義足にする必要があると宣告したのである。

「とても難しい決断でした」と妻は言う。「しかし、私たちは運命と運を信じています。アラビア語のことわざに、「 嫌なことかもしれない。でもあなたのためになる(良薬口に苦し)」と言いますから」

父親に抱きつく8歳のレイチェル ©Amnesty International

イギリスでの未来は、祖国より明るい

これまで困難に次ぐ困難を生き抜いてきた一家の生活は、徐々に落ち着き始めている。子どもたちは元気になり、学校にも通っている。やっとごく普通の平和な子どもらしい生活を送ることができるようになったのだ。

ワリドさんは、「この国の教育システムは素晴らしいと思いますし、子どもたちに対する扱いも優れていると思います」と語った。次女のレイチェルはクラスメートと写した写真を自慢げに見せる。「私、学校が大好きなの。先生はとても優しくて親切だわ。3人の親友ができたし、クリスマスにはサンタがプレゼントを持ってきてくれたのよ」

長女のラーシャは、最近学校で保育、心理学、英語と数学を学び始め、新しい友人から英語も学んでいる。「はじめは、ブラッドフォードが好きになれなくてレバノンに帰りたかった。でも今ではここの方がいい。イギリスでの私の未来は、私の国にいるより明るいと思う」と語った。

現在、400万人以上の難民がシリアから逃れ、たった5つの近隣諸国の中で難民生活を送っている。UNHCRは、その中でも40万人は最も緊急性を要すると見なしている。アムネスティは、この40万人を世界の先進国が2016年末までに受け入れよう働きかけている。難民の再定住(そして他の形での人道支援)は、難病などを抱える難民を含め、最も緊急に再定住を要する人々の命をつなげることになる。2017年末には、145万人の再定住受入れ先が必要になるとアムネスティは予測している。

by Khairunissa Dhala(アムネスティ・インターナショナル 難民・移民チーム)

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