エルサルバドルでは流産で刑務所に入れられる

先月、エルサルバドルで1人の若い女性が、7年の獄中生活から解放された。彼女の罪は、流産したことだった。

先月、エルサルバドルで1人の若い女性が、7年の獄中生活から解放された。彼女の罪は、流産したことだった。

この女性、カルメン・グアダルーペ・バスケス・アルダナさんは、強かんされて妊娠してしまった。18歳の時のことだ。流産したために病院に連れていかれると、医者に故意に妊娠を止めたと非難された。そして、明確な証拠もなしに、凶悪殺人の罪で30年の刑を言い渡されたのだ。

エルサルバドルは中絶を最も厳しく法律で規制している国だ。この国では、いかなる中絶も犯罪だ。母親の生命や健康が脅かされている場合でも、強かんされて妊娠した場合でも、胎児に生存の見込みがなくても。

この法律に背き、隠れて怪しげな中絶手術に頼れば、命を落としかねない。裕福ならば私立の医療サービスを受ける金銭的余裕があるし、治療を国外に求めることもできる。法の犠牲になるのは、痛みを感じて初めて診療所を訪れる女性だ。刑事告発を恐れる医者に、警察を呼ばれてしまう。

エルサルバドルは極度に保守的で、カトリック教会の影響力が政策決定にまで及んでいる。10年にわたった内戦終結後の1990年代、再建に向かう不安定な状況の中で、教会は狙いを定めてキャンペーンを張り、1998年に中絶を全面禁止に持ち込んだ。

現在教会勢力は、有力なコネを持ち資金が豊富な中絶反対の圧力団体と、連携している。マスコミも躊躇することもなく中絶した女性を犯罪者として糾弾する。中絶禁止を非難する政治家もいることはいるが、大衆の反発に遭っている。

グアダルーペさんのような事例は珍しくない。エルサルバドルのアドボカシ―グループである「中絶の非犯罪化を求める市民連合」によれば、2000年、2011年の2年間に中絶関連で129人の女性が起訴され、そのうち23名が非合法中絶、26名が殺人で有罪となっている。

また、1999年からの3年間に、中絶により実刑判決を受けた女性が、グアダルーペさんを含め17人いる。「Las 17」として知られる彼女たちの大半は、凶悪殺人の罪を着せられている。刑期が一番長い者は、40年の刑を受けた。

昨年、私は首都サンサルバドル郊外の女性刑務所を訪れた。ここには、この 17人の大半が収監されていた。

エルサルバドルではどこの刑務所も汚く狭い。ここもそうだった。とある推計によると規定の10倍の囚人が押し込まれており、40人が1つの監房に寝起きする。看守の話では、母親と刑務所で暮らす5歳以下の幼児が、100人以上いるそうだ。

昨年4月、法的救済を求める闘いで万策尽きた弁護士たちは、17人の恩赦を求める要請をエルサルバドル議会に提出した。

そして今年1月、議会は最初の裁判で審理手続きに不備があったとして、グアダルーペさんの恩赦を認めた。このグッドニュースに力づけられるものの、議会の巻き返しが懸念される。当局は今のところ何ら公式声明を出していないが、アムネスティに対し「これ以上の恩赦を認める予定はない」とそれとなく示した。

「中絶の非犯罪化を求める市民連合」と活動家たちは、残る15人(1人は2月に刑期満了で出所)の恩赦が拒まれたら、法的手段を探るとしている。

1つの選択肢として、この件をワシントンにある米州人権委員会に提訴できるだろう。アムネスティも20万人の署名を添えて中絶法を破棄するよう、サルバドール・サンチェス・セレン大統領に請願書を出す予定だ。

チリ、ハイチ、ホンジュラス、ニカラグア、スリナムなど他のラテンアメリカ諸国でも、中絶は違法である。

このうちチリでは新たな動きがあった。同国ではピノチェト政権下の1989年に中絶が全面的に禁止されたが、この1月、母体が危うい、胎児が生存できない、あるいは強かんの場合は中絶を認めるという法案を、ミシェル・バチェレ大統領が議会に提出したのだ。

また、昨年12月には同じく全面禁止だったドミニカ共和国が、強かん、近親相かん、胎児に障がいがある、母体に危険がある場合には、中絶を犯罪と見なさないことにした。

こうした動きがエルサルバドルの政治家への圧力となり、中絶全面禁止の見直しになればと期待せずにはいられない。

グアダルーペさんが無罪放免となったのは、ラテンアメリカでの女性の権利を求める長い闘いの勝利である。とはいえ、まだなすべきことは多い。エルサルバドルは、女性の性と生殖に関する健康、そして決定を犯罪視するのをやめ、不当に投獄されている15人を釈放すべきである。彼女たちの悪夢はまだ続いているのだ。

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