トランプ時代の米国はどうなる? 監視社会の行方

恐ろしいことにインターネットの世界では多くのデータが米国を経由しており、日本にいる人でも対象に含まれる可能性がある。

スノーデン事件を描いた『シチズンフォー スノーデンの暴露』は2015年のアカ デミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。 © RADiUS-TWC

トランプ次期大統領は着々と就任準備をととのえ、閣僚の主要ポストを決定した。

その顔ぶれをみるとやはりオバマ大統領と異なる政策を取るようだ。さまざまな点についてオバマ大統領と正反対の方針を取るのか注目される。政府による個人の監視もその注目すべき点の一つだ。

国家安全局による違法な個人情報の管理を批判し、国際社会に向けて監視の実態を暴露したエドワード・スノーデンは、現在ロシアにいる。米国の諜報機関であるCIAや、国家安全局NSAで勤務していた彼は、インターネットに関係するあらゆる通信を当局が把握できるよう大規模な監視網を作り上げていることを告発した。

政府が盗聴などの手段を使い、大量の情報を収集、監視しており、IT企業も監視に協力していたという。

この2013年の告発は、米国に衝撃をもたらし個人情報の取り扱いや監視の在り方に疑問を提起した。

インターネットは米国国内の情報だけを集約しているわけではない。世界中からアクセスでき、情報が伝達されているため、監視対象も際限なく広がった。

メタデータとよばれる膨大なデータを収集し、分析するために当局は新しい監視システムを導入した。メタデータがあれば、ただちに当局は情報を利用し個人情報を把握できることになる。たとえばテロ事件が発生した場合に、犯人が事件現場からどこへ移動したのか、追跡が可能だ。

しかし、もし犯人ではない人が追跡対象になったとしたらどうだろう。

疑われただけで、その人を道路の監視カメラが追い、駅の監視カメラがとらえる。そして、スマートフォンのメールやメッセージの類はすべて収集され、友人や家族との他愛のないやりとりまで、すべて見られてしまう。自分が犯人扱いされなくとも、いったん連絡をとった知人というだけで監視対象になる可能性がある。

恐ろしいことにインターネットの世界では多くのデータが米国を経由しており、日本にいる人でも対象に含まれる可能性がある。

個人情報はプライバシーの権利に含まれ、国家機関から詮索されない自由が保障されている。大規模で無差別な個人情報の収集と監視は、合衆国憲法のみならず国際法で保障する表現の自由に反する。これほど重要な告発であったにもかかわらず、スノーデンは裏切り者扱いされた。

米国へ帰国すれば、祖国を裏切り情報を売ったスパイとして何十年もの刑に処せられる可能性があるという。

オバマ大統領はスノーデンの告発により、無差別な情報収集活動を行わないと決定した。しかし個人情報保護政策の遂行は難しく、新しい政策を打ち出しても個人情報流出事件が起こり対策に追われた。

また、テロ事件に対応できるよう、捜査当局としては個人情報よりも国家の安全を優先したい思惑がある。そのため、スノーデンをめぐる対応では、彼を表現の自由を守るために告発した内部告発者として保護するという姿勢は見られず、その扱いには厳しいものがあった。

スノーデンだけではない。ジャーナリストの取材源の秘匿も困難になった。しかし、こうした内部告発者が守られなければ、個人の人権は保障されない。

トランプ次期大統領にいたっては、スノーデンはスパイだ、裁判のために米国に戻るべきと選挙期間中から公言していた。スノーデンは選挙後トランプ氏の勝利を受け、オバマ大統領時代の政策の変更があるのではと懸念している。

来年1月からトランプ次期大統領の政権になる。国家安全保障と個人情報保護でどう揺れるのか、舵取りが注目される。

スノーデンが監視システムを告発したのは2013年、日本でも秘密保護法の議論が行われていたころである。そして秘密保護法が施行されて2年が経つ。

個人情報の取り扱いについて、今後の対応が注目されたが今のところ目立った動きはない。しかし、今月1日に通信傍受法が改正され、捜査対象となる犯罪の数が増えた。少しずつ日本も監視社会へと変化しつつある。スノーデン事件が起きたのは遠い国のこととして、扱うべきではない。

私たちの身近な問題なのだ。

(アムネスティ・インターナショナル日本)

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スノーデン事件は終わっていない 今こそ自由を!

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